表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
種の衝突  作者: 宮沢弘
第一章: 歴史観
4/26

1−4: クローからの贈り物

 バンスマンは、マーシパルの料理が並べられるのを待ってから、ウェイターにメニューを頼んだ。画面をまた何度かスライドし、画面の中の料理を眺めた。

「ピンチョスを大皿で頼めるかな。軽いものの盛合せで」

「ハム、フルーツ、野菜を主なものとしてよろしいでしょうか?」

「あぁ、それがいいな。それは任せるとして。飲み物は、お勧めはあるのかな?」

「口当りの軽いものでしたら、赤でも白でもかまわないかと思います。あるいは、ワインに合わせてピンチョスの内容を、ある程度は変えることもできますし」

「喉を潤す程度のものでいいし、口が寂しいのを紛らわす程度のものでかまわないんだが」

「では、そのようなものとしてこちらで選ばせていただいてよろしいですか?」

「うん、それで頼む」

 ウェイターは席の三人を眺めると言った。

「ワインは、ボトルにしましょうか。それともデカンタでよろしいですか? もしよろしければボトル・サイズのデカンタもございますが」

 バンスマンはフォイラに目を移した。フォイラはうなずいていた。

「じゃぁ、それでお願いしようかな。うん。それで頼むよ」

 ウェイターはメニューを受け取ると、会釈をしてテーブルから離れて行った。

 そのやりとりの間、マーシパルは塩釜に苦戦し、またステーキの切り分けに苦戦していた。

「新大陸のワインは酸味が特徴なのかな?」

 バンスマンはフォイラに訊ねた。

「そうですね、北はその傾向があるかもしれません」

「南はまた違うのか。そっちも試してみたいものだが」

「そのためには、この会議をどうにか収めないとな」

 マーシパルが割り込んだ。

「それでな、さっきの私たちハイディと君たちニーが、クローと衝突した歴史があるのではないかという話なんだが。それだけというわけでもないだろう」

「ただ迫害していただけということもないだろうが」

 バンスマンは天井を見上げながら答えた。

「私たちハイディは石槍を使いはじめた。それは君たちニーも使った。そしてニーが使っていた石器のナイフは、ハイディーのものよりもクローのものよりも使いでが良かった。そして、いいか、ここが大切なことだが、ニーのナイフはハイディも使っていた」

「遺跡から発掘されるものを見るとそうらしいな」

「では、ハイディはどうやってニーのナイフを手に入れていたのだろう?」

 マーシパルは肉を口に運び、そしてワインを飲んだ。

「たしか、現地で作られた、つまりハイディが作っただろうものと、ニーとの交易から手に入れたものもあるらしいとは聞いたことがあるが」

「交易と呼べたのかはわからないが。すくなくとも交流の結果ではあったらしい」

 マーシパルは一旦言葉を区切った。

「では、クローから私たちに伝わったものはないのだろうか」

「たしかに」バンスマンが答えた。「骨器の縫い針、動物の腱や腸を使った糸、そしてなによりあれだな。投擲具」

 マーシパルはうなずいた。

「ニーのところでは投擲具もいくぶん大型化していたようだが。これらは石器と違い、そのまま十万年も残るということはすくない。だが、クローの集落の遺跡から発掘されるその古さと多さから考えると、それらはクローが発明したものだろう」

 バンスマンとフォイラはグラスに残っているワインをちびりと口にした。

「三種は、衝突もあったかもしれませんが、交流もしっかりあったわけですね」

 フォイラはそう言い、うなずいた。

「そう言えば、フローにも骨器の縫い針はあったんじゃないか?」

「えぇ。ありましたね」

 マーシパルの問いにフォイラが答えた。

「ただ、クローから直接伝わったのか、ニーを経由したのかはわからないのですが」

「それに、植物の繊維による糸は、フローも独自に発明していただろう?」

 バンスマンが訊ねた。

「植物の繊維による糸については推測ですね。織機でもあれば確実なんでしょうけど。それに独自に発明したのかもわかりませんが」

「織機か。十万年前にそんなものがあったら歴史上の謎にしかならないな」

 バンスマンは笑った。

「さっき君は、私たちに交流があったと言ったが、フローも決っして孤立していたわけじゃないということだ」

 マーシパルが肉を飲み込んで、言った。

「そうですね。ですが、それよりも、ハイディ、ニー、クローは、衝突ばかりしていたわけではないということを考えてください。さきほどクローの遺伝的要因の話が出ましたが、衝突によって特定の遺伝的要因が強く残ったと、簡単に言えるものではないと思いますよ」

 バンスマンとマーシパルはフォイラをみつめた。

「君たちは、」バンスマンが、間を置いて言った。「本当に穏やかな種族なんだな。クローとのつい最近の歴史を経て、それでもそう言えるというのは」

「いや、たんに私がその歴史を経験していないというだけですよ」

 フォイラはそう言って笑った。その笑い声に、ピンチョスとワインを載せたワゴンのキャスターのカタカタという音が重なった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ