5−2: 不信任
数秒とかからずに、結果が出た。15票の不信任だった。
「これではっきりしたな」
北のクローが続けた。
「すくなくとも、この場にいるハイディ、ニー、フローは結託している。だから自分たちは信任しても、他のヒトは不信任になるわけだ」
「こうは考えられませんか?」
ニー・クランスが応えた。
「推薦されたヒトについて、調べている時間がない。だから不信任にするしかないと」
「クローの推薦では不充分かね?」
「ニーア・ホーマー、この点については南北のクローはまとまったということなのかな?」
バンスマンは、また後を見て訊ねた。
「南のクローが口を出さないところを見ると、そうかもしれないわね」
「誰の推薦であろうと、不充分ですね」
「クローを信用できないということかな?」
「そういう話ではなくてですね、私自身で確認できなければ信任のしようがないという単純な話です」
「単純な話というならこちらも同じだ。クローを信用するのかしないのか。それだけの話だろう?」
ニー・クランスは首を振った。
「先程、ニー・バンスマンのモデルを検討しましたが。それにもとづいて答えましょう」
ニー・クランスは、バンスマン、ニーア・ホーマー、フロー・フォイラ、そしてハイディ・マーシパルに目をやった。
「モデルとしてですが。まず、ハイディ、ニー、フローともに、その社会は個人の間の繋りで形成されている。対してクローは小規模の社会、たとえば会社とか、そういうものを基礎として社会を認識している。この点はいいですか?」
「個人の間の繋り? そんな膨大な組合わせにもとづいてかね?」
「いえ、はっきり言うと、その組合わせはさして大きなものではありません」
「おい、クランス」
バンスマンはクランスをつついた。クランスはそれにうなずいた。
「それはともかく、個人の間の繋がりで形成されています。ですから、現在クローが主張しているような、クローを信用できないのかという疑問は、ハイディ、ニー、フローともに問題とはならないのです。先にも言いましたが、推薦されたフローについて調べる時間がない。だから信任のしようがない。だとすれば不信任にするしかない」
ニー・クランスは南北のクローを眺めた。
「ね? 簡単な話でしょう?」
「では、ハイディが進行することに異議が出ないのはなせだ!?」
「ハイディがはじめようとしたからでは? 先程の信任投票でもわかるとおり、とくに誰かでなければならない理由はありません。ハイディが話を進めはじめた。だから、それでかまわないとしている」
ニー・クランスはもう一度南北のクローを眺めた。
「そういうことでしかないと思います」
「すこしよろしいかな?」
南のクローから声が挙がった。
「どうぞ」
ニー・クランスが応えた。
「思うに、そちらの十五人が互いに信任や信用しているとしよう。だが、どのように議論を進めたいのか、そしてどのような結論に落ち着けたいのか。そういうところには、各々違いがあると思うのだが」
話しはじめたのは、南のクロー、それも老人と言えるくらいのクローだった。
「そうでしょうか? この会議においては十五人の意思はおそらく合致していると思いますが」
「それなら、ハイディ、ニー、フローは、あるいはここにいるハイディ、ニー、フローは言わば全体主義なのかね?」
「全体主義?」
ニー・クランスはしばらくデバイスとやりとりをした。
「あぁ、全体主義というと、南部連邦が一時期取っていた政策ですね。えぇと、この点はよろしいですか?」
「確かにそうだ。だからこそ、全体主義の悪しき面もわかっている」
「むしろ逆でしょうね。個人の考えが、この会議においては一致している。それだけの状況だと思いますが。全体主義というならば、南北の現在のクローの社会はどうでしょう? 社会全体、つまりは連邦全体ではないかもしれないが、小規模の社会では全体主義がはびこっているのでは?」
「おい、クランス、注意しろよ」
バンスマンはふたたびクランスをつついた。クランスはそれにうなずいた。
「千年間、ニーはクローを、カーペンターを理解しようとしてきた。科学技術の面においては、それは結果を出していると思います。ですが、全般的となると、まだ理解できているとは言い難い」
クランスは南北のクローを見渡した。
「ともかく現在、南北ともに軍事的行動は行なわないと言ってくれました。そして、すくなくともハイディ、ニー、フローも、そうあって欲しいと願っているでしょう。そして、人類連合におけるクローの行動にも、あまり無茶をしないでいただきたいとも。たとえば、五人の定員のところに、五十人ずつ出席するというのは、いくらなんでもひどいとしか言えない。そういう面も含めて、クローのありかた、そしてハイディ、ニー、フロー、クローのありかたを検討して欲しいと願います」
ニー・クランスはハイディ、ニー、フローの席に目をやった。
「それでは、ハイディ・マーシパルに進行を戻したいと思います」




