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種の衝突  作者: 宮沢弘
第四章: 社会性指標
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4−4: 再帰し組み変わる三角形

「あぁ、このままだとな。だが、それじゃぁクローの、社会の理解に対しての負荷が大きと思う」

 バンスマンはハイディ・マーシパルの呟きに応えた。

「それに……」

 ニーア・ホーマーがリーガルパッドをバンスマンの前から引き寄せた。

「この下のほう、三角形が再帰的に現われるように読めるけど」

 ニーア・ホーマーは、左の辺の中点と右下の頂点を結ぶ線を引いた。

「こういうふうに、三角形が、つまりは社会の単位が組み変わったりもするわね」

「そう、そこがクローの社会の理解が面倒な理由の一つでもある」

 クランスが付け加えた。

「だが、クローはそれをうまく使っているのではないかと思う。とくに再帰性のほうだが。組合せの数の方がノード数よりもずいぶん多いわけだが、それをすべてノードと同じように扱っているわけでもないだろう」

 クランスはニーア・ホーマーからリーガルパッドを引き寄せた。

「この小さい三角形を考えるのではなく、これらを含む大きい三角形で代用するとかな」

 クランスはそれぞれの三角形をペンの尻で叩きながら言った。

「それはつまり……」

 そう言いかけ、クランスはリーガルパッドをバンスマンに戻した。

「そう、北のクローにとっては、南部連邦は大きな一つの三角形だ。そして南のクローにとっても、北部連邦は大きな一つの三角形だ。おそらく、おおよそのクローにとって、おおよそ日常はそうなんだと思う」

「ステレオタイプ、あるいはある種のアーキタイプで、相手を想定しているわけね」

 ニーア・ホーマーはそう言い、バンスマンはそれにうなずいた。

「だとしたら、南北を合わせて一つの社会だという認識に至れば、クローの振舞いも変わるのだろうか?」

 ハイディ・マーシパルはリーガルパッドを指差した。

「そこですが」

 ニーア・ホーマーが応えた。

「現状を大きく見れば、二つの三角形間での緊張と言っていいでしょう。これが一つの三角形になった場合、南北という大きなステレオタイプで処理していまうことはできなくなります。おかしな言いかたでしょうが、二つの三角形であることが、クローにとっては社会を理解しやすくしているし、この緊張があるから、緊張の上での安定というようなものを保っているのかもしれません」

「だが、クローとしての社会をなんとか構築してもらわないと…… この会議の参加人数のように、いろいろとあるが。それを急いでどうにかするなら、後見種族というやりかたも考えていいとは思うのだが」

 ハイディ・マーシパルは皆を見渡した。

「クローの社会が、大きな二つの三角形があることで、どういう形であれ安定しているとしましょう」

 クランスが応えた。

「これが、一つの三角形になった場合、どうなるかという疑問はありますね。その一つの大きな三角形は、唯一の三角形ではないのですから」

「えぇ。内部に無数の三角形を含んだ三角形です」

「ニーア・ホーマー、では最悪に近い状況としてはどういうことが考えられるだろうか」

 ハイディ・マーシパルはニーア・ホーマーを見て言った。

「様々な規模と、様々な社会間での抗争という状況でしょうか」

「フロー・フォイラ、なにか補足できることは?」

 ハイディ・マーシパルが訊ねた。

「そうですね。ニーア・ホーマーの意見どおりかと思います。フローが奴隷だった時代の、祖先の記録から見ても、様々な規模の抗争があり、誰と手を組むか、つまりはどういう社会の間での抗争なのかも流動的でした」

「すると、むしろ手に負えなくなると?」

「かもしれません。二つの大きな三角形があるということが、クローにとっては社会を理解する大きな助けになっているということはありえると思います」

 フロー・フォイラの言葉を聞いて、ハイディ・マーシパルは溜息をついた。

「まだ当面はこういう状況か。だが、まぁ、人類連合の会議への参加人数については、ともかくすこしずつでも進めないとな」

 ハイディ・マーシパルはテーブルの上からニー・バンスマンに手を差し出した。

「ともかく、バンスマンの荒っぽい理屈は、たしかに理解の助けになりそうだ」

 バンスマンも手を差し出し、握手をした。

「さて、結局昼食の時間に近くなったが、どうしよう? このまま昼食にするのもいいと思うが」

 マーシパルの言葉に、みなはうなずいた。


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