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種の衝突  作者: 宮沢弘
第四章: 社会性指標
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4−3: 社会性指標

 ハイディ・マーシパル、ニー・バンスマン、ニー・クランス、ニーア・ホーマー、フロー・フォイラの五人は、レストランの個室で丸いテーブルを囲んでいた。

「ハイディ・サマールは呼ばなくてもよかったのですか?」

 フロー・フォイラが訊ねた。

「ハイディは他に三人参加しているから、サマールを呼んでもかまわないが。会議の進行をしたがるかという話もあるからな。サマールは外しておいたほうがいいだろう」

 マーシパルは答えた。

「それで、さっそくモデルを教えて欲しいのだけど…… その前につまむものくらいは注文しましょうか」

 ニーア・ホーマーは入口近くの壁にあるインターホンで、注文を並べ立てた。

「それで六芒星と言ったが、どういうことなのかな」

「あぁ、クランスの言うように、そこから話そう」

 バンスマンはリーガルパッドをテーブルに置き、胸ポケットからペンを取り出し、大きく三角形を描き、三つの頂点に丸を描いた。

「これは、ある社会だ」

 その上に大きな逆三角形を描いた。

「こう描くと六芒星になる」

 バンスマンはリーガルパッドを一枚めくり、上半分に、また大きく三角形を描いた。また、三つの辺の中点にも丸を描いた。三つの中点を結び、小さい三つの三角形と一つの逆三角形を描き出した。また三つの頂点と三つの中点に丸を描いた。

「こうすると、六芒星ではないが、それでも二つの三角形がある」

 バンスマンは四人を見渡した。

「そこで、私たちの社会から話をしよう。たとえば、この三角形がこの部屋だとしよう。丸は六個あるが、まぁ仮にハイディー・サマールもいるとしよう。さて、そうだとすると、私たちの社会はどういうものだろう?」

 バンスマンはペンを載せたリーガルパッドをテーブルの真中に押し出した。

「私たちの社会だとしたら……」

 フロー・フォイラがリーガルパッドを引き寄せた。

「ここで三角形に見えるのは三角形ではなく、ノードの繋りですね。そして……」

 フロー・フォイラは上の頂点から底辺の中点と、直接結ばれていない丸の間にも線を加えた。

「ノードの繋りなら、こうなるでしょう」

 さらに、リーガルパッドの下半分に大きく三角形を描き、また三つの中点を結ぶ線を描いた。

「そして、クローの場合、この三角形の一つ一つはノード間の繋りではなく、一つの社会でしょう」

 フロー・フォイラはリーガルパッドにペンを載せ、バンスマンに送り返した。

「そう。ただし、クローの社会は下のほうだとしても、クローの社会に上のほうがないわけじゃない」

 リーガルパッドを受け取り、バンスマンは付け加えた。

 入口がノックされ、ニーア・ホーマーがドアを開けると、ワゴンを押したウェイターが入って来た。

 五人はしばらく、軽食と飲み物がテーブルに並べられるのを眺めていた。

 ウェイターが部屋から出るのを待って、バンスマンが話を続けた。

「リーマン、昨日の計算をみんなに送ってくれないか?」

 ほかの四人は接続を承認し、ディスプレイを目の前に回し、内容を確認した。

 また、軽食と飲み物をそれぞれ眺め、フロー・フォイラは早速それらを口にした。

「ノード数からの二つの組合わせとノード数からの三つの組合せが中心になるが。ホモ・属の群はおよそ150個体ということだから、その列Eを見てくれ」

 ほかの四人は各々のデバイスに列Eの計算を訊ねていた。

「おもしろい計算をしているな」

 ハイディ・パーシマルが訊ねた。

「あぁ。だから、式のその先の変形はせずに、対数の比としてだけ読んで欲しい」

「そう読むとしてだが、これは意味のある計算なのか?」

「いや、意味はとくにないかもな。ただ、二つの組合せ、つまり私たちの社会の認識の仕方に対して、クローは四倍程度の脳の能力の資源を使っているという仮説だと思ってもらえればいい」

「四倍ですか? ですが、社会についての認識が私たちより秀でていると考えるのも、難しいように思えますが」

「それについては、あとで話すよ、フォイラ。じゃぁ、私たちの1、クローたちの4はどういう値なのか。リーマン、ノード数からの五つの組合わせの常用対数を追加してくれ。その列をFと称する。また、その結果をみなに転送」

 ほかの四人は新しい列を確認した。

「これは、霊長類での最小のクラスタが5個体としての計算だ。ノード数が150の場合、およそ9と考えてくれ」

「これは、単純にこの数字で見ると、私たちは8の余剰があり、クローには5の余剰があると読んでいいのかな?」

 クランスが訊ねた。

「あぁ、意味があるとして、そして読もうとするならそうなると考えている。マーシパル、昨日、知性に限界があるなら、その知性の使いかたが問題になると言ったのは覚えているか?」

 ハイディ・マーシパルはうなずいた。

「私たちは社会の理解に9に対する1を使い、クローは4を使う。そうだな、そういうことだとしたら、1や4は種における社会性の指標かもしれない」

「ちょっといいかな」

 クランスが割り込んだ。

「マジックナンバー7±2というのを知っているかな」

「いっときに頭に置いておけるチャンクの数ですね。ホモ属に共通のようですが」

「あぁ。バンスマンは五つの組合せというのをとくに意味もなく選んだんだろうが、そこから出て来た9というのは7+2の9に、似た数字ではある」

「そこまでの意味があるとは思ってはいないが。だが、出てきた数字を単純に見るなら、クローの余剰の知能は、私たちよりもすくなく、それでやりくりしているということになる」

 バンスマンは補足した。

「これは、クローの前では話せないな」

 ハイディ・マーシパルが軽食を飲み込み、呟いた。


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