3−5: 二つの三角形
30分ほど、北と南のクローは話し合っていた。だが、結局今日の休会を申し出た。
ハイディ・サマールはそれを認め、ハイディ、ニー、フローは会議場をゆっくりと出て行った。
ニー・バンスマンは、ハイディ・サマール、ハイディ・マーシパル、そしてフロー・フォイラにロビーで挨拶をすると、ホテルの自室へと戻って行った。
脇に挟んでいたリーガルパッドを机に置き、四角形が描かれている一枚と、入れ子になった三角形が描かれている一枚を剥ぎ取った。ポケットから、すでに剥ぎ取ってある2枚を取り出し、計4枚のシートを机の、リーガルパッドの横に並べた。
「やはり三角形がモデルとしてはいいように思うんだが」
ペンを取り出し、大きな三角形を描いた。
「なんだ、あるじゃないか」
そう言い、三つの頂点の一つを共有する、三つの小さな三角形を描いた。中央部には六角形が残った。
「いや、余計なスペースがあるな」
ペンの尻でリーガルパッドを叩いた。
「余計なスペースがなければいいわけだ」
バンスマンは、また一枚剥ぎ取り、新たに大きな三角形を描いた。各辺の中点に点を打ち、そしてそれを結び、三角形を描いた。そこには三つの小さな三角形と、一つの逆三角形が現われた。
バンスマンは六芒星が描かれた一枚を見た。
「クランス、君はやっぱり鋭いな。まぁ六芒星じゃないが、二つの三角形と言えば、たしかにそう言えるわけだ」
そう言い、また目をリーガルパッドに戻した。
「で、これがなんなのかが問題なんだが」
バンスマンは、またペンの尻でリーガルパッドを叩いた。
「大きい三角形も、小さい三角形も社会だ。頂点、ノードは個人として。小さい社会が集まって大きな社会を作る。そこまではいいんだが」
バンスマンは椅子から立ち上がり、冷蔵庫から水を取り出して、飲んだ。
「社会か」
バンスマンは机に戻り、三角形を眺めた。
「これはクローの社会だ。簡単に描いた社会だ。それなら、私たちの社会は」
もう一口、水を飲んだ。
「私たちの社会は、こうじゃない。じゃぁ、こう描くとしたら、どうなる」
バンスマンは上の頂点から、下の辺の中点に線を引いた。
「私たちの社会は個人の繋がりだ」
そう言い、三つの三角形と一つの逆三角形では結ばれていないノードを結び、新たに6本の線を加えた。
「複雑になったな」
描いた図をしばらく眺めてから、その一枚を剥ぎ取ろうとした。
「いや、この図にこだわる必要はないのか。問題は三つのノードの組み合せと、二つのノードの組み合わせだ」
そう言い、剥ぎ取ろうとした一枚を戻した。
「リーマン、ちょっと表計算をしたい」
バンスマンは後ろに向けてあったグラスを前に回した。
「そうだな、ノード数として、20から100までは10刻みで。100から1,000までは100刻みで。150だけは例外として入れてくれ。1,000から十億までは10倍ずつ」
グラスの左端に、指示した数字の列が現われた。
「次に、ノード数からの三つの組み合わせを計算してくれ」
「この計算でよろしいですか?」
リーマンの声とともに、グラスには「nC3」と表示された。
「あぁ、それでいい」
バンスマンの答えとともに、ノード数の横に結果が表示された。
「よし、もう一つ。次に、ノード数からの二つの組み合わせを計算してくれ」
「この計算でよろしいですね?」
グラスには「nC2」と表示された。
「そう、それでいい」
バンスマンはノード数が150と表示された行を見た。
「ノード数が150のところをズームしてくれ」
| ノード数 nC3 nC2
| 150 551,300 11,175
ディスプレイにはそのように表示された。
「50倍か。じゃぁノード数が1,000のところをズームしてくれ」
| ノード数 nC3 nC2
| 1,000 166,167,000 499,500
「数百倍か。まぁ、そう単純じゃぁないよな。ズームをすこし戻してくれ」
バンスマンは20行ほどが表示されたシートを眺め、俯瞰した。
「こういうときは、対数を取るのが常套手段だが。それに意味があるのか?」
バンスマンはときに一部をズームし、ときに全体を俯瞰した。そして、ときに水を飲み、計算結果を眺め続けた。




