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種の衝突  作者: 宮沢弘
第三章: 三角形
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3−4: 人類とデバイス

「何だこれは!?」

 南北のクローから声が挙がった。

「歴史の捏造も甚だしい!」

  しばらくのクローの騒然とした様子に対し、他の種族は静かだった。すくなくともごく一人を除いて。

「捏造? どこがでしょうか? エンドロールをもう一度確認していただければ、安易な捏造ではないことは明かでしょう」

 サマールはゆっくりと言った。

「仮に捏造でないにせよだ! なんだ、このふざけた資料は!」

 南北のクローは声を揃えて抗議をした。

「その点についてならば、ハイディ・マーシパルとニー・バンスマンには、すこし説明をお願いしましょう」

 しばらくの沈黙があった。

「では、こちらから説明しましょう」

 ハイディ・マーシパルが応えた。

「まず、はっきりさせておきたいのは、この資料の構成や演出について、私もニー・バンスマンも、一切関与していません」

「じゃぁ、その、なんだ。オープニングの悪ふざけはなんだ!?」

 南のクローが声を挙げた。

「それについては、デバイスの学習の結果です。このような舞台での映像資料として、映画という媒体を有効と選択し、それに従って構成した。そういうことです」

「デバイスの作った映像を確認しなかったのか!? たかがデバイスが作った資料だぞ!?」

「おかしなことを言いますね?」

 マーシパルは訊ねた。

「あなたがたは、デバイスの出力をすべて検証なり確認するのですか?」

「あたりまえに決っているだろう!」

 南のクローが応えた。

「ふむ。だとすると、部下からの報告もすべて検証なり確認するのですか?」

「あたりまえのことを言って、遊ぶのはやめてもらいたい!」

 やはり南のクローが応えた。

「なるほどなるほど。そうすると、部下の人生、まぁ一日でもかまわないが、それをすべて検証なり確認すると?」

「そんなことはできるはずがないだろう!」

 南のクローは一段と声を高めた。

「なぜですか?」

「いいかげん、くだらない話はやめてもらいたい。一人につきっきりでなければ、部下のすべてを把握するなど不可能だ。だから報告がある」

「そうすると、デバイスの出力についてはすべてを検証なり確認する。だが、人間に対してはそうではないということですね? それはなぜですか?」

「人間とデバイスを比べることはできないだろう」

 北のクローが若干穏やかな声で応えた。

「わかっていると思いますが、そこは問題ではありません」

 マーシパルは北のクローに顔を向けた。

「どれほどのデータなり情報を処理しているのか、それが問題です。さきほど、報告で済ませるという話がありましたが、それで充分な分析や理解が可能ですか?」

「分析と理解をするのが上司というものだ」

「なるほどなるほど。クローは極めて限られたデータや情報から、その全貌を詳細余さず理解できると」

 マーシパルはハイディ、ニー、フローを見渡した。

「私たちには、それは不可能だ。だから、デバイの能力を把握した上で、まかせる」

「我々は最後に現われたホモ属だからな。知能だとか知性がそちらとは違うんだろう」

 やはり北のクローが応えた。

「すばらしい! それこそ欲しかった言葉だ」

 マーシパルは声を大きくして応えた。

「だが、そうすると疑問も現われる。南北の相互理解ができていないのはなぜですか? 今、話したことがらにもとづき、理詰めで答えていただきたい」

 クローは、北と南のそれぞれの喧騒が会議場に満ちた。

「答えられたら、たいしたものだ」

 バンスマンのデバイスからマーシパルの声が漏れた。

「答えられる問題とは思えないが」

 バンスマンはデバイスに応えた。

「もちろん、答えられるはずがない。なにしろ、なにもかも理解し、分析していると言ったからな。北にとってなら、南の様子はわからないとか、南がなにを考えているかわからないという答は、即座に却下だ」

「それよりましな答えはあるのか? あるいは想定しているのか?」

「想定していないし、あるとは思えないな」

「つまり視野の話にしたいわけだ」

「あぁ。地理的にだが。それは歴史的なものにも繋がるだろう」

 バンスマンはしばらく考えた。

「それを指摘したとして、受け入れるだろうか?」

 今度はマーシパルがしばらく沈黙した。

「受け入れないだろうな」

「お二人とも急ぎすぎのようにも思えますが」

 フォイラの声が割り込んできた。

「それはわかっているんだ」

 マーシパルが応えた。

「だが、どこかで指摘し、契機にする必要がある」

「ここがいい機会だと考えられたわけですね?」

「ここが出来事としてはいい機会なのかはわからないが。サマールがクローの間でのゴタゴタに人類連合が煩わされるのは不本意だと言っただろう?」

「えぇ。言いましたね」

「その言葉が出たことが、いい機会だと思ったというところかな」

「それにフローが後見に適しているとも言いましたが。」

「いやかい?」

 バンスマンが訊ねた。

「正直なところ、ちょっと勘弁してもらえればと思います。理由は、まぁ歴史なんですが。クローが受け入れるとも思えませんし、仮に受け入れたとしても、問題が生まれることしか思い付きません」

「まぁ、それはそうだろうなぁ」

 バンスマンはそう応えた。

「だが、まぁマーシパルはいい所を突いたかもな。知性には限界があるというところだが」

 バンスマンはしばらく黙った。

「なぁ、知性に限界があるなら、その知性の使いかたが問題になるよな?」

「なるだろうな」

「マーシパル、私が今考えている、荒っぽい理屈についてのヒントか?」

「ヒントといういうことを意識しているわけじゃないが。ヒントにはなるかもしれないな」

「ふむ」

 バンスマンは黙り、クローからの結論が出るのを待った。


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