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その⑥

 恭也は家族との朝食――自分にとってはただの他人でしかないが――を楽しんだ。

 今は鏡の中にいる自分とまったく同じ記憶を持っているために、どのような言動をとれば怪しまれないかは容易に判断できる。故に、彼らから訝しむような類の視線を頂戴することはなかった。

 

 外に出ると、気持ちがいいほどの快晴だった。雲に遮られることのない朝日が心地よく体に染み渡る。

 いや、たとえ土砂降りだったとしても彼の心は高揚していただろう。

 

 そのような気持ちにさせる理由はたった一つ。

 千尋という一人の少女の存在だった。

 

 おもむろに、恭也は頭上へと手を伸ばす。


「千尋……君は僕のものだ」

 まるで何かを掴むかのように、天に向かって挙げられた手を握りしめる。 

 

 容姿、記憶と全く同じように生み出された、一見オリジナルそのもののように思える存在。

 が、何故か千尋に対する感情はそのように反映されなかった。

 それだけは本物の自分よりも強く、そして歪められていた。

 

 恭也は町をあてどもなく歩き回ることにした。目的地は特になく、気の向いた方向へと足を向ける。

 新しく自分の住むことになった世界を見てみたかったのだ。ただ、無意識のうちにあの廃校とは逆の方へと足を向けていた。

 

 鏡の中にいる自分に対しては既に手を打った。

 自分でも理由は分からないが、なんとなく携帯電話などの外部との連絡手段は取り除いた。

 もしこちらの世界にそれらを使用することで干渉されることを恐れてだ。

 

 だから、自分の勝利は揺るがない。

 そう確信していた。


 右手につけた腕時計に目をやる。


「ちぇっ、まだだいぶ時間があるや」

 昨晩、恭也が予想した通りに二人は今日再び会う約束をしていた。

 今からおよそ一時間後には彼女と会うことができる。


 目の前の十字路をなんとなく右に曲がったとき、突然の着信音が彼の思考を停止させた。

 それは千尋からだった。


「もしもし?」

「あっ、恭也? ごめん、予定変更。今すぐ私の家の前にきて!」

 彼女はやや興奮した声でそう告げると、一方的に通話を切った。


 着いてみると、彼女は既に家の前で恭也を待っていた。


「どうしたの? 急に……」

「実はさっきね、昨日話したサイトに新しい書き込みがあったの! ほら、三階の左手側に物置みたいな場所があったでしょ? 『呪いの鏡』はそこにあったんだってさ、なんか悔しくない? 気が付かなかっただけで、すぐ近くにあったんだよ?」

「それは……」

 偽者の表情が凍り付いた。


「ねぇ、これからもう一度だけ行ってみようよ!」

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