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その①

 既に日は沈み、その支配権は光から闇へと移った。

 近くに民家も街灯もないその場所を、唯一闇夜に浮かぶ満月が照らしだす。

 

 そこには木造建ての校舎が存在した。

 月明かりにぼんやりと浮かびあがるそれはかなり昔に廃校となり、今ではほとんどの者の記憶から忘れ去られてしまっている。

 

 校門の近く、さらに二筋の光が加えられる。


「ほら、ここから中に入れるみたいだよ」

 そう言って千尋は閉ざされた鉄柵を指さす。

 

 恭也が懐中電灯の光を当てると、そこには大人がしゃがんで何とか通れるほどの隙間が空いているのが見える。

 それは時という不変の法則に逆らえず、自然にできたものの様だった。

 上に光を動かしていくと、門全体が赤茶色に錆びついてしまっていることが分かった。


「……結構時間が経ってるみたいだな」

「恭也ー、置いてくよー」

 視線を下に戻すと、既に千尋は柵の穴を潜り抜けてしまっていた。


「そんなに焦らなくてもいいだろ」

「だって寒いじゃん、ここ。何か空気がひんやりしてるよ」

 門の向こう側に立つ少女がぶるりと身を震わせる。


「……じゃあ来なきゃよかったろうに」

 千尋に聞こえない程度の声量でそう呟くと、恭也も門にぽっかりと空いた隙間を抜けた。


 二人は高校の夏休みを利用してきもだめしに来ていた。いや、恭也からすれば「連れてこられた」という表現の方が正しい。毎回心霊スポットとやらをオカルト好きの千尋が調べてきては、そこに行く際に何故か自分も連れ回されるのだ。

 今回も千尋があるサイトから情報を仕入れたらしく、例にもれず付き合わされている。


 何でも二人の住む町の近所だったとのことで、一時間ほど前に電話で呼び出しをくらい、懐中電灯を片手にそのまま家を出てきた。

 

 道中で今回の目的を聞いたが、それはなんともありがちな噂だった。


『呪いの鏡』。その鏡に映し出されたものは近いうちに死を迎える、といったもの。

 その鏡をこの廃校舎から探し出すことというのが今回の目的らしい。


「それで、この校舎の中にはどうやって入るんだ? 窓ガラスを割って、とかは御免だぞ」

「うーん、玄関から入れるって書いてあったんだけど……」

「玄関?」

 鍵がかかっていないということだろうか。

 そんな馬鹿な。

 

 言い出した千尋自身も確信が持てないらしく、不安そうな表情を見せている。

 恭也は玄関に取り付けられた横開きの扉の正面に立ち、思い切り引いた。


 がちっと音がするだけで、全く扉は動かない。何度やってみても同じだった。

 予想通りの結果にため息をつき、


「やっぱり鍵が掛かってる。入るのは無理そうだな」

 と、扉に背を向けた時だった。


 突然、背後で物音が聞こえた。


 すぐさま恭也は振り返るが、何も変わった様子はない。


「……いや、まさかな」

 自分でも馬鹿だとは思いながらも、再び扉と向き合う。

 力を入れて扉を引いてみる。


 再びがちっという音がする――ことはなく、驚くほど簡単に扉は開いていった。


「何だ、開いてるじゃん。びっくりさせないでよね」


 千尋が校舎へと入って行っても、恭也はしばらく呆然としていた。


 間違いなく、鍵は掛けられていたはずだった。

 千尋は不思議がる様子もなく、どんどん奥へと進んでいく。

 さっきの音が聞こえていなかったのだろうか。


 千尋の呼び掛ける声で我に返り、急いで彼女の後を追う。

 一人で行かせてはまずい、と心が叫んでいた。

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