プロローグ
ドンッ、ドンッ―――――――。
遠くから大きな銃声が聞こえる。
火縄銃の火薬の匂い、それ以上にむせ返るような血の匂い。
最前線からは大分距離がある。
それでも、こんな光景になれていない俺には結構堪える。
周りは胴当てをきた兵士たちが、忙しそうに各隊への伝令に走りまわっている。
また、逆に各隊からの報告の伝令がこちらに走りよりひざまずく。
「竹中半兵衛どのに、安藤守就さまから伝令!織田衆は伏兵により浮き足立ち、織田先き手は既に半壊、このまま第二、第三の伏兵により、織田に奇襲を仕掛けるとのことです!」
と、目の前の伝令は、そう『俺』に、報告していく。
「では、安藤どのに先手を崩してからの追撃はかまいませんが、開けた地形では戦わないように伝えてください。今いるような入り組んだ地形で、織田の鉄砲を半無力化していますが、広い場所で戦えば織田鉄砲隊による攻撃をまともに食らってしまいますから。」
「ははっ!」
伝令は、俺の言葉を受け、走りだす。
ひとまず、周りに誰もいなくなったのを確認すると。
「はぁ~、もう……。」
なぜ、こうなってしまったのだろうか?
二十一世紀の高校生だったはずの俺が、戦国時代、群雄が割拠し、日本全国で火花が散り、人が死ぬ。
そんな場所、時代で、この采配を手に、なぜ軍師として戦っているのか?
「思い返せば、あのクソ親父のせいだな……。」
現代のクラスメートたちが聞いたら、びっくりするようなことを言葉遣いで嘆くと、戦場へと目を向けるのだった。
僕の名前は竹中重治、仲のよい友人からは歴史上の偉人から「半兵衛」などというあだ名で呼ばれている。
あの、豊臣秀吉の軍師として戦国の世を生きた天才、竹中半兵衛重治からとられたあだ名だが、実際の名前の由来もそこから取られているらしい。
僕は、私立大御堂学園の高等部3年に通う高校生だ。
大御堂学園は、在学中に僕が言うのもなんだが、政財界のエリートの子女が通う名門高だ。
僕自身も、これまた自分でいうのも面映いのだが、かなり裕福な家に生まれてきたとおもう。
父さんは、一代で財をなし、竹中コンツェルンを築き上げた経済界のカリスマ的存在だ。
だが、それをやっかんだ人間が、「ぽっと出」だの、「成り上がり」だの、言っている。
しかし、父さんが築いた財力は週刊誌などがジョークで、「地球が買える」とまで言われるほどにすさまじく、成り上がりなどといって見下してかかるには巨大すぎた。
表立って喧嘩を売るには危険ということだ。
父さん曰く、
「我が竹中家は、あの竹中半兵衛の直系の子孫なのだ。ご先祖さまが打ち立てた偉業に比べればまだまだ。」
らしい。
そして、その父さんに僕は常々、
「竹中重治の名を冠した、竹中家の嫡男が他に劣ることは許さん!」
と、いわれてきたため、勉学に励み全国模試で1位を取り。
また、一般教養だけではなく、現代社会でもその考え方は役に立つからと、
兵法書の講義まで、自宅に家庭教師を呼んで習わされた。
孫子、六韜、三略などの武経七書は全部網羅した。
孫子に至っては魏武帝註孫子までも読み込んだ。
さらに、武士の末裔足るもの文のみならず、武の心得も持つべしという父さんの教育理念の元、小さいころからやっていた剣道でインターハイ優勝を果たした。
また、自分ではよくわからないが、どうやら僕の顔はいわゆる美形らしく……。
結果。
「あ!重治さまよ!重治さま!」
「きゃー!重治さまー!」
と、登校した途端に周りを女の子たちに囲まれてしまうのだった。
「皆さん、おはようございます。」
にこり、と微笑むだけでまた一騒ぎだ。
そして、女の子を引き連れながら下駄箱まで行き、上履きに履き替えたところで、
「やぁ、半兵衛。相変わらず大名行列を作っているね。」
そういって、声をかけてきたのは友人でクラスメートの深水 徹だ。
「やぁ、徹。それは竹中半兵衛が、大名行列を作っているという皮肉かい?」
「ははは、いやいやそんなつもりはないよ。」
そんな他愛ない話をしながら教室へと向かうのだった。
そうして、特に何事もなく学校を終え、帰宅すると、
「おお、重治!帰ったか。」
そういって、父さんが声をかけてきた。
「父さん?珍しいね、家にいるなんて。」
「お前に渡さなくてはならないものがあってな、私の部屋まできなさい。」
そういうと、父さんは秘書に何かを伝え、部屋に入っていく。
僕もそれに続き、父さんの部屋に入ってしばらくすると、秘書がかなり大きな箱を持ってきた。
「この中には竹中家の家宝が入っている。持つものに試練を与え、導いてくれるという。実際、その家宝を私は私の父からもらい、数々の試練を乗り越えた先に現在の富や名声がある、霊験あらたかなお守りだ、これをお前に渡そうとおもう。」
その小さな箱を父さんから受け取ると、
「これで、お前も晴れて竹中家の正統後継者というわけだ、より一層勉学と修練に励め。」
内心、穏やかでなかったが、表向きにこやかに笑うと、
「はい、父さん。これからも頑張ります。それでは自室に戻ります。」
と、言って家宝を受け取り自分の部屋に向かい、部屋の鍵を閉める。
高い金をかけただけはあるこの家の各部屋はドアを閉めれば完全防音だ。
そこで僕は……、
「あっっっっの!!!クッッッッソ親父イィィィーーーーーーーー!!!!!!!」
思いっきり叫んだのだった。
「なぁ~にが、晴れて正統後継者だっつーの!そもそも俺をその正統後継者に仕立て上げるためにガッチガチに縛ってくれてたんだろうがヨォッ!クソ!クソ!クソ親父!」
と、いって「俺」は怒りに任せて、そのとき手に持っていた「なにか」を壁に向けておもいっきり投げつける。
バキィッ!という音と共に、その「なにか」は砕け散った。
ふと、何を持っていたんだっけ?とおもい、自分がしたことに気づく。
「やっべ、家宝が!壊したらさすがにやばいのに!」
そうおもい、投げつけたものに慌てて近寄る。
「大丈夫だ、箱が壊れただけで中身は無事っぽいぞ。」
投げつけた拍子に箱が壊れ中の物が出てきていた。
「これは……、扇?いや、これは采配か…。」
もっとよく見てみようと、采配を拾い上げたその瞬間。
意識が遠のいていったのだった。
ここまで読んでくださった方に最大限の感謝を申し上げます。
初投稿です、フジオと申します。
まだプロローグまでですが、これから本格的にお話がはじまる!ってところで終わらして申し訳ないです。
多分この続きはすぐにあげるとおもいます。
ただ、そんな早い投稿は続かないとおもいますので、もし興味をもたれた方は気長に待っていただけると・・・。
よく小説家の方が、あとがき何書くか困るって書いてるのを適当に書けばいいじゃーんとおもってましたが、いざ自分が書こうとおもってみると困るものですね(笑)
あ、一つ。
私の勉強不足で、「おい、そこのところは歴史と違うぞ!ふざけるな!」っていう部分も出てくるとおもいます。
一応調べて書いてるつもりですが、ある程度は、「あ、この小説ではそうなのね」っていうことにしておいていただけると幸いです。
それでは、この辺で失礼いたします。
また次回、お会いできたら光栄です。