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6. 現状:Burn the bridges

 ――午後12時30分。

 食堂では銀牙と天夜以外の全員が、席に着いて食事を口に運んでいた。

 長大なテーブルの上を見れば豪勢な中華料理がこれでもかと敷き詰められていた。いわゆる満漢全席というものだ。

 油の乗った肉や野菜が所狭しと並び、瑞々しい光沢を放つ。立ち上る湯気が鼻腔を通り抜けると、食欲を刺激する香りが骨の髄まで染み渡るようである。


「いや〜、悪い悪い! ちょっと語り合ってたら遅くなっちまった!」


 全身傷だらけで食堂に入ってきた血まみれの天夜と銀牙。二人仲良く肩を組み、足を引きずりながらヘラヘラした態度でテーブルに近づく。


「スゲえー! こりゃ美味そうだ」


 銀牙は蒼牙の隣に座り、天夜もギリウスの隣に座ろうと椅子の背もたれを引いた。


「おや。語り合っていたと言うと……拳で、ですか?」


 冷淡な声音で問い質すギリウスは、天夜の血まみれの肩に突然箸を突き刺した。そこはちょうど銀狼と化した銀牙の牙によって開けられた傷口である。

 当然のことながら、異様な激痛が走った。


「いででででででででで! やめろっ、抜けっ、抜けっ! 早く抜けっ! このバカッ!」


「ギリウスはん! 何しとるんや!」


 銀牙が割って入り、それを制止しようとするが、ギリウスが睨みつけて威圧。口を挟むなと目で言われた銀牙は、すごすごと引き下がった。


「何を語り合っていたのかは知りませんが、勝手な行動は慎んでいただきたい。三角コーナーに溜まった残飯以下の頭で考えて、よく反省しなさい」


 責め立てるような辛辣過ぎる口撃と攻撃。箸の先端で傷口を広げ、さらに奥深くへとねじ込まれる。


「いだだだだだだだだ! 分かった分かった! 分かったからいいかげん箸を抜けっ! おい白亜、面白そうに見てねえで助けてくれっ!」


 白亜は声をあげまいと口元を押さえて必死に笑いをこらえる。痛めつけられているというのに無慈悲な奴だ。


「自業自得よ、天夜。彼とケンカでもしたのでしょう? ギリウスの言った通り、勝手なことはやめて欲しいわ。あなたたちの傷を見れば一目瞭然よ。征乱者と調律者が戦った後で、無傷や軽傷で済むはずが無い……そんなこと、あなたが一番分かっているはず」


「そういうことです。言い訳は後でたっぷりと聞かせていただきましょう。さぁ、処刑前の最後の食事だと思って味わいなさい」


「お前は何処まで俺を貶めるつもりなんだよ!」


 舌打ちをしながら肩の傷口に刺さる箸を引き抜いてギリウスに返した天夜は荒っぽく椅子に座る。

 苛立ちからか、とにかくなんでも良いので胃に流し込まなくては気が済まない。目の前にある大盛りの酢豚の皿を手に取り、かきこむように貪った。


 席に着いた銀牙には、弟の蒼牙がすり寄って来た。


「兄さん、調律者さんと戦ったの?」


 澄んだ眼差しを兄へと向け、囁きかける蒼牙。好奇心の塊のような視線に、銀牙は一瞬たじろぐ。


「あ、あぁ……まあ色々あってな。負けてしもうたけど、なんかスッキリしたから結果オーライや」


 同じように声をひそめて返答すると、蒼牙はくすくすと笑う。


「そっか。あの調律者さん、やっぱり他の奴とは違うね」


「あぁ、せやな。天夜はんは強い。ただの強さとは違う、本物の強さを持っとる」


「ねぇ、兄さんはどう思う? もう一つのあの力」


「そうか、お前も戦ったから一応知ってるんやったな……。あれを何かと聞かれたら、正直サッパリや。なんで体内に二つの力を宿せるんやろうな。普通なら互いのエネルギー同士が反発し合って暴発してもおかしくない。――っと、この話は秘密やった。お前も他の奴には喋んなよ」


「あぁ。兄さんがそう言うなら、僕はそれに従うだけさ」


「あれ……刀条はんはまだ部屋にこもったままか」


 いまだに部屋から出て来ない刀条の身を銀牙は案じる。

 昨晩の橘の死というショックからまだ立ち直れずにいるのだろうか。


「あの女、大丈夫かねぇ。このままじゃマズいんじゃないか、調律者さんよ」


 一見無愛想でとっつきにくそうな星村だが、他人を心配する態度には天夜も少し驚いた。


「お前って意外と優しいのな」


 資料によると巷の極道者も恐れる“荒くれ鬼”の名で通っているという男だが、その意外な気使いには驚く。

 そもそも星村は18歳という若さで、天夜のひとつ下である。なのに極道者に恐れられるとは……今までどれほどの荒事を起こして来たかは聞くまでもない。


「バカ言うな、別にそんなんじゃねえ。ただ、そんな精神状態で審問は無理なんじゃねえかって話だ。それにひねくれジャックが誰なのかも分からねえ今、女が一人のままじゃ危ねえだろ。あの女は確かに強そうだ。だが動揺が酷けりゃ、襲われた時反撃も出来ねえだろって話だ。あるいは……あの女がひねくれジャックという可能性だって捨て切れねぇ、監視するという意味も含めてだ」


「それもそうだな……」


「じゃあ、僕が刀条さんのそばに居ます」


 冬真が、か細い声で横槍を入れる。弱々しい声だが、毅然とした態度だ。


「ハッ! おいおいマジかよもやし野郎! ……テメェじゃ余計な死人が増えるだけだぜ」


 哄笑した星村だったが、その後の一言には確かな重みがあった。

 人を守る、ということは生半可な覚悟で出来ることではない。ましてや相手は得体の知れぬ敵である。征乱者でも調律者でもない者が護衛など自殺行為に等しい。


「あなたに笑われる筋合いは無い。僕が倒れた時、刀条さんは介抱してくれた。決して借りは作りたくない。それに僕は……ひねくれジャックを殺すために此処へ来た。相手が人知を超越するほどの力を持っていようとも、この手で奴の正体を暴いて殺す。今の僕の望みはそれだけだ」


「テメェの信念はよーく分かった。でもよ、一般人のザコ風情が太刀打ち出来る相手じゃねえんだよ。敵は俺ら征乱者でさえ相手にしたくねぇ奴だ。あとテメェは、此処に来てから急にぶっ倒れる変な症状があるんだろ? 余計任せられやしねぇ」


 勇気と無謀は違う。

 星村の目と語調の強さはそれを物語る。

 それに冬真の体調不良にも考慮すべきだ。病かどうかは今のところ不明だが、一般人が強い天力や覇力の影響で体調不良を引き起こす事例は稀に報告されている。

 あくまで冬真は一般人である、ということを忘れてはいけない。彼もまた、ひねくれジャックに大切な人を奪われた被害者だ。


「それはそうです。けど、それでもそんなことを気にしていられません。僕は彼女を守り、ひねくれジャックを殺したい」


「やれやれ……無茶苦茶言いやがるな。調律者さんからもなんとか言ってやってくれよ」


「んー……別にいいんじゃね?」


 天夜は赤々としたエビチリを口に運ぶと、あっけらかんとした口調で了承した。


「おい!」


「そりゃ何の力も持たない奴が付くのは危険だが、側に誰も居ないよりはマシだ。俺らは調査をしなきゃならないし、本人がやりたいって言ってんだからそれで良いだろ。なんならお前が一緒に護衛してやれ」


「ハァ?! ふざけんな! お荷物を二人も抱え込むような命知らずな真似やってられっか!」


「そっか〜やってくれないのか〜。嫌なら命令違反ってことで匡冥獄に反逆罪として報告しとくか〜」


 ニヤニヤと嫌味な口ぶりの天夜。露骨な職権濫用で星村に強請(ゆす)りをかける。


「あぁぁ?! んだと?!」


「嫌なら良いんだよ嫌なら。罪状はしっかりしたためておくから」


「ぐ……」


「やるの? やらないの?」


 まるで絵に描いたようなゲス顔で星村に問い詰める天夜。星村の眉間には皺が寄り、苛立ちをあらわにする。

 指図されること、命令されることがこの世で最も嫌いな星村にとってはこの上ない屈辱だ。

 だが戦えぬ者を守りたいという気持ちが少なからずあることも天夜は見抜いていた。


 当然星村は葛藤する。


 しばし目線のみで威圧し合い、不敵な笑みを浮かべる者と苦虫を噛んだような顔の者。どちらが先に折れるかは明白であった。


「チッ……こんのクッソ外道め。あぁやるよ、やってやるよ! こんなもやし野郎だけに任せられるか! 一気に二人もの死体を積み上げられる様なんざ、俺は見たくねえからなぁ!」


「そうかそうか、サンキュー! じゃ、頼んだぜ」


 星村は重いため息を吐くと背もたれに体を預けて目を閉じた。

 表情には憂いの色。殺されるかもしれないリスクを背負わされた後悔からか、彼の貧乏揺すりが少々激しくなった。


「おや、護衛役が決まったようですね。それでは天夜、そろそろ始めましょう」


「あぁ、そうだな……みんな、ちょっといいか!」


 ギリウスの提案に頷いて立ち上がり、声を張る。天夜の深刻そうな面持ちと声音によって、和気藹々(わきあいあい)としていた空気に緊張感が走った。


「ここで一つ、ひねくれジャックについて考えをまとめておこうと思う。今のところ起きた殺人についての状況証拠などを提示していくから、異議や同意、証言などがあるならどんどん言ってくれ」


 無言で頷く一同の中に、「はぁーい!」と元気良く返事をする橘。全くもって緊張感に欠ける。


「じゃあまずは、殺害方法についてだ。この屋敷での第一の被害者、荒瀬真希だが……例に漏れず全身を捻じ曲げられたのが死因だろう。刀条の詳しい検死結果によると、あらゆる臓器は潰れ、あらゆる神経は千切れ、所々骨は砕けて折れていたって話だ。よって確かな死因の特定は難しい。だが問題は、やはり彼女の死体が現れた位置だ」


「天井から落下してきた死体……」


 星村が思い出したように呟き、天夜は頷いて返す。

 第一の殺人で重要なのは、やはりこの点だ。どうして天井から落下してきたのか、という命題。これが大きな謎となっている。


「昨日のことだから皆まだ覚えていると思うが、この食堂の天井から彼女の死体は突如として落ちてきた。だがこの天井には死体を置けるような(はり)などは存在せず、シャンデリアの位置も玄関ホールと厨房への出入口付近の二つのみ。仮に置き場所があったとしても、あの瞬間誰かが天力を使った気配をほとんど感じなかったことは冬真を除く全員が分かっているはずだ」


「確かに誰かが天力を発現させた気配は微塵たりとも感じられなかったわね……」


「あの、調律者さん。今朝から少し考えてみたんだけどいいかな?」


 こじんまりとした挙手とともに声をあげたのは蒼牙であった。


「ん? どうした」


「確かに天力を放出した気配は無かったけど、あのとき死体に被せられていた黒い布からは僅かな天力の波動を感じたんだ。これは僕の推測でしかないけど、時間差で発動するように仕掛けられていたんじゃないかな?」


「天力を時間差で……? そんなことが可能なのか?」


「まあね。このテクニックを知ってる征乱者がどれくらいいるかは知らないし、使えるようになるまでは難しいけど、慣れれば簡単さ。ほら、昨日君達が僕の部屋に来た時、ドアノブを溶かしてみせただろう? あれはドアノブに塗っておいた水が特殊な溶解液に変化するよう仕掛けておいたのさ」


「なるほど……つまり原理はそれと同じってことか」


「でも天井にあんなデカくて黒い物が浮いてりゃ、全員気付くだろ普通」


 星村が反論するが、それに対する答えは至極単純であった。


「おおかたシャンデリアの上にでも隠しておいたんだろう。あのシャンデリアは人ひとり分隠せる大きさな上に装飾もめちゃくちゃ多いタイプのもの。隠しきるのは不可能ではないはずだ。それ以前にここの天井の高さは城みたいな高さだから真上でも見なけりゃあ気付かない。そんでもって、隠していた死体を時間差でテーブルの真上に移動してから落ちるよう設定しておけば可能だ」


「おいおい、そんな上手い具合にタイミングをコントロール出来るもんなのかよ!」


「可能さ……征乱者の能力は練度次第で、無知でバカな君が想像している以上に繊細な効果を生み出すことが出来る。僕の液体の能力も、使い込み、コツを掴んだからこそ色々な応用が出来るようになった」


「……テメェ今さらっとバカつったな?! 表出ろ!」


「バカにバカと言って何が悪い。それに、液体の切れ味を舐めていると痛い目にあう。もし僕と君が殺し合えば、肉塊になるのは君の方だ」


「あー……お前らそこまでにしてくれ。話が進まん」


「調律者さんがやめろと言うなら僕はやめよう。調律者さん直々の命令だ。けど、そこの筋肉ダルマは命令違反で処罰を受けたいらしい」


 淡々と毒を吐き続ける蒼牙は、相変わらず無愛想で余裕綽々の態度。


「クソが……何処までもコケにしやがって……」


 星村の額には青筋が立ち、怒りのあまり今にもテーブルを蹴り飛ばしてしまいそうだ。だがやはり調律者が居るという手前、下手なことは出来ないのだろう。必死に怒りを押さえ込んでいる。


「やめろって言ってんだろ星村。蒼牙、お前も煽るんじゃない」


「それじゃあ第二の被害者、橘 波流について話は移るが、ここまで何か意見は無いか?」


 手掛かりが限られすぎていて、皆一様に意見のしようが無い。なので案の定、揃って首を横に振った。


「よし、なら遺体発見時の状況を確認したいんだが……銀牙、証人として第一発見者である彼女をこの場に呼んで欲しい」


「あぁ。手はず通り、もう部屋の前で待たせとる。香澄(カスミ)ちゃん、入ってええで」


 香澄と呼ばれた女性は、厨房側の扉からおもむろに現れた。

 白と黒の美しい装束に身を包む彼女もまた、この九道邸に仕えるメイドの一人。

 その動きはぎこちなく、錆びついた人形のような足取りで緊張していた。何よりも昨晩の惨状が相当響いたのだろう。かなり顔色が悪い。


(アサヒ)……香澄(カスミ)です」


「わざわざすまない。辛いのは分かるけど、昨日の出来事をちゃんと聞かせてもらえないかな?」


 優しく諭すように問いかけると、コクリと頷いて銀牙の横に座る。

 彼女は、その震える唇をおそるおそる開いて話し始めた。


「昨晩、番犬たちを犬舎に入れようとしていた時でした。番犬たちのボスであるエリックが、突然何かに気付いたように走り出したのです。エリックは番犬たちの中でも特に鼻の効く子だったんです。だから、きっと異変に気付いたのでしょう。もも、もちろんすぐに私は追いかけましたが、と、とうとう、そ、蒼牙様の、菜園にまで、入って、しまっ、たのです……。

 そ、そそそ、そこで、わ、私は…………私は……あぁ……あぁあぁあぁぁあああぁあああぁぁあ!!」


 突然頭を抱え、ヒステリックに叫び出す旭。

 あの惨状を目の当たりにしたのだ。無垢な一介のメイドに正気を保てと言う方が難しい。旭は両手で顔を覆ってむせび泣きながら、ごめんなさいごめんなさいと繰り返す。彼女の背中をさすり、銀牙は優しくなだめた。


「大丈夫、大丈夫や。君はなんも悪ぅない。だから安心して、自分が見たもんをありのままに言うてくれたらええ」


 銀牙の手からは穏やかな青白い光が零れていた。銀牙の能力で旭の“理性”を強化し、落ち着かせているのだろう。


「はい……ありがとう、ございます」


 一般人である旭からすれば、突如として日常から非日常に突き落とされたのだ。

 彼女のその瞳には、既に光が無かった。脳裏にこびりついた惨劇が何度もフラッシュバックしているのだろう。


「……そ、そこで見たのは、エリックが蒼牙様の畑を、い、一心不乱に掘り返しているところでした。私は止めようとしたのですが、酷い臭いがしたので、妙に思いました……そ、そしてエリックがこっちを振り向いた時には……た、橘さんの、千切れた、か、かた、片腕をく、咥えて、いま、した……」


 旭が最後の一言を振り絞った。大きな重荷を降ろしたような溜息をつき、息を切らせる。


「なるほど……それで君の悲鳴とエリックの吠える声を聞きつけた俺と明鏡が、橘の死体を発見したってわけか……」


「ほいほい質問!」


 またお前か、と天夜はこぼしたくなったが、元気良く挙手する明鏡。天夜はうんざりしたように嘆息し、呆れ声で「どうぞ」と一言。


「それは何時頃のことだったっけぇ?」


「えっと……ちょうど夜中の二時くらいでした」


「ふむふむ。ってことは、ボクとテンヤンが現場に着いた時とほぼ同じだね。じゃあその時、太陽が見えたりはしなかった?」


「えっ? 太陽……ですか?」


 あまりにも突拍子もない質問に、旭だけでなく一同が唖然とした。


「そう、太陽」


「おいおい明鏡、なに意味不明なことを聞いてるんだ。夜中の二時だぞ?太陽が顔を見せるわけあるかよ。大体あの場には、お前も居たじゃねえか」


「わ、私にも仰ってる意味がよく分からないのですが、た、太陽なんてそんなものが見えたりは……」


 だが、明鏡はいつになく真剣な眼差しで旭を睨みつけていた。その鋭利な視線は、何処か遠く未来を見通しているようでもある。


「そっか、じゃあいいや。確かにあの時はそんな気配も無かったしねぇ……ま、普通はあり得ないよね〜。ふ・つ・う・は」


 あっさりと諦め、打って変わってまたひょうきんな態度に戻る。

 前言撤回。こんなアホそうな奴に未来を見通すなんて、勘違いも甚だしい。

 天夜は自分の見当外れな勘を恨んだ。


「ったくお前は……貴重な証言者を困らせてんじゃねえよ。ありがとう、旭さん。ごめんな、もう休んでもらっていいよ」


 天夜が旭に退席を促すと、旭は銀牙に介抱されて食堂をあとにする。

 去り際の彼女の頬には淡い雫が伝っていた。


「……んで? 調律者さんよぉ、今の話からどんな手掛かりが得られるよ?」


 偉そうな態度の星村が天夜につっかかると、天夜はめんどくさそうな舌打ちをして頭を掻く。


「さぁな。正直、サッパリだ」


「あぁ?!」


「うるせぇなぁ。いちいち声を荒げんなよ、筋肉ダルマの田舎ヤンキー」


「テメェ、今すぐぶっ飛ばされてぇようだなぁ!」


「やれるもんならな。何度も言ってるが反逆罪ですぐに制裁してやるぜ」


「チッ、クソが……」


 そう、これはあくまで現状の確認だ。手掛かりが複数あるにしても、どれも信用に足るものではない。誰かが証言をしても、その誰かがが嘘をついているかもしれない。警察を引き入れて精密な捜査をしようにも、相手が征乱者である以上は無駄な死体が増えるだけと皆で判断した。


「星村はん。俺らは館から出ることもできひんし、ましてやひねくれジャックを館から出すわけにもいかへん。つまり実質クローズドサークルや。この館の中だけで、俺らの手で全てを終わらせんとあかんねや……決着は全て、ここでつく」


 母親を殺された銀牙と蒼牙の二人の形相が険しくなった。

 彼ら兄弟だけではない。その場にいる者全員が確信していた。


 自分たちの手で、ケリをつけなければならないと――。

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