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2. 確認: Death estimated time

 征乱者絡みの事件になると、現場での裁量は全てその場に居合わせた調律者に一任される。逮捕権や処刑執行権も場合によっては行使出来る。


 理由は実に単純明快で、征乱者が好き放題に力を使うと“一般人には手が負えない”からである。調律者でなければ暴れ出した征乱者を絶対に抑え付けることは不可能。

 必然的に、調律者である三人はこの事件を解決へと導かなくてはいけないのだ。


「そうと決まりゃ、まずは遺体の身元確認からだな。銀牙、この子について雇い主のお前が教えてくれ」


「名前は荒瀬(アラセ) 真希(マキ)。確か今年で二十一歳やったわ。真面目な子やさかい、他のメイドからの信頼も厚かった子や」


「……分かった、ありがとう。次に死因だが、死因は“ひねくれジャック”の仕業で間違いねぇだろうな。こんな能力は見たことも聞いたこともねぇし、どういう原理かは分からん。が、物理法則に干渉する類いの征乱者と見ていいだろう」


「しかし調律者さんよぉ、天井から落ちて来たって点についてはどう説明するんだ? 例えシャンデリアの上に死体を乗せてから、何か仕掛けを利用して落とそうにも、シャンデリアの位置は落ちてきた位置とはかなり遠い位置にあるぜ。他に死体を引っ掛けたりする物や柱はここの天井には見当たらねぇ」


 死体落下時に驚きで咄嗟に発現してしまった大剣を仕舞う星村。彼は低い声で疑問を投げ掛ける。


 そう言われてみればそうだ。天井に物を引っ掛ける場所なんて、煌々と光を乱反射させるシャンデリアくらいだ。しかしそのシャンデリアも死体の落下地点とは全く別の位置に吊り下がっている。


 また、天井の端々に梁や柱などの支えのような物は見当たらない。つまり死体は何も無い空中に浮いていたということになる。

 それも“ひねくれジャック”の力だと言うのだろうか。


「死体が何故空中から落ちてきたのか、そのトリックも分からん。だがもし犯人が空中に物体を浮遊させる事が可能だとしたら、色んな可能性が出てくるな。それと、アリバイも洗う必要が……」


「その前に、誰かこの中で死体の死亡推定時刻を割り出せる方はいらっしゃいますかね?」


 燕尾服の男ギリウスの提案はアリバイを洗い出すにも、優先して必要なことだった。


「それなら私に任せろ。樹は生きている、それ故に私の樹の力は細胞レベルに分析する。恐らく出来ないはずは無い」


「ほう……ではお願いしたい」


 検死を申し出た刀条は見るも無残な遺体の前に立ち、瞑目し、数秒ほど手を合わせる。

 目をゆっくりと開け、右手を(かざ)す。青白い光と共に黒っぽい樹を発現させると、冷たくなってしまった遺体に柔らかくうごめく樹を這わせ始めた。

 異様な光景を目の前に、思わず全員が息を呑み、言葉を失う。


「どうなのだっ、どうなのだっ」


「うるせえぞ明鏡、少し静かにしろ」


 無駄に好奇心の旺盛な少女である。死体が落ちてきた時、微塵たりとも驚く素振りを見せなかったあたりかなりの変人だ。

 資料のデータには十六歳と記してあったが天夜は『本当に俺よりも三つ下なのだろうか』と怪訝な目付きで明鏡を見る。


「ふむ……なるほど。理解した」


「どうなんだ?」


「死後の細胞劣化の経過状態からして、死亡推定時刻はおよそ朝の四時から五時と言ったところだ。現在八時半ということは、死後四時間は経過しているようだ」


「流石は警視総監の娘さんだな」


「……それはどうも」


「ってことは、単純に考えて早朝から起きてた奴に絞り込まれるよな」


 誰もが容疑者という事実は否めないのだ。

 天夜は黒い布を遺体にそっと掛けてやりながら他の者の顔を見回すと、既に冷や汗を垂らす者が何人か居た。


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