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ニセガミ ー双黒の調律者ー  作者: ぽみしま れい
第一幕:ひねくれ者
11/51

11. 交錯:Armistice

 九道邸の探索を切り上げ、天夜は二階へと戻って来た。邸内の柱時計は既に午前二時半を指していた。もうかなり遅い。


 そろそろ眠気も復活してきた天夜が部屋に入ろうとした時だった。


「……黒霧天夜」


 透き通った冷たい響きの声音が、天夜を呼び止めた。

 その無機質な冷たさの中に、耳に心地良い美しさが同居していた。声の主は、天夜たちと同じくしてこの邸内に招かれたもう一人の調律者だった。


「ん? あぁ、確か、白亜……」


「閃よ。白亜(ハクア) (セン)


「こんな夜更けになんの用だ?」


「聞きたいことがあるの」


 白亜は銀色のロングヘアーを揺らしながら、壁にもたれかかる。

 彼女から(ほの)かに火薬じみた臭いがした。弾薬特有の、硝煙の香りが鼻腔をくすぐったのだ。


「聞きたいこと? それはこっちもだ。何故定期審問に招かれた調律者が二組なんだ」


 この問題は保留にするつもりではあったが、やはり引っかかってしまうので蒸し返す。


「あら、その言葉、そっくりそのまま返すわ。私は政府から特務を任ぜられ、ここへ赴いたまでよ」


「それは俺らも同じだ。こんなこと、イレギュラー過ぎるぜ。政府側に問い合わせようにも、特務中は秘匿事項が多いからな。連絡は殆どの場合許可されてないしよ」


 征乱者や調律者に関してはまだまだ分かっていないことが多い。だからこそ定期審問の内容は機密書類扱いの報告書でのみ、政府に提出するよう義務付けられている。


 一般人はおろか、政府の人間にすら容易に公開できる情報ばかりではないのだ。

 須田冬真に関しては、仕方がないと片付けるしかないと天夜は考えていた。身内が征乱者絡みの殺人を受けた者となると、その内容に深く立ち入る権利がある。また、その者にある程度の情報を開示する義務がある。

 あえて最初からそのつもりで、二人は冬真の同行を許可した。


 しかしこの状況は誰かに仕組まれたとしか思えないくらいだ。

 調律者は定期審問の際、一組のみが、一つの定期審問に充てられる。

 その一組の人数の上限は一人から五人まで。あまり多いとは言えない調律者の人員を無駄に割くことはできない。


 だが、天夜たちとは別で白亜は来たというわけだ。それでは規定と大きく差異が出てくる。

 何者かの思惑が絡んでいるとして、二組の調律者が同じ地に定期審問に赴いたというのはおかしな話なのだ。


「答えなさい。何を企んでいるの?」


「なんのことだか……。とりあえずその物騒なエモノをしまえよ」


 天夜の腹には、既に大口径の拳銃が突きつけられていた。威圧感を放つそれは、重厚な感触で彩られていた。人を殺す感触だ。


「あら。私はあなたを疑っているのよ?」


「それはこっちもだと何度言えば分かる?」


 天夜はあくまで冷静に答える。

 突きつけていたハンドガンを、白亜は俺の目の前でクルクルと回しながら見せた。


「ま、いいわ。一時休戦しましょ」


 その手にした銃に天夜の目が止まる。


「良い銃だな」


「あら、銃はお好きかしら?」


「昔、親父に銃の解体の練習させられたことがあるから、ちょっとな」


 細部までカスタムが施された銃を、天夜はマジマジと眺める。


「ここ、射撃訓練場まであるのよ。さっき少し撃って来たけど、良い設備だったわ」


 それで硝煙の臭いがしたのかと得心する。射撃訓練場からの銃声に天夜が気付かなかったとなると、かなりしっかりした防音らしい。音漏れなど微塵も無かったと言えるほど静かだった。

 あの獣のような咆哮以外は。


「見たところ特別製だな。改造が施されている」


「えぇ、天才銃技師シュルーティムが創り出したオーダーメイドよ。覇力(ハリョク)伝導率が他の銃とは比較にならないわ。だから見た目は同じでも、少し構造が違うの」


 “覇力”とは調律者の力の源と定義付けられる物の総称だ。天力とは相対する力である。

 調律者は物体を媒介にすることで、覇力を行使することもできる。また、戦闘の中で征乱者を制圧するには武器や道具を介して覇力を使った方が有効である。


「あの天才銃技師と知り合いとはな」


「シュルーティムにはお世話になったわ。私の愛用の二丁の産みの親だもの。このシクザールとセリカは私の相棒達よ」


 そう言いながら、白亜はもう一丁の銃をホルスターから抜いて銃身の側面を愛でるように指先で撫でる。


運命(シクザール)天空(セリカ)、か」


 白亜の両手には、力強くも精巧なデイティールの二丁拳銃が握られていた。

 先ほど俺の腹に銃口を当てがっていたのはシクザール。もう一つはセリカ。

 調律者専用に完璧に調整してしまうシュルーティムという者の技量には目を見張る物がある。

 白亜はホルスターへと華麗に銃をしまうと、踵を返した。


「まあ、今の状況を(かんが)みるに、暫くの間あなたとたちとは調律者として協力した方が良さそうね……。脅すような真似をしてごめんなさい。改めてよろしく、黒霧天夜。白亜と呼んでくれて構わないわ」


「ああ、こちらこそ。俺も天夜でいい」


「それじゃ、そろそろシャワーが浴びたいから今夜はこれで」


「おう、お休み」


「おやすみなさい」


 変な女だと肩をすくめてはみたが、まだ油断はできない。

 不審な調律者が一人いるという不安からもさっさと解放されたいので、この特務を早く片付けたいということしかもう頭になかった。天夜は少し欠伸を漏らし、ほどなくして部屋へと戻った。

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