お姉ちゃん、vtuberは幸せ?
お姉ちゃんはvtuber。
「ただいま」
ドアを開けて、僕は口にする。
返事はない。
家の雰囲気も、やっぱり暗い。
人は見えないけど、どこかしんみりしたような、何かを諦めてしまったかのような。
『こんにちは、いや、こんばんはかな』
声が、聞こえてくる。
僕は歩いて、自分の部屋に向かう。
部屋に入ると、スマホをONにし、動画サイトを開く。
「じゃ、推し活しよう」
読書は、後でいいか。今は推し活、vtuberの。
『いやー、最近どう。入学式はもうあった?』
明るい口調のvtuber。少女の姿をしている。
企業じゃなく、いわゆる個人勢。チャンネル登録者数は、1000くらい。メンバーシップ、登録して毎月お金を払う人も、たったの1人。
『私? 行ったよ、もちろん。高校生だから。私の所はね、えっと、今日入学式があった』
不登校かよ、嘘乙、などのからかうコメントが書かれる。僕はそれをただ眺める、コメントはしない。
『いやいや、嘘じゃないって』
あくまでも、明るく。
家の雰囲気は暗い。
なのに、隣の部屋から聞こえてくる声は、あくまでも明るい。
はあ、と僕はため息を吐く。
16歳のお姉ちゃんは、vtuberをしている。
不登校になって、3年くらい。
高校にも、なんとかして入学できたのに。
昨日あったらしい入学式にも行かず、ただ部屋で少ないリスナー相手に、明るく話しかける。
「配信終わったし、読書するか」
僕は本を開く。
幸せって、何だろう。
お姉ちゃんが学校に行かなくなり、僕は考えるようになった。
水泳、ピアノ、そんな贅沢な趣味をするのが、幸せなのだろうか?
誰かに幸せを与えるのが、幸せなのだろうか?
分からない、いくら本を読んでも。
何が幸せな人生で、何が幸せな家庭なのか。
分からない。
でも、
「お姉ちゃんが幸せだったら、それでいいか」
大切な家族、たった1人しかいない、姉。
お母さんやお父さんも大切だけど、お姉ちゃんはもっと大切。お姉ちゃんは何があっても変わらないし、お母さんやお父さんは離婚したら、アレだけど。
なんて、唯一のメンバーシップ登録者の僕は、考える。
コメントしたらいつかバレるような気がするから、しないけど。
まあ、vtuberを頑張ってよ、お姉ちゃん。
ありがとうございました。




