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第4話 支配人

公民館の空気は、完全に変わっていた。

さっきまでの騒ぎは、村の内輪揉めだった。

だが今は違う。

外敵が現れた。

望月松之助が机を叩く。

「帰れ!ハゲタカ野郎!」

李は静かに答えた。

「私どもは株主です」

望月が怒鳴る。

「9%だろうが!」

「大したことねえ!」

李は微笑む。

「今は、です」

浅科竹太郎が腕を組んだ。

「つまり」

「株を買い集めると?」

李は頷いた。

「可能なら」

つる江が口を挟む。

「なんでそんなことするのよ」

李は少し考えた。

それから答えた。

「価値があるからです」

望月が鼻で笑う。

「赤字三千万だぞ」

李は静かに言った。

「温泉は赤字でも価値がありますし、土地、源泉、施設全部会社の資産です」

浅科が頷いた。

「確かに」

望月が睨む。

「教授どっちの味方だ」

浅科は冷静に言った。

「現実の味方です」

沈黙。

李は続けた。

「例えば、温泉リゾートホテルや別荘地などなど…色々できます」

望月が怒鳴る。

「そんなもんいらん!」

「村の温泉だ!」

李は少し笑った。

「株を持っていれば」

「誰のものか決められます」

公民館が静まり返る。

中込梅吉がぽつりと言った。

「怖い話やな」

つる江が言う。

「村の株は?」

浅科が答える。

「42%」

李が言った。

「過半数ではありません」

湯沢が初めて口を開いた。

「……51%取る気か」

李は軽く頷いた。

「理想は」

「そうですね」

望月が机を叩く。

「取れるわけねえ!」

李は静かに言った。

「取れますよ」

「個人株主」

「18%」

浅科の表情が少し変わった。

「……なるほど」

李は続ける。

「個人株主の多くは」

「昔、村に頼まれて出資した方です」

「もう高齢です」

「株の価値もよくわかっていない」

「安く買えます」

望月が怒鳴る。

「やってみろ!」

李は微笑む。

「もう少しずつ」

「始まっています」

公民館がざわついた。

つる江が言う。

「誰が売ったのよ」

李は肩をすくめた。

「守秘義務です」

沈黙。

そのとき。

望月が突然、湯沢を指差した。

「おい官僚!」

湯沢はうんざりした顔をした。

「元ね」

望月が言う。

「お前ならわかるだろ!」

「どうすりゃいい!」

湯沢は少し考えた。

それから言った。

「まず…温泉を黒字にする」

全員が黙った。

浅科が聞く。

「それは理想論では?」

湯沢は答える。

「赤字の会社は弱いが…黒字なら話は違う」

李が興味深そうに見た。

湯沢は続ける。

「株を売る理由がなくなる」

浅科が頷いた。

「確かに」

望月が言う。

「じゃあやれ!」

湯沢は言った。

「なんで俺」

望月が机を叩く。

「若いからだ!」

「理由雑すぎる」

梅吉が言う。

「温泉好きやし」

つる江が言う。

「暇そうだし」

浅科が言う。

「経歴は立派ですし」

箕輪が言った。

「支配人です」

湯沢は言った。

「決まってない」

望月が言う。

「今決める!」

その場で手を挙げた。

「賛成のやつ!」

老人たちが次々手を挙げる。

梅吉

「はい」

つる江

「はい」

浅科

「合理的です」

箕輪

「最初から賛成です」

望月が言った。

「決まりだ!」

湯沢は頭を抱えた。

「民主主義が雑すぎる」

李が静かに笑った。

「面白い」

湯沢は睨んだ。

「他人事だな」

李は答えた。

「投資家ですから」

そして言った。

「では」

「支配人さん」

少し間を置く。

「頑張ってください」

湯沢は深く息を吐いた。

「本当に」

「風呂入りに来ただけなんだけどな……」

こうして

湯沢慎一郎は

白樺の湯の支配人

になった。

望んだわけではなく。

ほぼ

強制的に。

そしてこの日から

旧湯ノ沢村の

小さな温泉を巡る

少し面倒で

少し奇妙な

戦いが始まった。

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