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第3話 株の話

公民館の会議は、なかなか始まらなかった。

理由は単純だった。

望月松之助がずっと怒鳴っているからだ。

「だから言っとるだろうが!」

机を叩く。

「温泉は村のもんだ!」

浅科竹太郎が冷静に言う。

「厳密に言えば違います」

「会社の資産です」

望月が睨む。

「屁理屈言うな教授!」

「屁理屈ではありません」

浅科はメガネを押し上げた。

「白樺の湯は第三セクターとはいえ、株式会社白樺の湯開発という株式会社です」

「第三セクター」

湯沢は小さく呟いた。

「やっぱり会社なんだ」

箕輪が頷く。

「はい」

「村が作った会社」

「でも会社」

湯沢は聞いた。

「株主は?」

箕輪は少し考えた。

「村が一番多いです」

「あと地元企業」

「農協」

「商工会」

「昔出資した人」

湯沢は少し嫌な顔をした。

「典型的な三セクだな」

そのとき。

小諸つる江が言った。

「で、赤字なんでしょ?」

箕輪が答える。

「去年3千万」

望月が机を叩く。

「だから客呼べばいいんだ!」

浅科が冷静に言う。

「簡単に言いますね」

「観光客は年々減っています」

中込梅吉が言う。

「でも温泉ええぞ」

「ワシ毎週来とる」

浅科が言った。

「それでは売上は増えません」

梅吉は笑う。

「ワシは増えとる」

「回数券買っとるから」

沈黙。

湯沢は思わず言った。

「この会議、大丈夫?」

箕輪が答える。

「いつもこんな感じです」

そのとき。

公民館の隅にいた若い男が立ち上がった。

静かな声だった。

「少しいいですか」

全員が振り向く。

見慣れない男だった。

35歳くらい。

スーツ。

村にはあまりいない雰囲気の人間。

望月が言う。

「誰だお前」

男は軽く頭を下げた。

「失礼しました。私は日本レジャー投資信託の代表のと申します。」

中込が眉をひそめる。

「日本レジャー投資信託…ハゲタカファンドか!」

男は微笑んだ。

「なんと言われようとも結構です。」

スマートフォンを見せる。

男は指で画面をなぞりながら

「まず昨年末の株主ですが、旧湯の沢村から合併の際に引き継いだ佐久野市 42%」

「望月土建さんなどの地元企業5社 31%」

「個人18名 18%」

そして

「佐久野信用金庫 9%」

公民館が少し静かになった。

望月が言う。

「それがどうした」

男は言った。

「その9%」

「最近当社が佐久野信金から譲受を受けました。これから、色々動きまして経営権の掌握をしたいと思っております。今日はそのための挨拶を…と思いまして。」


呆気にとられる老人たちの中で湯沢だけが、少し顔をしかめた。

「水利権の掌握か…目的は」

男は笑った。

「さすが」

「理解が早いですね」

望月が怒鳴る。

「だから何なんだ!」

男は静かに言った。

「もし」

「そのファンドが株をもっと集めたら」

少し間を置く。

「この温泉」

「村のものじゃなくなるかもしれません」

公民館が静まり返った。

望月が立ち上がる。

「ふざけるな!」

「温泉は村のもんだ!」

男は穏やかに言った。

「法律上は違います」

浅科が小さく言った。

「……会社の資産ですからね」

湯沢は天井を見上げた。

嫌な予感が、完全に当たっていた。

三セク。

赤字。

株。

ファンド。

完璧に

面倒くさい案件だった。

そのとき。

望月が湯沢を指差した。

「おい官僚!」

湯沢は目を細める。

「元ね」

望月は言った。

「お前が何とかしろ!」

湯沢は静かに言った。

「無茶言うな」

その横で。

箕輪さやかが笑った。

「支配人の仕事です」

湯沢は言った。

「まだなってない」

箕輪は答える。

「もう半分なってます」

湯沢は深く息を吐いた。

「風呂入りに来ただけなのに……」

公民館の隅で。

さっきの男は、静かにスマートフォンを閉じた。

そして心の中で呟いた。

「面白いことになってきた…」と。

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