表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/97

第2章外伝2 分岐 2-9話 Bad End 沈黙の収穫、あるいは「爆ぜる食卓」

(視点:アル・エルンスト/ifルート)


「――D区画、魔素濃度限界突破。これ以上放置すれば、自然崩壊(自爆)の危険があります」


 早朝の畑。  俺は、重力を無視して浮遊する「結晶化ニンジン」を前に、冷徹に計算機を弾いていた。


 隣では、レリア先生が青ざめた顔で立ち尽くしている。  ネーヴが測定器を見て、首を横に振った。


「……危険。  接触禁止。エネルギー障壁、展開されてる。  触れば、弾かれる」


「悠長なことは言っていられませんね」


 俺は即断した。  このニンジンは、エルフたちを救うための「薬」の材料だ。  一刻も早く収穫し、成分を抽出し、加工しなければならない。  「野菜の機嫌」を伺っている時間など、コストの無駄だ。


「ネーヴ。  ノームを使って『強制固定』を行え。魔力障壁を物理的にこじ開ける」


「……了解。  ノーム、突撃。対象を確保せよ」


 俺の指示に従い、ノームたちが無機質に動いた。  彼らは手に持った工具で、ニンジンの周囲に展開された見えない壁を、強引に剥がしにかかる。


 バチッ! バチバチッ!!


 火花が散る。  ニンジンが、嫌がるように震え、明滅を繰り返す。  まるで「やめてくれ」と叫んでいるようだが――俺はそれを「ノイズ」として処理した。


「抵抗は無意味だ。  お前たちはただの『リソース』だ。  我々の生存のために、効率的に消費されるべきだ」


 俺は強化魔法をかけた手で、光る葉を乱暴に掴んだ。  バチッという痛みが走るが、無視する。  そのまま、力任せに引き抜く。


 「いただきます」なんて、甘っちょろい言葉はいらない。  これは「収奪」だ。


 ブチブチブチッ……!!


 根が千切れる音がした。  そして――


 「ギ、ギギギ……ギャアアアアアアアアアアッ!!!!」


 断末魔。  マンドラゴラの悲鳴なんて生易しいものではない。  ガラスを爪で引っ掻いた音を、数千倍に増幅したような、魂を削る絶叫。


「ぐっ……!?」


 レリア先生が耳を押さえてうずくまる。  ネーヴがよろめく。  ノームたちが霧散して消える。


 俺の手の中で、引き抜かれたニンジンが、ドス黒く変色していく。  美しいオレンジ色の輝きは失われ、まるで壊死した肉のように腐り落ち、ドロドロの液体となって流れ落ちた。


 ジュワァァ……。


 液体が地面に落ちると、そこから黒い煙が上がった。  毒だ。  拒絶と怨嗟が凝縮された、猛毒のヘドロ。


「……失敗、か」


 俺は、ただの「汚物」と化した元・ニンジンを投げ捨てた。



 その後、畑のニンジンはすべて連鎖的に枯死した。  「恐怖」が伝染したのだ。


 材料を失ったリゼラ先生は、特効薬の味(泥味)をごまかすことができず、  文化祭での「スープ作戦」は中止された。


 エルフたちは薬を飲まず、無気力のまま。  エリシア殿下の歌も、空腹と不快感に支配された彼らの心には届かなかった。


 祭りは失敗し、森は再び静寂に包まれた。  誰も笑わず、誰も救われない、冷たい森へ。


 俺は、枯れた畑の前で立ち尽くす。  計算は正しかったはずだ。最短手順で、最大効率で収穫しようとした。  なのに、手元には何も残っていない。


 「……ああ。   挨拶プロトコルが、抜けていたのか」


 命を奪うことへの、最低限の敬意。  その非合理な「一手間」こそが、魔法を完成させる鍵だったのだと、  すべてが手遅れになった後で、俺は気づいたのだった。


 ――外伝・完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ