表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/97

第2章 第33話 文化祭ってなに? あるいは「お祭り」という名の集団治療計画

(視点:レリア/第3教室担任)


「……で。その『ブンカサイ』とやらは、何かの儀式なの?」


 放課後の参謀室(私の私室)。  アルの突拍子もない提案に対し、私は眉をひそめて問い返した。


 テーブルを囲むのは、いつもの面々。  アル、リオ、ネーヴ。  そして、激マズの特効薬(試作品)を抱えたリゼラと、面白がっているセリナ。


「儀式ではありません」


 アルは黒板(またネーヴが持ち込んだ)の前に立ち、指揮棒を振った。


「定義するなら、**『学生主導による、非日常的な空間の創出と、経済・芸能活動のシミュレーション』**です」


「……頭が痛くなってきたわ」


「簡単に言えば、『みんなでお店や出し物をして、騒いで、美味しいものを食べるお祭り』です」


 アルがニカっと笑う。


「エルフの人たちが無気力で、薬を飲んでくれないなら……  **『飲みたくなる状況』と『断れない空気』**を作ればいいんです」


■ 作戦目標:全エルフへの経口投与


 アルは黒板に図を描き始めた。


 【目標】  世界樹の根元に住む「無気力組(約300名)」に、リゼラ先生の薬を飲ませる。


 【課題】  

1.彼らは家から出ない(引きこもり)。  

2.薬が死ぬほど不味い(泥とゴムの味)。


 【解決策:文化祭】


「まず、彼らを外に引っ張り出す『餌』が必要です」


 アルがリオを指名する。


「リオ。孫が学校で劇をやると言ったら、お祖父ちゃんはどうする?」


「絶対見に来ます! 這ってでも来ます!」


「正解。  生徒たちに『家族を招待しなさい』と言えば、彼らは重い腰を上げて出てくる。  これが第一段階、**『強制連行インビテーション』**です」


「言い方が物騒ね……」


「次に、会場には美味しそうな匂いを充満させます」


 アルはリゼラを見た。


「先生。あの薬、加熱しても成分は飛びませんか?」


「ええ。魔力結合してるから、煮込んでも大丈夫よ」


「なら、**『特製・濃厚ポタージュ』**に混ぜましょう。  歌うニンジン、カボチャ、サツマイモ……甘くて味の濃い根菜で煮込んで、スパイスで香りを誤魔化す。  これを屋台で、『生徒たちが育てた野菜です!』って配るんです」


 リゼラが膝を打った。


「なるほどね!  『薬を飲みなさい』と言えば拒否されるけど、  『孫が作ったスープ』なら、断れるわけがない!」


「しかもタダじゃなくて、少額でもお金を取れば、『対価を払った食事』としてさらに警戒心が薄れます。  これが第二段階、**『集団投薬フードコート』**です」


 私は呆れて天井を仰いだ。  合理的すぎる。  感動的な家族の触れ合いを、完全に「治療プロセス」として利用している。


■ 物理的な「舞台装置」


「でも、アル」  私が口を挟む。


「世界樹の根元は広場になっているけれど、何もないわよ?  屋台や舞台なんて、誰が作るの?」


 アルは、足元の寝袋を指差した。


「……ん。出番」


 ネーヴがのそりと起き上がり、工具箱を撫でた。


「会場設営、担当。  ノーム五十体、フル稼働。  ……一晩で、城だって建ててみせる」


 ……忘れていた。ここには「一人建設会社」がいたんだった。  トルノスの工房で量産された「魔樽」と、進化したノーム部隊がいれば、屋台の百や二百、造作もないだろう。


「これでハードウェア(会場)は解決です」


■ 最後の切り札「歌姫」


「あとは、仕上げの『ショック療法』ですね」


 アルは、少しだけ真面目な顔になった。


「薬で体の毒を抜いても、心が凍ったままじゃ意味がありません。  彼らの感情を揺さぶり、熱を取り戻させる『何か』が必要です」


 セリナが、ニヤリと笑って手を挙げた。


「はいはい、わかってるよ〜。  **『エリシアちゃん』**でしょ?」


 アルが頷く。


「はい。  2年前、彼女の歌は、……じゃなくて『寄生体』に支配された聖騎士団たちの心を呼び戻しました。  今の殿下の歌なら、きっとエルフたちの無関心も吹き飛ばせるはずです」


「オッケー。  『世界樹の下で歌いませんか?』って手紙、送っておくわ。  ……たぶん、二つ返事で飛んでくると思うけど」


 エリシアの今のペンダント(緑の宝石)は、魔力を増幅して広げる機能がある。  世界樹の下で歌えば、その効果は森全体に波及するだろう。


■ タイトル決定


 私は、ホワイトボード(黒板)に書かれた完璧な作戦計画を見上げた。


 1.家族の情で誘い出し、  2.スープで薬を飲ませ、  3.歌で心を解凍する。


 完璧だ。  教師として、この「課外授業」を許可しない理由がない。


「……いいわ。やりましょう」


 私は宣言した。


「世界樹学園・主催。  秋の特別行事――『世界樹祭ユグドラシル・フェス』!!」


「「「おおーっ!!」」」


 リオが拍手し、ネーヴが工具を鳴らし、リゼラが不敵に笑う。


「忙しくなるわよ。  生徒たちには『お祭り』だと説明して、準備に巻き込みなさい。  ……裏テーマが『集団治療』だなんて、おくびにも出さずにね」


「了解です!」


 アルが敬礼する。  その顔は、かつて北の領地で泥まみれになっていた時と同じ、  「楽しい悪巧み」をする少年の顔だった。


 こうして。  静寂に包まれていた妖精の森に、  かつてない「騒音」と「熱狂」を持ち込む計画が、動き出した。


 (……見ていなさい、世界樹。   あなたの足元で眠っている住人たちを、   ニンジンの匂いと歌声で、叩き起こしてあげるから)


 私は胃薬をゴミ箱に投げ捨て、  久しぶりに、教師として武者震いをした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ