第2章 第33話 文化祭ってなに? あるいは「お祭り」という名の集団治療計画
(視点:レリア/第3教室担任)
「……で。その『ブンカサイ』とやらは、何かの儀式なの?」
放課後の参謀室(私の私室)。 アルの突拍子もない提案に対し、私は眉をひそめて問い返した。
テーブルを囲むのは、いつもの面々。 アル、リオ、ネーヴ。 そして、激マズの特効薬(試作品)を抱えたリゼラと、面白がっているセリナ。
「儀式ではありません」
アルは黒板(またネーヴが持ち込んだ)の前に立ち、指揮棒を振った。
「定義するなら、**『学生主導による、非日常的な空間の創出と、経済・芸能活動のシミュレーション』**です」
「……頭が痛くなってきたわ」
「簡単に言えば、『みんなでお店や出し物をして、騒いで、美味しいものを食べるお祭り』です」
アルがニカっと笑う。
「エルフの人たちが無気力で、薬を飲んでくれないなら…… **『飲みたくなる状況』と『断れない空気』**を作ればいいんです」
■ 作戦目標:全エルフへの経口投与
アルは黒板に図を描き始めた。
【目標】 世界樹の根元に住む「無気力組(約300名)」に、リゼラ先生の薬を飲ませる。
【課題】
1.彼らは家から出ない(引きこもり)。
2.薬が死ぬほど不味い(泥とゴムの味)。
【解決策:文化祭】
「まず、彼らを外に引っ張り出す『餌』が必要です」
アルがリオを指名する。
「リオ。孫が学校で劇をやると言ったら、お祖父ちゃんはどうする?」
「絶対見に来ます! 這ってでも来ます!」
「正解。 生徒たちに『家族を招待しなさい』と言えば、彼らは重い腰を上げて出てくる。 これが第一段階、**『強制連行』**です」
「言い方が物騒ね……」
「次に、会場には美味しそうな匂いを充満させます」
アルはリゼラを見た。
「先生。あの薬、加熱しても成分は飛びませんか?」
「ええ。魔力結合してるから、煮込んでも大丈夫よ」
「なら、**『特製・濃厚ポタージュ』**に混ぜましょう。 歌うニンジン、カボチャ、サツマイモ……甘くて味の濃い根菜で煮込んで、スパイスで香りを誤魔化す。 これを屋台で、『生徒たちが育てた野菜です!』って配るんです」
リゼラが膝を打った。
「なるほどね! 『薬を飲みなさい』と言えば拒否されるけど、 『孫が作ったスープ』なら、断れるわけがない!」
「しかもタダじゃなくて、少額でもお金を取れば、『対価を払った食事』としてさらに警戒心が薄れます。 これが第二段階、**『集団投薬』**です」
私は呆れて天井を仰いだ。 合理的すぎる。 感動的な家族の触れ合いを、完全に「治療プロセス」として利用している。
■ 物理的な「舞台装置」
「でも、アル」 私が口を挟む。
「世界樹の根元は広場になっているけれど、何もないわよ? 屋台や舞台なんて、誰が作るの?」
アルは、足元の寝袋を指差した。
「……ん。出番」
ネーヴがのそりと起き上がり、工具箱を撫でた。
「会場設営、担当。 ノーム五十体、フル稼働。 ……一晩で、城だって建ててみせる」
……忘れていた。ここには「一人建設会社」がいたんだった。 トルノスの工房で量産された「魔樽」と、進化したノーム部隊がいれば、屋台の百や二百、造作もないだろう。
「これでハードウェア(会場)は解決です」
■ 最後の切り札「歌姫」
「あとは、仕上げの『ショック療法』ですね」
アルは、少しだけ真面目な顔になった。
「薬で体の毒を抜いても、心が凍ったままじゃ意味がありません。 彼らの感情を揺さぶり、熱を取り戻させる『何か』が必要です」
セリナが、ニヤリと笑って手を挙げた。
「はいはい、わかってるよ〜。 **『エリシアちゃん』**でしょ?」
アルが頷く。
「はい。 2年前、彼女の歌は、……じゃなくて『寄生体』に支配された聖騎士団たちの心を呼び戻しました。 今の殿下の歌なら、きっとエルフたちの無関心も吹き飛ばせるはずです」
「オッケー。 『世界樹の下で歌いませんか?』って手紙、送っておくわ。 ……たぶん、二つ返事で飛んでくると思うけど」
エリシアの今のペンダント(緑の宝石)は、魔力を増幅して広げる機能がある。 世界樹の下で歌えば、その効果は森全体に波及するだろう。
■ タイトル決定
私は、ホワイトボード(黒板)に書かれた完璧な作戦計画を見上げた。
1.家族の情で誘い出し、 2.スープで薬を飲ませ、 3.歌で心を解凍する。
完璧だ。 教師として、この「課外授業」を許可しない理由がない。
「……いいわ。やりましょう」
私は宣言した。
「世界樹学園・主催。 秋の特別行事――『世界樹祭』!!」
「「「おおーっ!!」」」
リオが拍手し、ネーヴが工具を鳴らし、リゼラが不敵に笑う。
「忙しくなるわよ。 生徒たちには『お祭り』だと説明して、準備に巻き込みなさい。 ……裏テーマが『集団治療』だなんて、おくびにも出さずにね」
「了解です!」
アルが敬礼する。 その顔は、かつて北の領地で泥まみれになっていた時と同じ、 「楽しい悪巧み」をする少年の顔だった。
こうして。 静寂に包まれていた妖精の森に、 かつてない「騒音」と「熱狂」を持ち込む計画が、動き出した。
(……見ていなさい、世界樹。 あなたの足元で眠っている住人たちを、 ニンジンの匂いと歌声で、叩き起こしてあげるから)
私は胃薬をゴミ箱に投げ捨て、 久しぶりに、教師として武者震いをした。




