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第2章 第22話 手紙と魔樽と、悪友による「ツンデレ予報」

(視点:ドワルガ/王国軍参謀室)


「……『ノームの主食は、薄めた魔樽だそうだ』」


 アルからの定期報告書の一文を読んだ瞬間、私は思わず天井を仰いだ。


「……あの子たち、私の知らないところで『精霊のアル中化』を進めてない?」


 夜の参謀室。  いつものように窓から不法侵入して、私の秘蔵のロイヤル・サルートを開けているセリナが、身を乗り出してくる。


「なになに? 妖精大陸からの定期報告?」


「ええ。内容は……頭が痛くなるほど順調よ」


 私は手紙を机に広げた。  そこには、驚くべき(そして呆れるべき)成果が羅列されていた。


『成果1:魔樽マダル、完成』  世界樹の枝で作った樽に、ニンジンを漬け込んで熟成させた「魔力酒」。  試作品の段階ですでに高い魔力保持率を記録。


『成果2:ノーム飴部隊、稼働中』  学園の修繕、清掃、実験補助。あらゆる雑務をこなす「石の妖精さん」たちが、ニンジン飴を動力源に24時間体制で働いている。


「……で、ここからが問題よ」


 私は手紙の後半を指差した。


『魔樽(薄め版)は、魔石・ニンジン・飴に続く“常食魔力源”として有望です。  つきましては、近いうちに――  ルシアさんにぜひ、テスト(試飲)をお願いしたいと考えています。』


 その下に、言い訳がましく追伸がある。


『※もちろん安全性確認のためです。   決して深い意味ではありません。あくまで被験体として優秀なので。』


「……ふふっ」


 セリナが吹き出した。


「やだ、アルくん。これ、完全にデートのお誘いじゃない?」


「違うわよ。研究よ。  あの子の頭の中は、『効率的な実験』のことでいっぱいだわ」


「いやいやドワちゃん、文脈を読みなさいよ。  『僕の手料理(魔樽)、君に食べてほしいな』って書いてあるのと一緒よ?」


「語弊がありすぎるわ! 液体燃料(魔力酒)よ!?」


 とはいえ、相手がルシアなのは妥当だ。  ニンジンも魔樽も、普通の人間には強すぎる。魔族である彼女なら、その効果と安全性を正確にジャッジできるだろう。


 ……だが。  私はふと、ある事実に思い当たって、顔を青ざめさせた。


「……ねえ、セリナ」


「ん?」


「アルって、ここ最近、誰かに手紙を出してた記録ある?」


 セリナは記憶を探るように天井を見つめ、それから首を横に振った。


「ないわね。  ここ三ヶ月、あの子からの便りは、この『ドワルガ宛の業務報告』だけよ」


「……つまり?」


「エリシア姫にも、ルシアちゃんにも、三ヶ月間音信不通ってこと」


 室内の温度が、急速に下がった気がした。


 マメな性格のアルのことだ。最初は頻繁に送っていただろう。  だが、研究に没頭するあまり、ここ数ヶ月は完全に筆が止まっていた。  その状態で、いきなり届くのが――  『実験台になってくれ(意訳)』という呼び出し。


「……死ぬわね、あいつ」


 私が呟くと、セリナも神妙な顔で頷いた。


「うん。物理的には死なないだろうけど、社会的に死ぬわね。  乙女心を三ヶ月放置した挙句に『仕事の話があるから来て』だもの。  私なら刺すわ」


「ルシアなら斬るわね」


■ セリナ劇場:ルシアちゃんの反応予想


 するとセリナが、急に立ち上がって咳払いをした。  リュートを構え、何やら役に入り込んだ顔をする。


「ではここで、この手紙を受け取った時のルシアちゃんの反応を再現してみましょう」


「……嫌な予感しかしないわね」


 セリナは髪をかき上げ、ツンと澄ました表情を作った。  声色を変え、ルシアの少し低めで凛とした声を真似る。


「『……はぁ?  なによこれ。三ヶ月も音沙汰なしで、いきなり呼び出し?  しかも用件が“魔樽の実験台”?  ふざけるんじゃないわよ、あの鈍感男!』」


 ……似てる。無駄に似てる。


「『絶対行かないわ。行くもんですか。  私だって暇じゃないのよ。将軍の娘として公務もあるし、剣の稽古だって……』」


 セリナはそこで一拍置き、今度は少し頬を赤らめて、モジモジし始めた。


「『……でも、まあ。  魔樽の研究は重要だし? 魔族の未来に関わることだし?  あくまで“公務”としてなら、行ってあげなくもないけど……?』」


 チラッ、と上目遣いで手紙を見る演技。  そして、最後は満面の笑み(デレ)で締めくくる。


「『――もう、しょうがないわね!  この私が直々に味見してあげるんだから、感謝しなさいよね!  ……着ていく服、どれにしようかな♡』」


 ブフォッ!!


 私は耐えきれず、飲んでいた高級ウイスキーを吹き出した。


「ちょ、ちょっと! 汚いじゃない!」


「あんたが笑わせるからでしょうが!  ……悔しいけど、想像できすぎて腹が立つわ!」


 目に浮かぶようだ。  手紙を握りしめて怒りつつ、鏡の前で服を選び始めるルシアの姿が。  そして、それを迎えるアルが、何も気づかずに「やあ、来てくれたんだ。データ取らせて」とか言って、さらに地雷を踏む光景が。


「あー、おなか痛い」


 セリナがソファでのたうち回って笑っている。


「アルくん、絶対ボコボコにされるよ。  『なんで連絡よこさなかったのよ!』って詰められて、  しどろもどろになって、  最後は『でも、会えて嬉しい』とか言われて撃沈する未来が見える〜!」


「……若いわねぇ」


 私は涙を拭った。  戦争だの政治だので胃を痛めている私たちとは大違いだ。  あの子たちの周りだけ、世界がピンク色に染まっている気がする。


「……まあ、いい薬じゃない?」


 私は気を取り直して、手紙を畳んだ。


「魔樽の完成はめでたいけど、女心の難しさは研究じゃ分からないからね。  たっぷりと絞られてくればいいわ」


「そうそう。  その理不尽も含めて、青春の醍醐味よ」


 セリナは楽しそうにグラスを空けた。


 遠い妖精大陸の空の下で、  鈍感な少年がツンデレな少女に振り回される未来を幻視しながら、  私たちは「大人の時間(悪巧みの続き)」に戻ることにした。


 ……頑張りなさいよ、アル。  魔石の研究より、そっちの攻略のほうが難易度は高そうだけどね。

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