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第2章 第19話 まさかの一手、あるいは「石人形」への餌付け

「――ノームに、飴を舐めさせる?」


 叫んだのは私だ。  ニンジンキャンディの試作品(失敗作含む)が散らばった研究台を前に、私は完全に反応に困っていた。


 対するアルは、いつもの「妙に説得力のある」真剣な顔でこう言った。


「はい。正確には、ドワーフの生徒が舐めるのではなく、**召喚されたノーム自身に飴を持たせる(・・・・・)**という案です」


 私はこめかみを押さえた。


「待って。整理しましょう。  当初の予定は、『魔力の少ないドワーフの子に飴を舐めさせて、本人の魔力を底上げする』だったはずよ」


「そうです。でも、それだとリスクがあります」


 アルは、手元のメモを見ながら指摘した。


「ドワーフは身体が頑丈とはいえ、まだ子供です。  高濃度の魔素を含んだ飴を日常的に摂取させれば、魔力酔いや依存症のリスクがゼロじゃない。  ……子供の内臓を、魔力タンク代わりにするのは避けるべきです」


 ぐうの音も出ない正論だ。  私もそこを懸念して、配合率の調整に頭を悩ませていたところだった。


「そこで、発想を変えました。  『燃料』が必要なのは、術者ドワーフじゃなくて、機械ノームの方だ、と」


 アルの足元で、ネーヴが寝袋から顔を出した。


「……ノーム、魔力で動く。  魔力、外から足せば、動く。  飴、魔力の塊。  ……いける」


「いける、じゃないわよ!」


 私はツッコミを入れた。


「ノームは精霊よ? 土の塊よ?  口なんてただの飾りだし、消化器官なんてないわ。  どうやって飴を摂取するのよ」


 するとアルは、静かに言った。


「……リゼラさん。  ゴブリンの話、覚えていますか?」


「え?」


「僕の領地のゴブリンは、ニンジンを食べて知能が上がりました。  あれは、生物としての消化吸収だけじゃなく、  『魔力核』が直接、ニンジンの魔素を取り込んだ結果だと推測しています」


 私はハッとした。


「つまり……ノームのコアに、直接吸わせる?」


「はい。  ノームに飴を『食べさせる(内部に取り込ませる)』ことで、  飴を**『外部バッテリー』**として機能させるんです」


 思考が高速回転する。


 ノームは術者の魔力を糧に実体化する。  その維持エネルギーを、術者からではなく、体内に取り込んだ「高魔力物体(飴)」から直接供給させる。  理論上は――可能だ。


 もしこれが成功すれば、  ドワーフの子供たちは「自分の魔力をすり減らさずに」、  長時間ノームを使役できることになる。


「……盲点だったわ」


 私は震える手で、試作飴(魔力は高いが激マズで廃棄予定だった『試作3号』)を手に取った。


「人間やエルフが食べる前提で考えていたから、『味』や『安全性』に縛られていた。  でも、ノームが燃料として使うなら……」


「味も、副作用も関係ない。  純粋に『魔力効率』だけを追求した飴でいいんです」


 アルがニカっと笑う。


「これなら、子供たちの体に負担をかけずに済みます」


 ……この子は、本当に。  「優しさ」を「冷徹な合理性」で包んで提示してくる。


「いいわ。実験しましょう」


 私は白衣を翻した。


「ネーヴ! ノーム一号を出しなさい!  世界初、**『精霊への餌付け実験』**よ!」


■ 実験開始:オーバークロック


「ノーム、起動」


 ネーヴの言葉に応じ、床からノーム(赤帽子)がポコッと現れる。


「へい親方! 仕事っすか! 今日は何を壊しますか!」


「仕事じゃない。食事」


 ネーヴが、私の渡した「高濃度ニンジンキャンディ」をノームに手渡す。


「これを、体の中に入れろ」


「へい? メシっすか?」


 ノームは飴を受け取り、不思議そうに眺めた。  そして――


 パクリ。


 石でできた口に、飴を放り込んだ。  咀嚼音はない。  飴はノームの体内に滑り込み――胸の中央、魔力核のあたりで止まった。


 その瞬間。


 ブゥン!!


 ノームの全身が、赤く発光した。


「うおっ!? 力が……力が湧いてくるっす!!  親方! これヤベェっす! みなぎるっす!!」


 ノームが叫ぶ。  その動きが、さっきまでの倍速になった。  シュシュシュ! と残像を残しながら、床の雑巾掛けを始めている。


「速っ!?」


 リオがのけぞる。  ただの雑巾掛けが、高速研磨作業に見える。床板が削れている気がする。


「……出力、150%上昇。  術者(私)からの魔力供給、ほぼゼロ。  ……自律駆動してる」


 ネーヴが計器を見て報告する。


「成功ね……!」


 私はガッツポーズをした。  飴が溶け尽きるまでの間、ノームは術者から切り離されて「独立稼働」している。  これなら、魔力の少ない子供でも扱える!


「……ただし」


 アルが、暴走気味に掃除を続けるノーム(すでに床の一部が白くなっている)を見て苦笑する。


「ちょっと元気になりすぎですね。  出力調整リミッターをかけないと、教室が壊れます」


「贅沢な悩みね。調整は私の専門分野よ」


 私は新しいノートを開き、猛烈な勢いで書き殴った。


『実験名:魔導外部電源バッテリーとしてのニンジン飴』  ・対象:ノーム等の自律型精霊  ・効果:術者の負担ゼロで稼働時間を延長  ・課題:出力過多による暴走制御(※要・鎮静成分の配合)』


「……決まりね」


 私はアルとネーヴを見渡した。


「この技術、完成させるわよ。  ドワーフの子たちに、『魔法使い』になってもらうためにね」


「はい!」 「……ん。やる」


 研究室に、熱気が満ちる。  まさかの一手。でも、完璧な一手だ。


(……見てなさい、父さん。  あなたの作った『失敗作(妹)』と『異物アル』が、  私の手で、新しい常識を作ろうとしているわよ)


 私は試験管を振りながら、  久しぶりに研究者として心の底から笑った。

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