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【2章完結】滅びた領地から始まった -多種族ごちゃまぜ国家再興計画-  作者: 岩田仁
第1.5章 幕間 5年前の誓い ドワルガ、セリナ、レリア、トルノス
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【第1.5章 第3話】狂宴の終わりと始まり

(視点:ドワルガ/5年前・とある裏通りの酒場)


 東の工房でトルノスを仲間に引き入れた私たちは、その足で王都の裏通りにある酒場「黒猫のあくび亭」へ向かった。  安いエールと、脂っこい肉料理が売りの、労働者たちの溜まり場だ。  煤けた天井、怒号のような笑い声。


 そんなむさ苦しい空間の奥まった席に――異質すぎる存在が一人、座っていた。  フードを目深に被っているが、隙間からこぼれる金髪と、隠しきれない高貴なオーラ。  そして何より、ジョッキではなく「自前のワイングラス」で酒を飲んでいる。


「……おい、セリナ。まさかあれが?」


「そうよ。この国で唯一、こんな吹き溜まりに顔を出す変わり者のハイエルフ。  レリア王女よ」


 私たちはその席へ向かい、ドカドカと腰を下ろした。


「相席、いいかしら? お忍びのお姫様」


 レリアが顔を上げ、私たち3人を見て眉をひそめた。


「……あら、影ギルドの女狐に、西の奇人。それに東の偏屈職人? なんの嫌がらせ? 私の静かな一人飲みを邪魔しないでちょうだい」


「面白いおもちゃを持ってきたのよ」


 私はテーブルの上に、汚れた設計図と、トルノスが作った試作パーツを広げた。  そして、単刀直入に切り出した。


「『魔導義肢』よ。ドワーフの技術で作った最高傑作。  ……だけど、動かすための魔力が足りないの。  だからあんた、手伝いなさい」


 レリアは呆れたようにため息をついた。


「……初対面の王族にする依頼がそれ? それに、機械なんて野蛮なもの、私が触るとでも?」


「触るわよ。あんたは退屈してるから」


 セリナが横からニヤリと笑う。


「それにね、レリア。あんた知ってるはずよ。  **105年前の『魔族侵攻』**で手足を失ったエルフの古参兵たちが、今どうしてるか」


 その言葉に、レリアの表情が強張った。  105年前の大戦。  多くのエルフが傷つき、手足を失った。  魔法で治療はできても、失った部位は戻らない。彼らは「名誉の負傷」として称えられつつも、不自由な隠居生活を強いられている。


「……私の知り合いにも、5人いるわ。  かつての剣聖や、弓の名手が……今はスプーンすらまともに握れずにいる」


 レリアが静かに語る。  私はそこへ、義手の設計図を突きつけた。


「こいつがあれば、そいつらはもう一度、剣を握れるかもしれないわよ」


 レリアの瞳が揺れた。  彼女はトルノスの作った金属の指を手に取り、まじまじと見つめた。  そして、微量の魔力を流し込む。


 カシャ、と指が動いた。


「……美しいわね。この構造」


 彼女は顔を上げ、覚悟を決めた目を私に向けた。


「いいわ。条件付きで協力する。  その5人の古参兵たちに、この義手をモニターとして提供して。  彼らと、そして私が……一時的に魔力供給バッテリー役を引き受けてあげる」


 あくまで一時的な支援。  しかし、それは私たちにとって喉から手が出るほど欲しい「実証データ」だ。  すると、隣で黙って酒をあおっていたトルノスが、ボソリと言った。


「……助かる」


 一瞬、時が止まった。  私とセリナは顔を見合わせた。


「おい、聞いたか今の? あのドワーフがエルフに礼を言ったぞ」


「明日は槍でも降るんじゃない?」


 セリナが茶化すと、トルノスは顔を真っ赤にして怒鳴った。


「う、うるせぇ! 事実だろ! 俺には魔力がねぇ。いいモン作っても動かなきゃ意味がねぇんだ。  ……エルフだろうが何だろうが、俺の技術を活かしてくれるなら、文句はねぇよ」


 その不器用な言葉に、レリアがくすりと笑った。  場が和んだ。  私は新しい酒を注文し、高らかに宣言した。


「よし! これでハード(ドワーフ)とソフト(エルフ)が揃った! 私はこれから軍に掛け合って、**『魔導義肢部隊』**を設立する! まずは小隊規模だけど……5年後には、国一番の精鋭部隊にしてやるわ!」


 トルノスも、ドンとジョッキを叩きつけた。


「おうよ! 俺も工房を拡張する! 寂れた東の工房街を、この義手で埋め尽くしてやる。  『世界一の義手工房』にして……見返してやるんだ、あの石頭の組合連中を!」


 私とトルノス。  社会からはじき出された二人の技術屋が、酒の勢いで夢を語り合う。  「あのアルが帰ってきた時のために」という共通の目的が、私たちの野望に火をつけていた。


「乾杯だ!」


 ガチンッ!!


 安いジョッキと、高級なワイングラスが乱暴にぶつかり合う。  その様子を見ていたレリアの瞳が、潤んでいた。  頬を赤らめ、うっとりとした表情で私たちを見ている。


「……いいわね。こういうの。  種族も身分も超えて、技術と情熱だけで繋がる……  王宮の夜会にはない、本当の『熱』だわ」


 彼女が涙を拭うと、セリナがすかさずツッコんだ。


「あらあら、泣いてんの? お姫様」


「酔っ払いの戯言に感動するなんて、安上がりな王族ねぇ」


「う、うるさいわね!」


 レリアは顔を背けたが、その表情は真剣だった。


「……ねえ。  私も、もっと何かできないかしら」


「は? 魔力くれるんでしょ?」


「それだけじゃ足りないのよ! 一時的な手伝いじゃなくて……あなたたちみたいに、もっと未来に繋がるような大きなことがしたいの!」


 レリアは身を乗り出した。


「ドワルガは部隊を作る。トルノスは工房を大きくする。  なら、それを維持する『人材』はどうするの? 私たちが死んだら、この技術は途絶えるのよ?」


 その言葉に、私はハッとした。  確かに。魔力のあるエルフと、技術のあるドワーフ。この連携を「システム」として残さなければ、一過性の奇跡で終わってしまう。


「……じゃあ、育てるしかないわね」


 私が呟くと、レリアの目が輝いた。


「そうよ! 育てるの! ドワーフの子に魔導を、エルフの子に技術を教える場所! **『学校』**を作るのよ!」


「学校ぉ?」


「そう! 私が校長になる! 王宮でのらりくらりやってるより、未来の技術者を育てる方がよっぽど有意義だわ! 世界樹の麓に、種族ごちゃまぜの学園をぶっ建てるのよ!」


 酔った勢いか、本心か。  王女様の口から飛び出した壮大なプランに、私たちは顔を見合わせた。


「……ぷっ、あはははは!」


 セリナが腹を抱えて笑い出した。


「いいわね、最高! 軍隊、工房、そして学校! 全部まとめて面倒見てやるわよ、この影のギルド長様が!」


 こうして、夜の酒場で3つの誓いが立てられた。  義手隊の発足。  工房の拡張。  そして、世界樹学園の設立。


 全ては5年後。  あの子が帰ってきた時に、「おかえり」と言える場所を作るために。


 ……まあ、その数年後。  レリア校長が「ドワーフが座らない!」と胃を痛め、  トルノスが「エルフがハンマーを持てない!」と怒鳴り散らす未来が待っているのだが。


 それはまた、別のお話。


 ――外伝・完。

12月から2章を毎日、更新開始します。(21時10分)

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