【外伝1-2】分岐36話 Bad End 選ばなかった選択肢(2)
(視点:アル・エルンスト)
王都の広場には、冷たい雨が降っていた。 石畳を叩く音が、民衆の罵声と混ざり合って響いている。
僕の手には、重い手錠。 英雄の礼服は剥ぎ取られ、薄汚れた囚人服が肌に張り付いている。
「売国奴!」
「魔物使い!」
「あいつがゴブリンに武器を横流ししたんだ!」
「私たちの税金を使って、怪物を育てた悪魔め!」
石が飛んでくる。額に当たって、血が流れる。
あの日。 僕が参謀室を飛び出した時には、もう全てが終わっていた。
王宮は炎に包まれ、混乱に乗じた過激派の手によって、エリシアは連れ去られていた。 ドワルガ先生は、セリナさんの件で精神を病んだと見なされ、全権限を剥奪されて絶海の孤島へ幽閉された。
そして北の領地からは、絶望的な報告が届いた。 僕が送った「支援物資」を摂取して異常進化したゴブリン(おそらくゴブリンロード)たちが暴走し、領地を壊滅させた、と。 ガルドさんも、ヴェルトランさんも、戦火に飲まれて死んだ。
……誰も、守れなかった。
政府は、民衆の怒りの矛先を逸らすための「生贄」を必要としていた。 かつての英雄は、今や「魔物と通じた反逆者」として断罪される。
処刑台への階段を上る。 一歩、また一歩。足が鉛のように重い。
僕は、処刑台の上から広場を見渡した。 誰もいない。 僕を助けてくれる仲間は、もう一人もいない。
「個人の力」と「合理性」で解決できると過信した結果が、これだ。 僕は「効率」を求めて、一番大切な「泥臭い過程」を切り捨てた。 その報いが、この景色だ。
もし、あの夜。 「死んだふり」を選んでいたら?
名誉も地位も捨てて、ただの「アル」として北へ帰り、みんなと一緒に泥にまみれていたら? セリナさんは死なず、先生と笑い合い、エリシアをこっそり迎えに行けていただろうか。
きっと、ゴブリンと一緒に風呂に入って、 「お前ら食い過ぎだぞ!」って笑いながら、 平和な夜を過ごせていたはずなのに。
「……最後に、言い残すことはあるか」
執行人が尋ねる。 事務的で、冷たい声だ。
僕は、鉛色の空を見上げた。 雨が目に入って、滲む。
「……計算、間違いでした」
「は?」
「効率よりも、正しさよりも…… 『ただいま』って言える場所を、守るべきでした」
執行人は怪訝な顔をして、剣を振り上げた。 その刃が、鈍い光を放つ。
刃が落ちる瞬間、僕の脳裏に浮かんだのは、 あり得たかもしれない未来の光景。 ここではない、別の世界線の記憶のようなもの。
湯気。 笑い声。 光るニンジン。 泥だらけの仲間たち。
そして、 「おかえり、アル!」 と迎えてくれる、最高の笑顔たち。
(ああ……。 そっちが、正解だったんだな……)
後悔するには、あまりにも遅すぎた。
ガキンッ。
意識が途切れるその時まで、 冷たい雨だけが、僕の頬を叩き続けていた。
――外伝・完




