表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/97

【外伝1-2】分岐36話 Bad End 選ばなかった選択肢(2)

(視点:アル・エルンスト)


 王都の広場には、冷たい雨が降っていた。  石畳を叩く音が、民衆の罵声と混ざり合って響いている。


 僕の手には、重い手錠。  英雄の礼服は剥ぎ取られ、薄汚れた囚人服が肌に張り付いている。


「売国奴!」

「魔物使い!」

「あいつがゴブリンに武器を横流ししたんだ!」

「私たちの税金を使って、怪物を育てた悪魔め!」


 石が飛んでくる。額に当たって、血が流れる。


 あの日。  僕が参謀室を飛び出した時には、もう全てが終わっていた。


 王宮は炎に包まれ、混乱に乗じた過激派の手によって、エリシアは連れ去られていた。  ドワルガ先生は、セリナさんの件で精神を病んだと見なされ、全権限を剥奪されて絶海の孤島へ幽閉された。


 そして北の領地からは、絶望的な報告が届いた。  僕が送った「支援物資」を摂取して異常進化したゴブリン(おそらくゴブリンロード)たちが暴走し、領地を壊滅させた、と。  ガルドさんも、ヴェルトランさんも、戦火に飲まれて死んだ。


 ……誰も、守れなかった。


 政府は、民衆の怒りの矛先を逸らすための「生贄」を必要としていた。  かつての英雄は、今や「魔物と通じた反逆者」として断罪される。


 処刑台への階段を上る。  一歩、また一歩。足が鉛のように重い。


 僕は、処刑台の上から広場を見渡した。  誰もいない。  僕を助けてくれる仲間は、もう一人もいない。


 「個人の力」と「合理性」で解決できると過信した結果が、これだ。  僕は「効率」を求めて、一番大切な「泥臭い過程」を切り捨てた。  その報いが、この景色だ。


 もし、あの夜。  「死んだふり」を選んでいたら?


 名誉も地位も捨てて、ただの「アル」として北へ帰り、みんなと一緒に泥にまみれていたら?  セリナさんは死なず、先生と笑い合い、エリシアをこっそり迎えに行けていただろうか。


 きっと、ゴブリンと一緒に風呂に入って、  「お前ら食い過ぎだぞ!」って笑いながら、  平和な夜を過ごせていたはずなのに。


「……最後に、言い残すことはあるか」


 執行人が尋ねる。  事務的で、冷たい声だ。


 僕は、鉛色の空を見上げた。  雨が目に入って、滲む。


「……計算、間違いでした」


「は?」


「効率よりも、正しさよりも……  『ただいま』って言える場所を、守るべきでした」


 執行人は怪訝な顔をして、剣を振り上げた。  その刃が、鈍い光を放つ。


 刃が落ちる瞬間、僕の脳裏に浮かんだのは、  あり得たかもしれない未来の光景。  ここではない、別の世界線の記憶のようなもの。


 湯気。  笑い声。  光るニンジン。  泥だらけの仲間たち。


 そして、  「おかえり、アル!」  と迎えてくれる、最高の笑顔たち。


 (ああ……。   そっちが、正解トゥルーエンドだったんだな……)


 後悔するには、あまりにも遅すぎた。


 ガキンッ。


 意識が途切れるその時まで、  冷たい雨だけが、僕の頬を叩き続けていた。


 ――外伝・完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ