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第44話 反逆者の船出、あるいは「栄光ある左遷」

「被告アル・エルンスト。  国法第十二条、聖騎士団への武力行使、および王都防衛軍の独断運用――反逆罪。」


裁判長の読み上げる声は、やけにさらっとしていた。  


中身の重さの割に、紙の音が軽い。


(……ま、形式上はね)


 実際にアルがやったことは――  

南部保護区で暴発しかけた動乱を、炊き出しと歌と交渉で“鎮圧”ではなく“沈静”させたことだ。    

暴れた聖騎士団については「集団食中毒による幻覚」、  

異形になって散ったグレオス総長に至っては、公式記録で  『長期にわたる心労により急逝』  と処理された。


 ……いや、無理があるでしょうよ。  


あれを「心労」で片づけられるなら、この国の医学書は全部焚き火にくべるべきだわ。


■ 判決という名の「茶番」


 だが、この国には「落とし所」が必要だった。  

貴族たちは「平民上がりの小僧が軍を動かした」ことに腹を立て、教会は「総長の名誉」を守りたがり、王家は「実際に救われた事実」に恩を感じている。


 その全部を丸く収めるための判決が、これだ。


「被告アル・エルンスト。反逆の罪により――  北方領地の貴族位および領主権限の剥奪。」


法廷がざわめく。  

貴族席から安堵とも嘲笑ともつかない波が走る。  

「いい気味だ」「蛮族領主の末路よ」……よく言うわ。南部の件、あいつがいなかったら今ごろあんたらの屋敷も燃えていたくせに。


 だが、裁判長は咳払いをして、続きを読み上げた。


「……ただし!  本件における被告の功績、および妖精大陸との学術・魔力研究交流への貢献を鑑み――


 被告を**“交換留学生”として妖精大陸へ派遣する**。  帰国時の身分回復については、別途検討とする」


「以上。閉廷!」


 木槌の音が、カーン! と高らかに鳴り響いた。


(やれやれ。  “反逆罪”で送られる留学、か。前代未聞ね)


■ 控室での答え合わせ


判決後の控室。  


アルは、手錠(形式だけ)を外されながら苦笑していた。


「……反逆者にしては、ずいぶんぬるい扱いですね」


「いやぁ、十分重いですよ」  


アルは首を振る。


「名前は取り返したけど、領主の肩書きは没収ですから」


「没収した権限の預かり先が『私(ドワルガ参謀)』になってる時点で、ほぼ“実家の物置にしまっておく”扱いに近いのよ」


 私が呆れて言うと、セリナが横から口を挟んだ。


「いいじゃない。  これなら『追放された』って体裁で堂々と妖精大陸に行けるし、あっちでニンジンの研究もし放題よ?」


「そうですね。  罰ゲームに見せかけたご褒美旅行、ありがたく受け取ります」


 まったく、このガキは。


 転んでもただでは起きないどころか、転んだ勢いで海を渡ろうとしている。


■ 王女からの「呪い」のプレゼント


 そこへ、バタン! と扉が開いた。


「アル!」


 警備兵を振り切って、エリシア殿下が駆け込んできた。

 ドレスの裾が乱れるのも構わず、息を切らせて。


「殿下、ここ、まだ半分公式の場――」  と注意しかけて、やめた。もういいわ、最後くらい。


 殿下は胸元を押さえ、小さなケースを差し出した。


「これ……持っていって」


 中には、あのペンダントの残骸。

 歌を吸い込み、力をねじ曲げていた、呪われた装飾品のかけら。


「……殿下、それはさすがに縁起が悪いのでは?」  アルが引いている。


「そうね。正直、私から見ても呪われたゴミよ」  殿下はあっさり認めた。強い。


「でもね――ここには、私の“数年分の歌”のデータが溜まってるはずなの。  妖精大陸なら、魔力の研究が進んでる。  呪いごと分解するなり、歌の力だけ取り出すなり、きっと何かに生かせると思う」


 彼女は、真っ直ぐにアルを見た。


「だから、預かって。  ……捨てないで」


 それは、「私を忘れないで」という言葉の代わりだったのかもしれない。


 アルは、しばらく黙ってペンダントの欠片を見ていた。  そして、真面目な顔で言った。


「……預かります。  殿下の歌の“残りカス”だとしても、リサイクルすれば資源ですからね」


「残りカスって言ったわね!?」  


エリシアの拳が軽くアルの肩を小突く。  


その力の入り具合が、ちょっとだけ名残惜しそうだった。


■ それぞれの旅立ち


 出発の日、港。


 妖精大陸行きの船は、白い帆を張って揺れている。  乗船名簿には、アルの他に二つの名前。


「ナーヴ、乗船。工具よし、素材よし」


「リオもいまーす! 水着よし!」


 当たり前のような顔で二人がタラップを登っていく。


「お前たちは本当に迷いがないな」  


思わずため息が出た。


「先生の許可は?」


「「事後承諾で!」」


「……私の教育が良すぎたわね」


 ナーヴは相変わらず無口だが、その目は新しい工房と未知の技術への期待でキラキラしている。  


リオは振り返って、私にピースサインを送ってきた。


「先生、泣いてる?」


「泣いてない。これは海風と、花粉と、寝不足よ」


「じゃあ、向こうで新しい水系魔法と、美味しいニンジン料理探してきます!」


「お前はニンジン教か」


 ルシアは、別の船だ。


「魔族領への報告もあるし、あっちの方でも妙な“黒いモノ”の噂が出てる」


彼女は風をまとって立ちながら、淡々と言った。  


アルとは違う船。違う道。


「一人で大丈夫か?」


「大丈夫じゃなくてもやるしかないでしょ。私は将軍の娘よ」  


ルシアは片目をつぶってみせる。


「それに――困ったら、またニンジンを送って。  あれ、魔族でも食べられるし。……たまには、お茶請けが欲しいから」


「世界平和の鍵がニンジンとはな」


「いいじゃない、“野菜で繋がるホットライン”。」


 ルシアは笑って、アルの方へ一度だけ視線を送り、  そして振り返らずにタラップを上っていった。


■ 行ってこい


「……さて」


 港に残ったのは、私とセリナと、エリシア殿下。


「さびしくなる?」  セリナが肘で小突いてくる。


「仕事が減って清々するわ」


「嘘つき」


 エリシア殿下が、一歩前に出る。  海風が、彼女の髪を揺らした。


「ドワルガ参謀」


「なんでしょう、殿下」


「北の領地——書類上は、あなたの管轄になるのよね」


「そうなります。  アルが帰ってくるまで、私が“意地悪な管理人”として守っておきますよ」


「ええ。お願い」


 殿下は、遠ざかる船を見つめた。


「じゃあ、アルが“ただいま”って戻ってきたとき、  一番に“おかえり”って言ってあげてね」


「……ええ、もちろん」


 それは、命令ではなく、一人の友達から友達への頼み事のように聞こえた。


ドラが鳴る。  


帆が風を孕み、船が岸を離れる。


甲板の上で、アルが手を振っているのが見えた。  


その横で、リオが踊り、ネーヴが何かの計測を始めている。


 ――騒がしい連中だ。  


でも、この騒がしさが、きっと世界を変える。


「全員、無事に帰ってこい。  書類の山も、湯も、ニンジン畑も、ちゃんと残しておいてやるから」


 私も、誰にも聞こえない声で、同じ言葉を乗せる。


 ――行ってこい、私の自慢の生徒たち。


 船が水平線の彼方へ消えていく。  第1章の幕が下り、新たな冒険の幕が上がる。


 私はヒールを鳴らして振り返った。  さあ、仕事に戻るわよ。  あの子たちが帰ってくる場所を、守り抜くためにね。


(第1章 完)

これでいったん完結です。 近日中に外伝を掲載する予定です。

2-5章に向けたプロットもあり、2章は推敲中です。みなさんの反応次第で執筆も頑張れますので、乾燥のほど、よろしくお願いいたします。

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