第4話 剣術必修? 知りませんね、僕はドリル付きハルバード(師匠の手作り)を使います
(視点:ドワルガ)
「……運? 今、運って言ったかしら?」
私は執務机をバン! と叩き(痛っ……)、目の前の少年をねめつけた。
「はい。たまたま足が滑って、たまたま相手の剣が逸れて、たまたま肘が入りました」
アルは汗を拭きながら、本気でそう信じ込んでいる顔で答える。 ……まったく、この無自覚天然素材は。
「あのね、少年。相手は三年の首席候補よ? それを入学三日目のヒヨッコが、木剣一本で無傷で転がしたの。『運』で片付けられたら、向こうの立つ瀬がないでしょう?」
「でも先生、本当に……あ、今のは『読み』が当たっただけというか……」
「ほう、『読み』、ね」
私は口角を吊り上げた。尻尾を出したわね。
見ていたわよ、あの瞬間。 上級生が殺気全開で突っ込んできた時、アルは一歩も引かなかった。 剣士なら普通「受ける」か「弾く」場面で、あの子は半歩だけスッと横にズレた。 まるで、「そこには刃が届かない」と最初から知っているかのように。
あれは剣の間合いじゃない。もっと長い、別の獲物の間合いだ。
「アル。あなた、剣は握り慣れてないわね?」
「……バレました?」
「動きが変態的すぎるもの。『斬る』じゃなくて『止める』動きよ。それも、もっと遠くで」
私は立ち上がり、部屋の隅にある、ベルベットの布を被せた棚へと歩み寄る。
「魚人に育てられたんだったわね。……海の中で、何を振り回してた?」
アルは観念したように、頭をかいた。
「……ハルバード、です。海の中だと、剣じゃリーチが足りないので」
「やっぱり!」
私はパチンと指を鳴らした。
「あなたの『読み』は、長柄武器のそれよ。 相手の剣先が届くより速く、こっちの切っ先を喉元に突きつける――そういう喧嘩の仕方をしてたわね?」
「喧嘩じゃなくて、狩りですけど……まあ、似たようなものです」
アルは苦笑する。 魔族や魔獣相手に「狩り」をしていた経験値が、平和ボケした学生に負けるわけがない。納得だわ。
「なら、なんで剣なんか使ったの? ハルバードを使えばもっと楽に勝てたでしょうに」
「え、だって……軍学校って『剣術必須』じゃないですか」
アルは不思議そうに首をかしげた。
「教本にも書いてありました。『騎士たるもの、剣を友とせよ』って」
「……くだらないわね」
私は鼻で笑い、棚の布をバサッ! と勢いよく剥ぎ取った。
さあ、ご対面よ。
「うわっ!?」
アルがのけぞる。
そこに現れたのは、壁一面に吊るされた、愛しき鉄の芸術品たち。
複雑な機構を組み込んだ槍。
魔力で刃が紅く染まる斧。
そして、中央に鎮座する、流麗なフォルムの長柄。
「いい、アル? 軍の伝統なんてのは、貴族の見栄と惰性の塊よ。 剣が『上品』? 槍は『雑兵』? ハルバードは『野蛮』? ――笑わせるわ。勝てる武器が正義。美しく勝てる武器こそが至高なのよ」
私は一番長い武器を手に取り、愛おしげに撫でてから、アルに放り投げた。 アルは慌てて受け止める。
「おっと……これ、重いですね。重心が変だ」
「失礼ね! そいつは私の最高傑作、試作型可変ハルバード『のびる君2号』よ!」
「……名前」
「名前はいいの! 見て、この機能美! 魔力を流すと柄が三段階に伸びるのよ? さらに先端が回転してドリルになるギミック付き!」
「ドリルは要らないんじゃ……」
「ロマンよ! そこが可愛いの!」
私は次々と武器を取り出し、アルに解説(という名の布教)を始めた。頬が緩むのを止められない。
「こっちは『衝撃吸収型モーニングスター』! 殴っても手が痛くない優しい設計なの!」
「殴られる方は痛いですよね?」
「当たり前でしょう、武器なんだから! で、こっちの子が『自動追尾機能付き投げナイフ』!
……まあ、戻ってこないんだけど」
「使い捨て!?」
アルのツッコミが心地いい。
こいつ、引いているようでいて、目がキラキラしている。
隠しても無駄よ。
あなたもこっち側(機能美オタク)の人間ね?
「……先生。これ、全部先生が作ったんですか?」
「ええ、そうよ。参謀の仕事の合間にな。……ほら、ストレス解消ってやつ?」
アルは『のびる君2号』を構え、軽く空気を薙いだ。 ヒュン、と鋭い風切り音が鳴る。 さっきまでの借りてきた猫みたいな動きが嘘のように、水を得た魚のような構え。
「……いいですね、これ。魔力の通りが、すごくいい」
「分かる? 分かるわよね!? そうなのよ! そこの導管にはミスリル合金を三層コーティングして、魔力ロスを極限まで……!」
気付けば、日が傾くまで語り合っていた。
授業? 知らないわよ、そんなもの。
サボりよ、サボり。
夕日が差し込む部屋で、アルは『のびる君2号』を愛おしそうに撫でていた。
「……先生。僕、これ使ってもいいですか?」
「ん?」
「『騎士は剣』なんて言われても、やっぱりしっくりこなくて。 僕、カッコつけたいわけじゃないんです。 ただ、守れるなら、手段は何でもいい」
その横顔を見て、私はふと、昔の友人を思い出した。
『ドワルガ、見た目が悪くてもいい。一番丈夫な壁を作ってくれ』
そう言って笑った、泥だらけの領主。
(……ああ、やっぱり親子ね)
私はフフッと笑い、アルの背中を叩いた。
「許可するわ。 校則がどうとか言われたら、『技術参謀ドワルガの極秘装備テスト中』だと言い張りなさい。私が全力で揉み消してあげる」
「ありがとうございます! ……あ、でも先生」
「なによ」
「この『のびる君』って名前だけ、変えてもいいですか?」
「……却下よ」
「ええー……」
アルががっくりと肩を落とす。
アルががっくりと肩を落とす。 その姿を見て、私はたまらず吹き出した。
「でも、ありがとうございます。大切にします。」
その一言と、年相応の笑顔が、不思議と胸に残った。
――やれやれ。
まるで新しい銘酒を見つけた気分だ。




