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第39話 名無しの英雄

(視点:アル・エルンスト)


 ……ドワルガ先生。  また、やらかしました。


 でも、今回は言い訳をさせてください。  


王都での「死」から、今日までのこと。  


仮面の下で僕が何を計算し、なぜその選択をしたのか。


◆ 不可解な死と、二つの分岐点


 最初に「死んでください」と提案したのは、セリナさんでした。


 参謀室の裏口。


真夜中の密談。  


いつもなら軽口を叩く彼女が、その夜は青ざめた顔で、震える手を抑えていました。


「……アル。あんた、このままだと確実に殺されるよ」


 過激派の動きは明らかにおかしかった。  

 

 彼らを敵視していた貴族たちが相次いで不審死を遂げているだけじゃない。


「私の部下が……『影』の中でも特に優秀なチームが、昨日、全滅したわ」


 セリナさんの言葉に、背筋が凍りました。


「戦闘の跡すら残っていなかった。  ただ、全員が『心臓麻痺』で、糸が切れた人形みたいに転がっていたの。  ……人間業じゃないわ。あいつらの背後には、もっと得体の知れない『何か』がいる」


 影ギルドの精鋭が、手も足も出ずに全滅させられた。  

 

 それはつまり、僕の警護など紙切れ同然だという宣告でした。


 僕の頭の中にある**「もう一人の自分(冷徹な計算領域)」**が、瞬時に二つの選択肢を弾き出しました。


 プランA:正面突破(リーダーの道)  

今の僕には、戦力があります。  

「盾」のガルド、「知恵」のヴェルトラン、「技術」のドワルガ先生。  

そしてルシアやエリシア殿下の力。  

これらを総動員して過激派と全面戦争を行えば、勝率は決して低くありません。  

物語なら「真のリーダー」が選ぶべき、王道の勝利でしょう。


 プランB:偽装死(幽霊の道)  

セリナさんが示した、リスク回避の策。  

僕が死んだことにして、盤面から降ります。  

歴史から「アル・エルンスト」の名前を消し、地下に潜ってやり過ごす。  

見方によっては「敵前逃亡」。卑怯者の選択です。


 **純粋な合理性ロジックで判断するなら、間違いなく「プランA」**が正解です。  

勝てば権力基盤が手に入る。将来の憂いも断てる。  

その過程で、セリナさんの部下がさらに死のうが(ここまできたのなら)、ガルドさんが傷つこうが、それは「勝利のための必要経費コスト」として処理されるべきものです。


 でも――僕は、それを選べませんでした。


◆ 「コスト」にされたくない


 脳裏に浮かんだのは、誰かが血を流す光景でした。  あの「不自然な死」を迎えた影部隊のように、先生や、ルシアや、みんなが冷たい骸になっていく未来。


 嫌だ、と思いました。  せっかく、みんなが生きて、笑っているのに。  ゴブリンですら「ごめんなさい」を覚えて、一緒に風呂に入っているのに。


 だから僕は、**「プランB」**を選びました。


 合理的じゃないのは分かっています。  

「死んだふり」なんて、かっこ悪い。先生を悲しませ、エリシアを泣かせ、嘘をつき続ける。  

でも、僕が名前とプライドさえ捨てれば――これ以上の**「死人」**は出さずに済むんです。


 それが、僕のエゴでした。

英雄になんてならなくていい。歴史に残らなくていい。  

ただ、手の届く範囲の好きな人たちが、明日も生きていてくれれば、それでいい。


 

「ドワルガ先生、ごめん」


 先生に相談しなかったのは、先生なら間違いなく「プランA(正面突破)」を選び、僕を守るために最前線に立ったからです。  


だから、騙しました。


◆ 名前のない時間


 そうして僕は「叔父」の仮面を被りました。


 周囲には、「魔族侵攻の際に負った酷い火傷を隠すため」と説明しました。


 誰もが納得する、便利な嘘でした。


 でも、その代償は想像以上でした。


 仮面の下で、僕がどれだけ喜んでいても、どれだけ寂しくても、それは誰にも伝わりません。  相手に見えるのは、無機質な「叔父」の顔だけ。  笑いかけても、心配しても、返ってくるのは「礼儀正しい他人行儀」だけ。


「……なら、これでいい」


 そう呟いて、孤独を飲み込めれば、僕はかっこいい「悲劇のヒーロー」になれたんでしょう。  でも、現実は違いました。


 寒かったんです。  ただ、ひたすらに。


 名前を失うこと。顔を失うこと。


それが、こんなにも自分の存在を削り取っていくなんて、計算には入っていませんでした。

「誰も死なないなら安いものだ」と頭では分かっていても、心が追いつかない。


 領地に戻った時、  何も知らない領民たちが、仮面の僕に向かって言いました。


「アル様が遺したこの街を、俺たちが守りますから」


 その言葉を聞いた時、仮面の下で涙が止まりませんでした。  


嬉しいのに、寂しい。  


自分の遺したものが愛されているのに、そこに「自分」はいない。


 「名をなくす」というのは、僕が想定していたよりも、はるかに辛いことでした。


◆ 「ただいま」を言うために


 ……まあ、結果として先生にはバレて、死ぬほど怒られたわけですが。


 先生の涙を見た時、痛感しました。  

「誰も傷つけない」なんて傲慢だったと。  

僕が死んだふりをすることで、一番近くにいる人たちの心を殺しかけていたんだと。


だから、もう隠れません。  


名前も、顔も、全部さらけ出して、  今度こそ正面から言います。


「行ってきます」


 そして、必ず——


「ただいま」


 って言って帰ってきます。  


それが、一度死んで、もう一度生き直すことにした僕の、 これからの「戦い方」です。

これから1時間ごとに投稿します。1章完結45話、クライマックスまでお楽しみください!

ちなみに、選択Aを選んだストーリも近日中に公開予定です。

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