表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/97

第14話 水を掘ったら燃える水だった、あるいは12歳の現場監督

(視点:ドワルガ)




「先生、確認です。『井戸を掘って、水を誘導して、仮の池を作る』。これで合ってますよね?」




 スコップを肩に担いだアルが、爽やかな笑顔で聞いてくる。  




背景は、荒涼とした瓦礫の山だというのに、この子だけピクニックにでも来たようなテンションだ。




「ええ、そうよ」




 私は地図を広げ、ブーツのつま先で地面をトントンと叩いた。




「川筋から外れた、ここ。  上流から見て安全で、昔、溜池があった跡地よ。  




まずはこの辺を『軽く』掘ってみて」




「『軽く』、ね……」




リオが遠い目をしている。  




彼の手には、すでに泥がべっとり。  




兵もいない。重機もない。  




あるのは十代の若者たちの筋力と、私とネーヴが夜なべして書いた図面だけ。




「文句言わない! 若い頃の苦労は買ってでもしろって言うでしょ!」




「先生は買わないんですか?」




「私は『監督』という名の頭脳労働を買っているのよ」




 言い返せないリオが、渋々スコップを突き立てた。  




――つまり、泥臭さ以外の何物でもない作業の始まりだ。




 数時間後。




 穴は順調に深くなっていた。  




アルとリオの掘削速度が異常(特にアルは土の目が読めるのか、無駄がない)なおかげで、予定より早く地下層に届きそうだ。




「……先生」




 穴の底で作業していたネーヴが、鼻をひくつかせた。




「なんか、匂う」




「匂い?」




 掘り下げた穴から、甘く、重く、鼻の奥にへばりつくような臭気が立ち上ってくる。  




土の色も変わっていた。黒い。やけに黒い。泥とは違う、もっと粘着質な――




 嫌な予感がした瞬間――




 ぬるり。




 地面の裂け目から、ドス黒い液体が、あふれ出した。




「全員、火を止めなさい!!」




 私は条件反射で叫んでいた。




 だが、私の声が届くのとほぼ同時に、アルが動いていた。




「リオ、松明捨てろ! 土被せろ!」




「えっ、わ、わかった!」




アルが自分の松明を地面に叩きつけて踏み消し、リオが腰の火打ち石を放り投げる。  




さらにアルは、間髪入れずに指示を飛ばした。




「ルシア! 風魔法! 穴から出るガスを上空へ逃がして! 吸い込んだら倒れる!」




「り、了解!」




「ネーヴ! 布と板! 即席でいい、蓋をするぞ!」




「ん!」




 ……速い。  速すぎる。




 私は膝をつき、黒い液体を指先ですくって匂いを嗅いだ。  




間違いない。




「石油オイルね。ガスも混じってるわ」




「え、これ……燃えるやつですよね?」(リオ)




「燃えるわよ。とてもよく燃えるわ。  そして、資格のない人間が適当に扱うと、とてもよく爆発して死ぬわ」




 私が解説している間に、アルたちはすでに穴を塞ぎ、ガスを逃がし、周辺の安全確保を完了していた。




「先生。ここ、水脈じゃなくて油脈を掘り当てちゃったみたいですね」




 アルが額の汗を拭いながら、冷静に報告してくる。   (……おかしいわよ)




 私は心の中で盛大にツッコんだ。




 井戸掘りも、石油噴出の緊急対応も、ガス抜きの換気手順も、軍学校一年生に教えるカリキュラムじゃない。  




私が教えたのはせいぜい「危険値」と「離脱のタイミング」までだ。




 それなのにこの子は、まるで**“何度も同じ現場修羅場をくぐってきたベテラン現場監督”**みたいな動きをしている。




(アル……あなた、中身いくつなのよ。人生二周目か何か?)




 口には出さない。  今はただ、その手際の良さに感謝しておくわ。




「……そうね。状況を分析しましょう」




 私は気を取り直して、穴を見下ろした。




「元々ここは“水と魔素が多い層”だったはず。  その下に、油とガスの層があったんでしょうね。  それを、魔石掘りの連中がめちゃくちゃに穿ったせいで――」




「地層がグチャグチャになって、水脈が潰れて、代わりに油が顔を出した……と」(アル)




「ご名答。  水が欲しかったのに油が出た。笑えない冗談ね」




 リオが肩を落とす。




「じゃあ、ここはハズレですか?  また別の場所を掘り直し……?」




「いいえ」




 私はニヤリと笑った。  転んでもただでは起きないのが、ドワルガ流よ。




「ハズレじゃないわ。むしろ大当たりよ」




「え?」




「水の代わりに油とガスが出た。  燃やせば熱になる。  ……リオ、さっき言ったわよね。『冷蔵庫の中みたいに寒い』って」




「はい、言いましたけど……」




「だったら、温めればいいじゃない」




 私は穴を指さした。




「火で、水を起こすのよ」




 アルが、目を丸くした後、パッと表情を輝かせた。




「……なるほど!  ここで出た燃料で、周りの永久凍土を溶かすんですね!」




「ええ。  地熱管とボイラーを即席で組んで、丘の上から“仮の池”まで温水を回す。  川の冷たい水を“戻り水”にして、溶け出した水と混ぜれば、温度も魔素濃度も調整できる」




 ネーヴが、すでに地面に図面を引き始めていた。




「……熱交換器、作れる。  パイプ、足りない。  でも、廃材でなんとかなる」




「さすが我が弟子。話が早くて助かるわ」




 リオだけが、ポカンとしている。




「えっと……つまり?」




「つまり、ここからは土木作業に加えて、配管工事とボイラー技師の仕事が追加されるってことよ!」




「作業増えてるじゃないですかー!!」




 リオの悲鳴が北の空に響く。




「文句言わない!  華やかな魔法戦なんて期待した?  残念だったわね。戦争を終わらせる仕事なんて、だいたいが泥と油にまみれるものなのよ」




 私はアルに視線を送る。  彼はすでに、次の指示を出すために動き出していた。




「ネーヴ、パイプの設計頼む! ルシア、換気の継続を!  リオ、泣くな! 掘るぞ!」




(……本当に、頼もしい“現場監督”だこと)




私はゴーグルをかけ直し、  湧き出る黒い液体――この土地の新しい“血”を見つめた。




さあ、忙しくなるわよ。  




水を掘り当て損ねたなら、熱に変えて、大地ごと溶かしてやるんだか

ストックは結構あるので、今日、明日は1-2時間ごとに投稿も考えています。

感想まってます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ