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第13話 凍土の荒野? ならば「永久凍土」を溶かして温泉に変えるまでだ

「――うわ、さむっ! なんですかこれ、冷蔵庫の中!?」


 トラックの荷台から飛び降りたリオの第一声が、それだった。


「文句を言わないの。ここが“現実”よ」


 私も運転席から軽やかに(座高が足りなくて少し滑り落ちたけど気にしてはいけない)降り立つ。  北の土が、ギュッ、とブーツの底を掴んだ。  夏だというのに、吐く息が白い。


 目の前に広がるのは、かつての戦火で焼けた家々の骨組みと、歯抜けになった石垣。

荒涼とした灰色の大地。  

けれど、その間を縫うように――一本の川だけが、皮肉なほど美しく光っていた。


「先生。川、生きてます」


 ネーヴが、フードをかぶり直しながら川面を指差す。


「干上がってはいないわね。……そこだけは、不幸中の幸いか」


 魔族に焼かれ、魔石を乱掘され、それでもなお流れている水。  

その水がいま、一番の“厄介な隣人”でもあるのだけれど。


「まずはサンプル採取よ。野郎ども、準備!」


私は革手袋をはめ直し、川岸にしゃがみ込んだ。  


手ですくってみる。  


透明。


無臭。


冷たくて、澄んでいる。  


ぱっと見は、そのまま飲めそうな清流だわ。


「見た目は綺麗ですね」  アルが隣で覗き込む。


「見た目は、ね」


 私は採水ボトルを満たし、丘のふもとに張った仮設テントへ向かった。  


その中には、王都からトラックで揺られながら運んできた“銀色の箱”が鎮座している。  



試作型魔導浄水器。  


ここまで運ぶのに、何枚の申請書と格闘したことか。


「ネーヴ、接続お願い。三段目までフィルタを通して」


「……了解」


 カチリ、と金属音が鳴り、水が吸い上げられる低い駆動音が響く。  


しばらくして、蛇口の先から、濾過された水が一滴、また一滴と落ちてきた。


 私はそれをサンプル瓶に受け、魔力測定器に浸す。  全員が、針の動きを固唾を呑んで見守る。


 針が振れる。  


じわり、じわり。  そして――基準値の赤ラインを、ほんの少し超えたところで止まった。


「……チッ」


 思わず舌打ちが出た。


「先生……」  アルの声が硬くなる。


「生水よりは、だいぶマシよ。  この浄水器を通せば、健康な大人なら短期滞在しても問題ないレベルにはなるわ」


 私は測定器の針を指先で叩いた。


「でも、“ここで何年も暮らす”には、まだ足りない。  このまま飲ませれば、抵抗力の弱い子供と老人から順に倒れるわ」


「やっぱり、魔素が高すぎるんですね」


「ええ」


 私は川の上流、切り立った山肌の方角を指差した。


「元々この辺りは、水も魔素も“多すぎるくらい”豊かな土地だったの。  そこへ魔族が『宝の山だ』って群がって、魔石を根こそぎ掘り返した」


 チラリと、ルシアを見る。  


彼女は無言で、痛ましそうに眉を寄せていた。  

(……気に病むことはないわよ。あんたがやったわけじゃないんだから)


「地脈はずたずた、水脈は魔石の粉まみれ。  自分たちの都合で荒らすだけ荒らして、枯れかけたら撤退した。  ……乱開発のツケを払わされるのは、いつも後に残った側よ」


 自分で言いながら、胸の奥がきしむ。  


七年前、これを食い止められなかった自分への怒りが、まだ燻っている。


「でも、先生。浄水器が全く無駄だったわけじゃないですよね?」


 アルが、私の顔を覗き込んで言った。


「数字は下がってます。  まだ“理想”には届いてないけど、“どうしようもない”状態からは抜け出した」


その前向きな言葉に、ふっと毒気が抜かれる。  


まったく、この子は。


「……そうね。  “ゼロ”じゃない。“道の途中”には乗ったわ」


 私はパンと手を叩き、空気を変えた。


「じゃあ、次の一手よ!  今の浄水器だけじゃ足りないなら、水そのものを加工する」


「加工?」  リオが首をかしげる。


「用途を絞るの。  飲み水は浄水器で確保するとして、畑や生活用水は別の水源を作る」


 私は足元の地面を、ブーツの踵でコツンと踏んだ。


「これから、ここに“池”を作るわ」


「池? 穴を掘って川の水を引くんですか?」


「いいえ」



私はニヤリと笑った。  


技術屋の顔で。


「火で、水を起こすのよ」


「……は?」  


全員の声がハモる。


「この地下には、永久凍土の層がある。  それを熱で溶かして、真水を取り出す。  川の水と混ぜて濃度を調整すれば、魔素のピークも削れるはずよ」


 アルが、こくりと息を呑む。


「……やっぱり、地下をいじるんですね。  先生の『火遊び』、規模がデカすぎませんか?」


「人聞きの悪いこと言わないでちょうだい。  これは『地熱制御による水資源開発』よ」


 私はスコップを放り投げた。


「さあ、やるわよ!  泥と汗にまみれる覚悟はいい?  華やかな魔法戦なんてないわよ。ここにあるのは、地味で泥臭い土木作業だけ!」


「望むところです!」


 アルがスコップを受け取り、ニカっと笑う。  ルシアも、ネーヴも、寒がっていたリオさえも、袖をまくり上げた。


 久しぶりにお酒を飲まないすっきりした頭で、  私自身の胸も、少しだけ熱くなるのを感じていた。


 さあ、戦争を終わらせるための、一番地味で、一番大事な戦いの始まりよ 。


ストックは結構あるので、今日、明日は1-2時間ごとに投稿も考えています。


感想まってます!

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