第12話 門番「迷子かな?」 私(軍最高参謀)「……全員、轢きなさい」
「私も……行ってみたい。」
出発の朝、参謀室の戸口でエリシアがそう言った。
手には、丁寧に包まれた小さな包み。中身はクッキーか、それとも護符か。
「だめよ、殿下。今回は遊びじゃないの。 泥と油と魔素にまみれた、可愛げのない土木工事の現場に行くんだから」
私が諭すと、エリシアは少し残念そうに、でも納得したように頷いた。
そして、その包みをアルに手渡す。
「じゃあ、これだけ。……みんなで食べて」
「ありがとうございます、殿下。お土産話、たくさん持って帰ります」
アルが恭しく受け取る。
その様子を横目で見ながら、私は愛用のゴーグルを首にかけ、革の手袋をきゅっと締めた。
「よし、色ボケタイムは終了! 野郎ども、乗り込みなさい!」
私が指さしたのは、中庭に鎮座する無骨な鉄の塊。
軍用魔導トラック『鉄牛改・ドワルガカスタム』だ。
荷台にはテント、食料、そして私の秘蔵の酒樽(燃料用と言い張る予定)が満載されている。
「うわぁ、無骨……」
リオが引いている。
「……サスペンション、いじってる。悪路仕様」
ネーヴが目を輝かせている。
「これに乗るんですか? 私服が汚れません?」
ルシアが少し嫌そうな顔をしている。
「文句を言うな! 最高の乗り心地よ(※運転席のみ)!」
私は運転席に飛び乗り、魔導エンジンを始動させた。
ヴォオオン! と低い唸り声が響く。
「さあ、出発よ! 目指すは北の果て、忘れられた荒野!」
■ 王城の門、恒例イベント発生
意気揚々とトラックを走らせ、王城の正門へ向かう。
ここを抜ければ、城下町、そして街道だ。
衛兵が槍を交差させて立ちはだかる。
私は窓を開け、慣れた手つきで通行証を提示しようとした。
――その時だ。
「止まれーっ! そこの車両!」
若い衛兵が、鬼の形相で駆け寄ってきた。
「未成年の城外持ち出しは禁止されている! ましてや軍用車両の無断使用など!」
「……は?」
「降りなさい、お嬢ちゃん! どこの貴族の子か知らないが、これはおもちゃじゃないぞ! 親御さんはどこだ!」
……はい、来た。 これよ。これ。
私は深々とため息をつき、ダッシュボードから愛用のサングラスを取り出してかけた。 そして、冷え切った声で告げる。
「……貴様。私の顔と、この『特別技術参謀』のプレートが見えないのかしら?」
「えっ」
衛兵が固まる。
私は運転席から身を乗り出し(座高が低いので精一杯背伸びして)、ドスの効いた声で続けた。
「私はドワルガよ。王国軍参謀、ドワルガ・リストーネ。 この門を通るのは今までで十五回目だけれど……まさか、毎回毎回、職務質問という名の『身長ハラスメント』を受ける義務が私にあるのかしら?」
「ひっ……!?」
衛兵の顔が青ざめる。 そこへ、奥から隊長格の男が全力疾走してきた。
「馬鹿野郎! 槍を引け! その方はドワルガ様だ!!」
「えええっ!? この、どう見ても十歳くらいの可憐な少女が!?」
「口を慎め! 左遷されるぞ!!」
「……聞こえてるわよ。『可憐』のところだけは評価してあげるけど」
私はサングラスをずらして睨みを利かせた。 隊長が直立不動で敬礼する。
「し、失礼いたしました! ドワルガ参謀! 長期の現地調査任務、ご武運をお祈りいたします!」
「……ふん。教育しておきなさい」
私はウィンドウを閉め、アクセルを踏み込んだ。
■ それでも出発する
車内は、奇妙な静けさに包まれていた。
チラリとバックミラーを見ると―― アルが、肩をプルプルと震わせて、必死に窓の外を見ている。
「……アル」
「ぷっ……い、いえ。なんでもないです、先生。 『可憐な少女』……ふふっ、いや、間違ってないですもんね……」
「笑ったら減点よ。期末評価から引くわよ」
アルの口がピタリと閉じた。
隣でルシアが、わざとらしく咳払いをして視線を逸らす。
リオは我慢できずに「ぶはっ」と吹き出している。
そして、ネーヴは―― 手帳に何かをサラサラと書き込んでいた。
「ネーヴ、何を書いているの」
「……備忘録。 『王城門兵、毎回ドワルガ先生を止める』。
原因:外見年齢と実年齢の乖離による認識エラー」
「分析するな! あと書き残すな!」
「……対策案:シークレットシューズの導入」
「余計なお世話よ!!」
まったく、どいつもこいつも。
私は乱暴にギアを入れ直した。
「いいこと!? ここからは私の指揮下よ! 原則、安全第一! 撤退優先! 私の言うことは絶対! あと身長の話をした奴は置いていく!」
「「「イエス・マム!」」」
トラックがゴウと音を上げ、門を抜ける。
石畳の振動が、お尻に伝わる。
王都の風が後ろへ流れていく。
北からの風が、少しずつ混じり始める。
(……童顔で止められる参謀なんて、歴史書にも残らないでしょうけど)
私は少しだけ口元を緩めた。
まあ、いいわ。 厄払いとしては上等だ。
「行くわよ、問題児たち! 滅びの跡地に、水と道を引くわよ!」
夏の光の中、私たちは北へと走り出した。
荷台に満載した希望と、少しのトラブルと、大量の酒を乗せて。
ストックは結構あるので、今日、明日は1-2時間ごとに投稿も考えています。
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