第11話 夏休みの始まり、あるいは里帰りのお土産が重すぎる
(視点:ドワルガ)
「……ねえ、アル。私が夏休み前に許可したのは、『育ての親御さんに顔を見せるための、一週間の里帰り』よね?」
「はい、そうです」
「『積もる話もあるでしょうから、ゆっくりしてきなさい』とも言ったわね?」
「はい、おかげさまでゆっくりできました!」
「じゃあ聞くけど――なんで海からの帰省土産が『新しい子供』二人なのよ!?」
私は参謀室の机をバン! と叩き(痛っ……)、目の前に整列した三人を見上げた。
場所は王城、私の執務室。 夏休みに入って一週間が過ぎた頃。
アルが「海への里帰り」から戻り、これから本番である「北の旧領」へ向かうための出発挨拶に来たと思ったら――背後に見知らぬオマケが二つもくっついていたのだ。
「紹介します、先生。僕の幼馴染みです」
アルが悪びれもせず、右側の少年を示す。
「リオ・アクアレイド。里帰り先の魚人の村で、僕と一緒に育った兄弟みたいなやつです」
「はじめまして! リオです! 種族は魚人と人間のハーフ、得意技は水泳とツッコミです! アルが『北の領地を再興しに行く』って言うんで、荷物に紛れ込んで付いてきました!」
元気ハツラツ。声がデカい。
肌には薄く鱗があり、耳はヒレ状。
だが、人懐っこい笑顔は好感が持てるわね。
……まあ、ここまでは「元気な友達を連れてきた」で済むわ。問題はもう一人よ。
「で、こっちが――」
アルが左側を示す。
そこにいたのは、小柄な少女だった。
フードを目深に被り、灰銀の髪が少しだけ覗いている。
「ネーヴ。……よろしく」
ボソッとした声。
そして、挨拶もそこそこに、彼女は私の部屋の床に散らばる機械部品(ガラクタではない!)へスタスタと歩み寄ると――
ガシャッ。
無言でしゃがみ込み、転がっていた『自動追尾ナイフ(失敗作)』を拾い上げた。
「……これ、重心ズレてる。 バネの係数、計算ミス。 あと、火薬の量、多すぎ。……爆発する」
「なっ……!?」
私は思わず椅子から滑り落ちそうになった。 一瞬で欠陥を見抜いた!?
「ネーヴ! 人の部屋で勝手に鑑定しない!」 リオが慌てて止める。
「でも、気になる。 この部屋、ガラクタの山。 でも……“宝の山”の匂いがする」
ネーヴはフードを上げ、私をじっと見つめた。
その瞳は、深い闇色。そして耳は――長く尖っている。
(ダークエルフ……? いや、骨格はドワーフ寄りかしら?)
「先生。ネーヴも僕らと同じ、あの海で一緒に育った子です。 口数は少ないですが、腕は確かです。 これから向かう北の領地復興に、どうしても連れて行きたくて」
アルが真剣な目で言う。
つまり、海への里帰りは、ただの帰省じゃなくて**「人材スカウト」**も兼ねていたわけね。
抜け目ない生徒だこと。
私はため息をつき、手元の資料(セリナが夜中にこっそり置いていった『追加調査書』)を開いた。
『調査対象:ネーヴ(仮称) 外見特徴:エルフとドワーフの混合形質(希少例)。
特記事項:異常なほどの魔導工学適性。
海から拾われた際、謎の機械部品を抱えていたとの情報あり。
性格:職人気質。興味のないことには無関心。』
(……なるほどね)
私は口元を緩めた。
この部屋を「ガラクタの山」ではなく「宝の山」と呼んだ時点で、同類決定よ。
「いいわ、認めましょう。 ただし、私の部屋にあるものを勝手に分解したら、授業料として倍額請求するからね?」
「……努力する」
「約束しなさいよ!」
ネーヴが、ポケットからごそごそと何かを取り出した。
歪な形の金属片と、書き殴られた図面。
「先生。これ、見た?」
「ん?」
「これから行く北の領地の、浄水装置の図面。 先生が現地に送ったやつ」
私が以前、現地のヴェルトラン(先遣隊)に送った設計図だわ。
「……ここ、導管の曲率0.7。魔力ロス大きい。 0.4に絞って、コイルを二重に巻けば、効率15%アップする」
ネーヴは私の目の前で、設計図に赤ペンで修正を入れ始めた。
迷いがない。
そして、その指摘は――悔しいけれど、的確だった。
(……この子、天才か?)
私の背筋に、技術屋としての武者震いが走る。
12歳?
冗談じゃない。
この視点は、現場で油まみれになった古狸のものよ。
「……面白いわね」
私は立ち上がり、棚の奥から秘蔵の「失敗作ボックス」を引っ張り出した。
「そこまで言うなら、実力を見せてもらいましょうか。 この中にあるジャンクパーツで、その『改良型コイル』の試作機、今すぐ組める?」
ネーヴの目が、ギラリと光った。
「……工具、借りる」
「好きに使いなさい」
ガシャガシャガシャッ! ネーヴが猛スピードでパーツを漁り始める。 その手つきの速さ、正確さ。
「ちょ、ちょっと待って!? 今から北へ出発するんじゃないの!?」
リオが叫ぶ。
「待てリオ。これは男(技術屋)の勝負だ」
アルがなぜか誇らしげに腕を組む。
「アルくんも止めなよ! あとネーヴちゃんは女の子だよ!?」
十分後。
机の上には、不格好だが確かに魔力を増幅しているコイルが完成していた。
「……できた。 素材、悪かったけど、とりあえず動く」
ネーヴが煤で汚れた顔を拭いもせずに差し出す。
私はそれを手に取り、魔力を流した。
――スムーズだわ。私の設計より、数段効率がいい。
「……合格よ」
私は震える手でコイルを置いた。 (くっ……才能に嫉妬するって、こういう気分のこと!?)
「ネーヴ。あなた、私の弟子になりなさい」
「……給料、出る?」
「出るわよ! 技術顧問補佐として雇ってあげる!」
「なら、なる」
即決。
リオが頭を抱えた。
「あーもう……変人が増えただけじゃないか……」
「諦めろリオ。類は友を呼ぶんだ」
アルが笑う。
私は咳払いをして、居住まいを正した。
「とにかく! アル、リオ、ネーヴ。この三人が揃えば、これから向かう北の旧領復興も現実味を帯びてくるわね。
・アル:指揮と戦略
・リオ:現場調整と常識枠(重要)
・ネーヴ:技術開発と破壊工作(?)」
「破壊工作はしませんよ!?」とリオ。
「するかもしれないだろ?」とアル。
「……必要なら、やる」とネーヴ。
「やるんかい!」
コントのような掛け合い。
でも、この空気感。悪くないわね。
かつて、私とセリナと、あいつらが馬鹿騒ぎしていた頃の空気に似ている。
「いいわ。行ってらっしゃい、問題児たち。 ここから北までは長い旅になるけど、私の名前(と予算)を使っていいから、好きに暴れてきなさい。 ただし――」
私は指を一本立てた。
「全員、五体満足で帰ってくること。 それが、夏休みの一番の宿題よ」
「「「はいっ!」」」
元気な返事(ネーヴだけは無言でサムズアップ)を残し、三人は嵐のように去っていった。
静まり返った部屋に、私と、改良されたコイルだけが残る。
「……ふふっ」
笑いがこみ上げてくる。 あの子たちが作る未来が、楽しみで仕方ない。
(セリナ。 あんたの言った通りだわ。 “退屈しない”どころか、目が回りそうよ)
私はウイスキーの瓶を取り出し、一人で乾杯した。 窓の外には、真夏の青空が広がっていた。
さあ、多種族ごちゃまぜ国家再興計画―― いよいよ、本格始動ね。
ストックは結構あるので、今日、明日は1-2時間ごとに投稿も考えています。
感想まってます!




