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砕かれた幻想の霧の向こうの切嗣  作者: Lyneetra Works
9/10

EPISODE 9 : 霧

夕方の色が消え、街はゆっくりと夜に変わっていった。

セルヴァは一人で帰り道を歩いていた。

木々の間を吹き抜ける風が、少しひんやりしている。


交差点まで来たとき、足が止まった。


霧が出ていた。

昼間より濃く、形が揺れて見える。

街灯の光も、霧に溶けてぼんやりとしていた。


「また……。」


セルヴァは霧の中へ一歩踏み出す。

息が白く浮かび、周囲の音が少しだけ遠のく。


何かがいる気配がした。

人ではない。

でも、確かに“何か”がいる。


「……誰かいるの?」


問いかけた声は、霧に吸い込まれて消えた。


霧の奥に、人影のようなものが立っていた。

揺れて、ぼやけて、形がつかめない。


そのとき、背後から足音がした。


「セルヴァ。」


振り返ると、カエルが立っていた。

夕暮れの光の名残が、彼の横顔を照らす。


「一人でここに?」


「霧が……変だったから。」


カエルは視線を霧に戻す。


「見えるよ。僕にも。」


「……あれ、何なの?」


少しの沈黙。

そして、カエルは静かに言う。


「影。自分の影。」


セルヴァは息を飲んだ。

影は、ゆっくりと霧の中に溶けるように消えていった。


「どうして……今になって?」


セルヴァの声はかすかに震えていた。


カエルは柔らかく答える。

「君が帰ってきたから。忘れていたものも、戻ってきた。」


風が二人の間を通り抜ける。


「……怖いよ。」

小さな声だった。


「大丈夫。霧が出たら、僕も行く。

 ひとりにはしない。」


その一言は、理由も、説明もいらなかった。


セルヴァはゆっくり頷いた。

霧はまだ遠くで揺れている。

まるで、次の幕を待っているかのように。

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