EPISODE 10 : 帰路
セルヴァとカエルは並んで歩いていた。
距離は近すぎず、遠すぎず。
二人の間に流れる空気は静かで、どこか落ち着いていた。
街灯が照らす道は黄みがかり、さっきまで漂っていた霧はゆっくりと後ろへ退いていく。
「カエル、霧ってよく見るの?」
セルヴァが口を開く。
「見るよ。でも、人によって見えるものが違う。」
「違うって?」
「霧にしか見えない人。影が見える人。
そして、何も見えない人。」
セルヴァは歩みを緩める。
「じゃあ私は……?」
カエルは立ち止まり、真っ直ぐに彼女を見つめた。
「セルヴァは、呼ばれたら目を背けられないタイプだ。」
予想外の言葉に、セルヴァは少し戸惑う。
「それって、褒めてる?」
「警告でもある。」
ふたりはそのまま歩き続け、やがて道が分かれる場所に着く。
セルヴァの家は左側だった。
「ここでいいよ。」
「分かった。」
カエルは静かに頷く。
「霧がまた出たら、ひとりで歩かないで。」
「さっきみたいな時は?」
「行くよ。必ず。」
その言葉は短かったが、妙に安心感があった。
セルヴァは家の扉を開ける。
どこか懐かしい香りが広がり、胸にじんと沁みた。
「おかえり、セルヴァ。」
母の声が優しく響く。
「ただいま。」
「学校、どうだった?」
セルヴァは少し迷ってから答えた。
「……いろいろあった。」
それ以上を聞かず、母は微笑んだ。
「ゆっくり休みなね。」
自室に戻り、セルヴァはベッドに腰を下ろす。
部屋の静けさが、今日の出来事を鮮明に思い出させた。
霧の中で見た“影”。
表情の読めない輪郭。
「前にも……見たことがある気がする。」
その呟きが、ふっと空気に溶けていく。
そしてほんの一瞬、背後に気配を感じた。
振り返ると、もちろん誰もいなかった。
だが胸の奥では、何かが確かに動いていた。




