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生まれ変わったら俺のことを嫌いなはずの元生徒からの溺愛がとまらない  作者: いいはな


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 あまりにも理解が追いつかずポカンと間抜け面を晒す俺に構わず、エリオットはスラスラと淀みなく話していく。まるでなんてことない世間話でもしているかのような、そんな軽さで、俺の戸惑いなどかけらも分からないような顔でのうのうと。

「いやー、兄さんの研究にはなかなか助けられたよ?ボクじゃ思いもつかないようなヘンテコな魔術ばっかりだったけど、意外と王都では評価されてさ。お陰で宮廷魔術師にまで選ばれちゃった。でも、どうせ兄さんには使えなかったんだし、あんなしみったれた田舎町で腐らせるよりは可愛い弟のためになった方が兄さんも嬉しいでしょ?」

 ほら、これとか結構褒められたんだよ。と言ってふよふよと俺の前まで運ばれてきた紙の束はどうやらエリオットが書いた魔術の論文らしい。

「こ、れは……。」

 すべる目を何とか止めて、その内容を読み進めていくうちに、だんだんと手が震えてくる。

 これは俺が最近考えた浮遊魔術の応用だ。風魔術と組み合わせることで、人を乗せて運ぶ時に馬車よりも快適に移動することができると考えて作ってみたもの。次に見たものは、火魔術を使った温度を一定に保つような入れ物の論文。これも俺が考えたものだ。次のこれも、これも、あれも、全部……ぜんぶ、俺がこの11年間コツコツと時間を見つけてノートに書き溜めた俺の研究。

 確かにエリオットの言うとおり、魔力の少ない俺にはどれも魔法陣を構築するまでが精一杯で実用化なんて夢のまた夢のような研究だった。それでも、どうしても魔術を諦めることのできなかった俺が悪あがきのようにもがいた長い、長すぎる時間の証。

 それが全てエリオットの名前で発案され、エリオットが全ての発案者として名誉と地位を得ていた。

 目の前が真っ暗になっていくような気がした。

 二の句が告げない俺に悪びれることなくエリオットは、微笑んでいる。

「あ、言っておくけど、今更これが全部自分ののものだっていうのは無理だと思うよ。宮廷魔術師に選ばれたボクとただの田舎町の平民。どっちの言葉をみんなが信じるかなんて、流石の兄さんでも分かるでしょ?」

「なんで……、何で、こんなこと……。」

「何で?何でかって?ははっ、相変わらず反吐が出るほどお人好しだね。自分の名誉のために決まってるでしょ。使えるものは何だって使ってのしあがるってボクは決めてたんだ。そのためには例え大っ嫌いな人間の研究でも何でも使ってやる。」

 ガンっと思いっきり頭を殴られたような衝撃が走る。

 研究内容を勝手に使われていたことにも衝撃を受けたが、それ以上にエリオットからそこまでされるほど嫌われていたことに。

 憎々しげに顔を歪めて俺の方を見る弟に、つい縋るような声を出してしまった。

「エリー……」

「エリーって呼ぶなって言っただろ!!」

 先ほど彼から呼ぶなと言われたばかりの幼い頃の愛称をつい出してしまった俺に、苛立ったようにエリオットがドンっ!と机を叩いて怒鳴る。彼の怒りが伝導するかのように俺の周りを未だにくるくると軽快に待っていた論文がバサバサと音を立てて地面へと散らばった。

 ここに来て、初めてエリオットが見せた怒りに俺は謝ることもできずにただ呆然とするしかなかった。

「昔っから、そうやってなんでもない顔して人の神経逆撫でしないでくれる!?もうボクは、あんたがそうやって呼べる人間じゃないって言ってんの!!これからボクは国に認められた魔術師として、栄誉ある未来が約束されてるわけ!兄さんとは住む世界が違うの、良い加減理解してくれる!?」

 はー、はー、と息を荒げてそう怒鳴ったエリオットに俺はこくこくと頷くことだけで精一杯だった。

 知らなかった。俺が弟にこんなに嫌われていたなんて。知らなかった。もう仲直りなど言えるような関係ではなかったことを。俺はそれなりに仲のいい兄弟だと思っていたけれど、弟からしたら俺と兄弟であることは死ぬほど嫌なことだったらしい。

 じわりと涙が浮かんでくるのを俯いて、慌てて誤魔化す。嫌いな人間が泣いていることほど鬱陶しいことはないだろう。

必死に涙をこぼすことがないように唇を噛み締めていた俺に、ようやく息を整えたエリオットが深いため息をついた。その無言の嫌悪にビクッと肩を揺らしてつい反応してしまった俺を鬱陶しそうに見ながら、エリオットは口を開く。

「はあ……もういいや。とっとと出ていってくれる?そのお祝いとかいう悪趣味な包みもついでに捨てといてよ。

 ……ボクに、二度とその不愉快な顔見せないで。」

 そういって、玄関の方へと指を刺すエリオットに逆らうことなどできなかった。

 一生懸命引っ張ってエリオットの家へと運び込んだ荷物を、ずりずりとまた床へと引き摺りながら、俺は玄関の方へと向かった。

 そして、扉を開けて弟の家から出る直前、どうしても罪悪感に耐えきれなくなった俺はエリオットには聞こえないであろう声で、ボソリと一言落とす。

「ごめん、エリオット。」

 当然返事は無かったが、なかなか出て行かない俺に苛立ったような雰囲気が背中越しにも分かったため、慌てて全力でエリオットへのお祝いを引きずって家を出た。

 扉が閉まるその直前、弟が怒りに顔を歪めるその瞳がなんだか泣きそうに見えたのは、きっと俺の願望からくる妄想だったと思う。

 バタン、となんともあっけなく閉じてしまった扉を見て、これが俺が兄として弟であるエリオットと顔を合わせた最後かと思うと、情けなくて、虚しくて、ついに堪えきれずに涙が溢れた。

 ずり、ずり、と抜けてしまいそうになる力を必死に込めて荷物を引きずりながら、ポロポロと拭っても拭っても流れる涙がひどく鬱陶しかった。

 

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