9/40
P.9 リビングの棚
リビングの棚にはゲームや本がならんでいる。
どれも知っているはずなのに、なにか見たことのないものみたいに感じていた。
たどる指が、ふと、見慣れない黒いケースに触れる。
表面はざらついていて、何も書かれていない。
吸い寄せられるように、ぼくはそれを手に取った。
ぱちり、と小さく音を立てて開けた瞬間――
中から、大きな蛾のような影が、ぼくの指先をかすめて飛び出していった。
羽の音で、しばらく部屋の空気がゆっくり揺れているようだった。
影は一巡して、棚のすき間に吸い込まれるように消えていった。
ぼくはその場に立ったまま、ケースを見下ろしていた。動けなかった。
→ P.12へ