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P.1 だれもいない家で
今夜、家に残ったのは、ぼくだけだった。
弟が急にお腹が痛くなり、母さんと父さんがそのまま病院へ連れて行った。
「きっとすぐ戻るよ」って言われたけれど、
くつの音が遠ざかるあいだ、ぼくは玄関の前で動けなかった。
電気のついた部屋は、なんだか急によそよそしく見えた。
ほんのさっきまで弟が寝ていたソファも、テレビのリモコンも、
「ここに人がいた」っていう感じが、するりと消えていた。
ぼくはカーテンのすき間から外を見た。
風もなく、星もなく、
ただ夜が、向こうからこちらを見ているみたいだった。
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