夢であったら
意識の流れが遅くなり
目蓋が下りて来て
世界が闇と
薄く輝く緑や紫のマーブル模様に包まれる
夢が
私を呼んでいるのが
分かる
意識が
かの手で
ずるり と
脳から引き抜かれる
ああ
夢に
行くの
だ
ぐらり
と
視界が変わる
仄暗い どことも知れぬ街
降り立つ場所は違えど
いつもの街だ
街には珍しく人影が在る
どの顔にも、見覚えがあった
私から去って行った人達が ここには居た
皆 一様に 眼球の無い目から 黒い液体を溢れさせている
無言の嘆きが街を覆っていた
その異様な光景に 私は微かな悦びを覚える
本当に?
言葉が響く
本当に そう?
ああ そうだ
そうではなかった
涙を流しているのは 私だ
嘆き続けているのは 私だ
あの人達は 笑っていたじゃないか
私の事など 過去の事だと割り切って
私だけが 哀れで 醜くて
取り乱して 泣き叫んで
私だけが 過去に縋って
あの人達は 未来に進んで行ったのに
夢であったら
良かったのに
私の嘆なげきで視界が渦を巻く
そして
再び
ぐらり
あの手に意識が絡め取られ
脳に押し込められる
身動みじろぎするとリンクし始める意識と身体
きつく シーツを掴んでいた指を解ほどく
ため息と共に
丸まった身体を解ほぐしていく
眼を開くと
傍に置いた
眼鏡のレンズに映る私が涙を流していた
記憶を反芻し
がさついた声が
嫌な夢だった
と呟く
シャワーを浴びて 汗と記憶を洗い流す
シャツを着て 鏡の前で笑ってみせる
夢で良かった
この笑顔が偽物であっても
私は まだ
笑える