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プロローグ『平安時代の美女、俺にはホラーにしか見えない件』


蝉の声が昼夜を問わず響き渡る夏の京の都。


木の隙間から差し込む日の光が、焼けた土壁に揺らめいていた。


俺、早乙女春樹は――気づけば平安時代に転生して数ヶ月経っていた。



「これが……平安時代、か……」



俺は自分の部屋の障子をぼんやりと眺めながら呟いた。平安の空気に慣れるまでには、正直時間がかかった。だが、ここでの生活に馴染んできた今でも、一つだけどうしても受け入れられないことがある。


それは、この時代の――




「春樹様、どうか私にお歌をお聞かせいただけませんか?」


「いえ、私が詠んだこの歌をお聞きくださいませ!」



部屋の中にぎゅうぎゅう詰めになった「美女」たちが俺を囲んで競い合う。いや、これだけ見ればラノベ主人公らしい「モテ期」なんだろうけど――正直、全然嬉しくない。


「いやいやいや、ちょっと落ち着けって……!」



俺が手を振っても全然引き下がらない彼女たち。眉毛がないのはデフォルト、顔はバケモノみたく真っ白でのっぺりしている。おまけに真っ赤な唇。現代基準なら、一発で「やばい化粧失敗した人」だ。


「これが……平安時代の美女……?」


言っちゃ悪いが、俺にはどうしても受け入れられない。


その中でもひときわ目立つのが、(みやび)だ。艶やかな黒髪、完璧な装束、薄く微笑む顔。貴族たちの中では間違いなく「トップ美女」らしいが、俺から見れば――


「……のっぺりしてるブス……」


そう思うことは失礼だとは分かっている。分かってはいるが、これはもう感覚の問題だ。


俺の脳裏には、現代の地雷系地下アイドル「小鳥遊りんね」の顔が浮かんでくる。黒髪ロングに赤いメッシュ、吊り目の病みかわいい笑顔――あの推しが恋しい。


「はぁ……りんねに会いたい……」



***



そんな俺の愚痴も届かず、今日も彼女たちは平安美人特有の主張を繰り広げる。


「春樹様、どうぞこちらの扇子を……」

「いえ、香を焚いて癒しを……!」

「和歌こそが真の美ですわ!」


もうやめてくれ。平安美人たちのゴリ押しに耐えられなくなった俺は、「ちょっと外の空気を吸ってくる」と言って屋敷を飛び出した。



***



外の空気は湿り気があって、正直快適とは言えないが、彼女たちから解放されただけで十分だった。京の都の路地をぶらついていると、ふと耳に飛び込んできたのは誰かを怒鳴る声。


「おい、小春(こはる)! またお前がやらかしたのか!」


そこにいたのは、ボロボロの着物を着た小柄な少女だった。下人――つまり、身分の低い使用人だ。

彼女は地面に這いつくばり、肩を震わせながら必死に謝罪している。


「申し訳ございません……」


その言葉を口にした彼女が顔を上げた瞬間――俺は息を呑んだ。


「……っ!」


艶やかな黒髪が汗に濡れ、顔には薄く土埃がついている。だが、その瞳は大きく澄んでいて、どこか不安げに揺れている。ぽってりした唇が微かに震え、言葉を紡ごうとする様子は、まるで現代の美少女そのものだった。


いや、それどころか――


「りんねに……似てる?」


目の前の少女、小春は俺の推しである小鳥遊りんねをそのまま現実にしたかのような美少女だった。涼しげな瞳の奥に、不安と儚さを抱えた表情までそっくりだ。


「おいおい、冗談だろ……」


俺はその場で立ち尽くした。だって、彼女は明らかに可愛い。いや、平安時代なんて関係ない。現代基準で見ても超絶美少女だ。


それなのに――


「なんてブスだ」「下人の分際で!」


周囲の人間たちがそんな罵声を浴びせるのを聞いて、俺はこぶしを握りしめた。


「……これが、この時代の美の基準なのか……」


そして次の瞬間、俺は確信した。


「ああ……俺、たぶんこの子に恋してるわ」


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