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第15話 僕とおかしな話とあの日の魔物


《 数分前…… 》


「《ミートハンマー》!」


―――ドゴォッ!

「グギャアアッ!」


「いよし!今だ!行くぞぉおおお!!」


スクトさんを見送った僕は他チームの助っ人に入っていた。

こうして他チームに参加することで分かったのだけど、『ロック・リザード』を転がすことは僕が思っている以上に難しいことのようだったのだ。

僕達のチームが如何に精鋭揃いだったのかを実感してしまった……


「うーん……こうもあっさりと転倒させられちゃうのを見ると、なんか色々と自信なくしちゃうなぁ……」

「いやまぁ正直僕はズルしてるようなものですし、余り気にしない方が―――あれ?」


他チームのメンバーとそんなことを話していると、遠くに見知った顔を見かけた。

あの人は―――


「プランティさん……?

 スリーチェの姿は……見えないな……」


あの人がスリーチェから離れるなんてどうしたんだろう……

それに……彼女の表情からはなにか、深刻そうな雰囲気を感じた。


気になった僕は他チームのメンバーに一旦この場を離れる旨を告げ、プランティさんの元へと向かった。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「大きな岩場……一体どこ……?

 うう……もう少し正確な場所を聞くべきだったかな……?」


「おーい!プランティさーん!」


「わひっ!?

 この声は、フィ、フィルさん……?」


僕に突然話しかけられたプランティさんは怯える子犬のような声を出した。

相変わらず高身長の威圧的な見た目とのギャップが凄いな……


「こんな所に1人でいるなんて、一体どうしたんですか?

 スリーチェもいないようですけど……」

「えっと、それは………

 あ、そうだ……貴方なら………!」

「え?」


プランティさんは一瞬話すことに困っていたけど、何かを思いついたようだった。


「あの、フィルさん!

 アリスリーチェ様がどこにいるか分かりませんか!?」

「え?アリーチェさん?」


急に出て来たアリーチェさんの名前に僕は戸惑いの声を上げる。

一体プランティさんが彼女になんの用が……?


「実は……アリスリーチェ様から私に伝えなければいけないことがあるらしくて……

 それが……」


プランティさんは、その言葉を出すのを躊躇っていた。


「私が……お嬢様のお付きではいられなくなるかもしれない……という話なんです……」

「え……えええっ!?」


プランティさんがスリーチェのお付きでいられない……!?


「ど、どうして……!?」

「分かりません……もしかしたら昨日お話した私の行動が原因なのかも……」


それって……あのアリーチェさんのお父さんの執務室に侵入して書簡を見たっていう……?


「でも、アリーチェさんはあの事を罰するつもりはないんじゃ……!?」

「私も……そう思っていた……いえ、そう思いたかったのですが……

 けれど……他に心当たりは……」


本当はプランティさんを許すつもりはなかった……?

いや、そんなまさか……

アリーチェさんとはついさっきまでお話していたけど、そんな気配は微塵も―――


「あの、それで……お話を聞きに行きたいので……

 アリスリーチェ様がいるという岩場がどこなのか、もしご存じであれば――」

「――?

 岩場……?

 何のことですか……?」


アリーチェさんは今キュルルの元にいるはずだけど……


「え……違うのですか……?

 スクトさんからは南東方向の大きな岩場にアリスリーチェ様がお待ちであると……」

「えっ!スクトさん!?」


僕は素っ頓狂な声を上げてしまった。


「あ、はい……この話はスクトさんから聞きました。

 先程、お嬢様の元に―――」

「あ、あの!ちょっと待ってください!

 スクトさんならついさっき調査隊員さんに呼ばれて連れていかれたはずですけど!?」

「えっ……?」


プランティさんは僕が何を言っているか分からない様子だった。


「え、いや、でも確かに私とお嬢様は彼に会って………

 えっと、多分、その用事が済んでから私達の元に―――」

「あの、プランティさん……

 なんか、おかしくありませんか……?

 そんな重大な話、アリーチェさん本人から伝えるか、そうでなくともお付きのファーティラさん達辺りに頼むのが普通じゃありません?」

「え、あ、いや、それは………

 でも、確かにスクトさんから………」


プランティさんは頭に手を当て、考え込んだ。


「プランティさん……

 貴女とスリーチェが会ったっていう人……

 本当にスクトさん本人なんで―――」



「「うわぁああああああああああ!!」」



「わっ!な、なにっ!?」

「っ!!」


突如として聞こえて来た悲鳴に僕とプランティさんは即座に声の方向へ振り向いた!


そこには―――


「「「ウォオオオオオォオォオオオン!!」」」


「なぁっ!あ、あれは……『ヘルハウンド』!?」


僕は一度だけその魔物を見たことがある……!

忘れもしないキュルルと出会った日、身の程知らずにも赴いた戦場にもいたあの黒い犬型の魔物だ……!


一体どうして!?

あんな魔物がいるなんて、スクトさんは言ってなかったはず……!


いや、そんなことを考えている場合じゃない!

『ヘルハウンド』の群れは逃げ惑う生徒達それぞれに向かっている!


「僕、助けに行きます!」

「フィルさん!私も!」


僕とプランティさんは同時に駆け出した!!


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「ウオォオオオオ!!」


「ひっ!ひああああああ!!」


『ヘルハウンド』の1体が無防備な生徒の背中に向かって飛び掛かり、その爪が振り下ろされる――


その直前――!


「《ラージ-ポットリッド》!!」


―――ガギィ!

「ウォオオウ!?」


巨大な『鍋蓋』を構えた僕が『ヘルハウンド』の前へと飛び出し、攻撃を防いだ!


「お、お前は……?」

「いいから、早く逃げて!」


その生徒は腕に傷を負っていた。

既に『ヘルハウンド』と交戦したのか、あるいは『ロック・リザード』討伐の際によるものか……

とにかく助力を請うことは出来なさそうだ……


その生徒は腕を抑えながらこの場から離れていった。

そして僕は改めて『ヘルハウンド』へと向き直る!


「ウゥゥゥゥウゥウ………」


攻撃を防がれた『ヘルハウンド』は後方へと距離を取り、僕のことを睨みながら唸っている……


『ロック・リザード』以外の魔物との戦闘……!

くっ……怖気ついちゃダメだ!


「《キッチンナイフ》!」


僕は柄の先に『包丁』を作り出す!

『ヘルハウンド』は突然現れた『黒い包丁』に一瞬身じろぎ、警戒心をあらわにした……!


「やあああああああ!!!」


僕はその『黒い包丁』を片手に、『ヘルハウンド』へ向かって突撃した!

そして――その『包丁』を振り下ろす!


しかし――!


「ウォオゥ!」

―――バッッ!


「あっ!」


『ヘルハウンド』は後ろへと大きく跳躍し、いとも簡単に僕の攻撃を避けてしまった!


「ウゥウウウウ……」


「は、速い……!」


不味い……今まで相手にしてきた『ロック・リザード』は動きは鈍く、その代わり途轍もない硬度を持つという魔物だった……

それは運動能力が低くても破壊力だけは人並み以上にある僕にとってはとても相性のいい相手だった……


でも……この『ヘルハウンド』はまるで逆……!

素早い動きで得物を翻弄する……相性最悪の相手……!

どんな強力な攻撃も当たらなければ意味がない……!


僕は生徒達を助けなくては、などと偉そうに考えていた自分を恥じた……

今まで順調に討伐活動が続いていて、知らずのうちに気が大きくなっていたのかもしれない……!


でも、今更逃げる訳にはいかない……!


「ウォオオオォオオ!」

―――ダッッ!!


「き、来たっ!!」


先程の動きで僕を大して脅威ではないと判断したのか、『ヘルハウンド』は真っ直ぐ僕へと突っ込んできた。

どうする……!?

『ヘルハウンド』の突撃に合わせて『包丁』を振ってもまた簡単に躱されて……今度はそのまま……!!


ん……?『包丁』を振っても……?


「――っ!

 こうなったら……一か八か……!」


僕は『包丁』を構え、『ヘルハウンド』を迎撃する体勢を取った。

それを見ても『ヘルハウンド』は一切の戸惑いを見せず突っ込んでくる。

やはり僕の一撃など大したことはないと思っているのだろうか。


それは当たっている。

このまま『包丁』を振っても『ヘルハウンド』は難なく避けられるのだろう。


「ウォオオオッ!」


『ヘルハウンド』が僕の目前まで迫る。

その直前のタイミングで―――


「はぁあああああ!!!」


僕は『包丁』を横薙ぎに振るおうとし――!!


「ウォオオッ」

―――バッッッ


『ヘルハウンド』はその『包丁』を躱そうと、跳躍する―――


そしてそれとほぼ同時に!!!


「《フライパン》!!

 『規格(スタンダード)4倍(クアドラプル)』!!!」


その掛け声と共に、『黒い包丁』が――巨大な『フライパン』へと姿を変えた!!


「ウォオオッ!!??」


突如として出現した1メートル以上の黒い物体の存在に、『ヘルハウンド』が驚倒の声を上げる!

そして『包丁』を避けることしか想定していなかったその跳躍では―――巨大な『フライパン』を避けるには足りなかった!


―――ゴッッッッカァアアアアアン!!!


『ヘルハウンド』は巨大な『フライパン』の一撃をまともに受け―――


―――ボッッッ!!!


凄まじいスピードで吹っ飛び、僕の視界から消えてしまった……

これだけ巨大となると、重量の増加も相当なものになっていただろうから……

多分……あの『ヘルハウンド』はもう原型を留めてはいないだろう……


「はぁ……はぁ……」


僕は、何とかこの状況を切り抜けたことに安堵し———


「うっ―――!!!」

―――ドクン……!


突如、猛烈に痛み出した胸を抑え、膝をついた……!

僕はすぐさま『フライパン』を解き、ゆっくりと深呼吸をする……

胸が痛んだのはほんの一瞬のことで、僕はすぐに立ち上がった。


「そうだ、まだ『ヘルハウンド』は複数体いたはず……!

 プランティさんは……!?」


と、その直後……


「フィルさん!大丈夫ですか!?」


僕の元へプランティさんがやって来た。


「プランティさん!

 こっちは大丈夫です!そっちの方は!?」

「こちらも『ヘルハウンド』は討伐しました!

 生徒達も無事です!

 生徒達を遠ざけつつ3体を同時に対応するのは少し手間取りましたが……!」


そっかぁ……アレを3体同時に対応かぁ………

自分の苦戦っぷりを思い出し、僕は思わず乾いた笑いが出かけた。


まぁ、プランティさんはとんでもない実力者で、僕なんてまだまだなんてのは十分承知の上だけどさぁ……


と、そんな卑屈なことを考えている場合じゃなかった!!


「プランティさん……!

 これって一体……!」

「分かりません……!

 しかし、これには何か……作為的なものを感じます……!

 はっ!そうだ!お嬢様!!

 この状況で『レゾナンス・ベル』が鳴らないなんて……!!

 まさか、何か………!?

 くぅっ……!!」


プランティさんの表情からは迂闊にも主の傍から離れてしまったことを心の底から悔やんでいるのがありありと感じられた……!


「フィルさん!私はお嬢様が連れられた森へと行きます!!

 もしかしたら、スクトさん……いえ、あの時会った人物が今回の事態を引き起こしたのかも……!」

「僕も……僕も行きます!」


そして僕達は制服をモード《ブルー》へと切り替え、スリーチェが連れていかれたという森へ向かって駆け出したのだった―――


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