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第13話 異常事態と胸騒ぎ


「ウォオオオオオオオオオ!!」


「う、うわあああああああああ」

「なんだよ!?

 なんなんだよこの魔物ぉ!!??」


突如として現れた犬型の魔物に生徒達はパニックに陥っていた。


「皆!!落ち着くんだ!!下手に逃げ回るんじゃない!!

『ヘルハウンド』は集団から孤立した者を狙う―――あっ!おい君!戻れ!!」


調査隊員の呼びかけも、恐慌状態になった生徒の耳には届かない。

必死にこの場から逃げようとするその背中に、すぐさま『ヘルハウンド』は飛び掛かった。


「ウオォォオオオオン!!」

「ひぃああ!!!たっ!助けっ―――!」


その牙が、生徒の首へと食い込む―――その直前。


「うぉらあああああああ!!!」


―――ズバシャァッ!!


大斧の一閃が『ヘルハウンド』の身体を両断した。


「ひっ、はっ、お、お前は………!」


間一髪で生徒を助け出した大柄の生徒……ミルキィはその助け出した生徒の胸ぐらを掴んだ。


「馬鹿野郎!!1人で勝手に逃げ回るんじゃねぇ!

 調査員の言うこと聞いて固まるんだよ!!行くぞ!!」

「う、うわああっ!!」


ミルキィはその生徒を抱えながらチームの元まで走った。

偶然にもミルキィはこのチームに助っ人に入っていたのだ。


「隊員さんよぉ!これは一体なんなんだ!」

「わ、分からない……!

『ヘルハウンド』は本来ここより先、『イエローエリア』から出没する魔物のはず……!

 異常事態としか言えない……!

 だが今はそれよりもこの場を切り抜けることを考える方が先決だ!

『ヘルハウンド』は群れで行動する魔物だ!おそらくまだいるぞ!気を付けろ!」


その言葉通り、3体の『ヘルハウンド』が新たに平原の奥から走ってくるのが見えた。


「くそっ!!」


『ヘルハウンド』は素早い動きでこちらを翻弄してくる。

先程は生徒に飛び掛かった瞬間を狙ったので攻撃を当てることが出来たが、今度はそう簡単にはいかないだろう。

実際、その瞬間までミルキィは1体の『ヘルハウンド』に碌に攻撃を当てられずにいたのだった。

それが今度は3体……

ミルキィは思わず歯ぎしりをしていた。


と、その時―――


「ミルキィ!!避けろ!!」

「《ファイアー・ジャベリン》!」


同時に聞こえた2つの声にミルキィは咄嗟に反応し、その場から飛び退いた。


―――ボヒュボヒュボヒュッッ!!

「「「ギァアアアアッ!!」」」


その直後、高速で飛来する3つの『炎の槍』が3体の『ヘルハウンド』を貫いた。


「大丈夫ですか!ミルキィさん!『ポーション』です!」

「おお!ヴィガー!キャリー!バニラ!オメェらも無事か!」

「なんとかな!何が起きてんのかさっぱりだが、取り合えず見かけたチーム同士で集まって移動してるところだ!」


今この場にはミルキィ、ヴィガー、キャリー、バニラ、そしてその4人が助っ人に入っていたチームにその担当の調査隊員達が集まっていた。


「この犬っころだけじゃなくて『ロック・リザード』の数もいきなり増しやがった……

 さっきは一昨日の時みてぇな群れと遭遇しちまったぜ。

 なんとかキャリーと協力して切り抜けたけど、大分負担をかけちまった……」

「ん、大丈夫。まだ平気」


そう呟くキャリーの額にはうっすらと汗がにじんでいた。

この非常事態に対し彼女の力は実に頼もしい限りであるが、やはり1人で切り抜けるには限度がある。


「これ以上コイツに無理をさせたくない。

 ミルキィ、協力してくれ」

「おう!当たり前だ!

 隊員さん達にも頼らせてもらうぜ!」

「ああ、勿論だ!

 むしろ立場的には私達の方こそ君達を守らねばならないのだからな!」


ミルキィは改めて大斧を構え直した。


「なぁバニラ。

 オメェの《プレゼンス・ハイド》を使えば魔物に気付かれずに移動出来るんじゃねぇか?」

「ご、ごめんなさい……これだけの人数を同時には……」


バニラは自責の念に駆られ、目の端に涙を浮かべ謝る。

ミルキィは「気にすんな!」と声をかけ、ヴィガーの方へと向き直った。


「ところで他の奴らはどうなってるんだ?」

「今の所見かけたのはここに居る奴らだけだ。

 まぁ、フィルやアリスリーチェ、そのお付き達、そしてあのスライムは多分一緒に居るだろうし、スリーチェもあのプランティってお付きが一緒なら大丈夫だろ。

 後は――――」



「はぁーーーーはっはっはっはっは!!!!

 これだ!!!このシチュエーションこそ私が求めた最高の演出!!

 この絶体絶命!!最大級の危機的状況を華麗に切り抜け、私の『勇者』伝説が永遠となる!!!

 さあ喰らえ魔物共!!!

 最強『勇者』の究極の一撃!!!

《ジャッジメントォオオオオオオオオオオオ・

 ルゥウウウミナァァアアアアアス》!!!!」



数百メートル程先で、巨大な『光の滝』が現れ、『ロック・リザード』や『ヘルハウンド』が吹き飛んでいく様が見えた。


そして、その後……


「うわああああ!!

 まだまだ追加の魔物がぁあああ!!」

「お、おい!アイツなあんな所でぶっ倒れちまってるぞ!

 は、はやく何とかしねぇと……!」

「っていうか今の派手な光と音で余計に魔物が集まってきるぞぉおおおおおお!!」



「とりあえず今すぐあそこまで行ってあのバカ回収すんぞ!!!」

「おう!!!!!」


ミルキィたちは全速力で走りだした………


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「きゅる……!?」

「い、一体これは………!?」


丘の上から見える光景にキュルルとアリスリーチェは思わず目を見張った。

緊急事態を表す色の狼煙……それが平原の至る所から上がっていた。


そして、先程までとは比べ物にならない程の悲鳴、応戦、魔法による攻撃の音が響き渡り始めたのだった。


「アリスリーチェ様!」


この異常事態に遥か遠方に控えていたファーティラ達が一目散に主の元へ駆けつけた。


「ファーティラ!一体何が起きておりますの!?」

「分かりません!突如として魔物が一斉にこの場に姿を現したようでして……!

 どうやら『ロック・リザード』だけでなく『ヘルハウンド』の姿まで確認されているようです!

 ここもいつ魔物が現れるとしれません!すぐにお戻り―――」


「き、来ました!!『ロック・リザード』と『ヘルハウンド』の群れです!!」

「っ!!!」


ウォッタの呼びかけにファーティラは言葉を止め、迎撃態勢に入る。

その数は……合わせて20体はいる。


「あ、あんなに……!

 く……仕方がありません!

 無理に全てを倒しきらず、ここを突破することを優先―――」


「全員下がって!!」


「オニキスさん!?」


アリスリーチェの言葉を待たず、キュルルが4人の前へと飛び出た。


「《ダイナミック・マリオネット》!!!」


―――ズォォオオオオオオオオオオオ!!!!


その言葉と共にキュルルの身体から溢れ出た漆黒の魔物の集団が『ロック・リザード』と『ヘルハウンド』の群れを覆い尽くす。


「「「ウギィァッッ!!??」」」


そして、その質量によって魔物の群れは一瞬のうちに断末魔と共に圧し潰された。

キュルルが漆黒の魔物集団を体内へと戻すと、そこにはひしゃげた肉体を晒す魔物の死骸が残るだけであった……


「ふぅ………」

「オニキスさん!!まだどれ程の魔物が残っているのか分からないのですのよ!

 無駄に力を使い過ぎてはいけませんわ!」

「ふん!この程度、ボクは全然余裕だよ!!」


売り言葉に買い言葉を返しつつもキュルルの表情には少し疲れの色が見えた。


「アリスリーチェ様、これから如何されますか?」

「どれ程の魔物がいるか把握できていない以上無理に戦いを続けて消耗するわけにはいきませんわ。

 この事態は学園側も把握しているはずです。

 きっと講師達の応援や場合によっては王都の討伐隊も動くはずですわ。

 わたくし達は極力戦いを避け、目についた他のチームと合流しつつ『扉』まで戻りましょう」

「「「承知しました!!」」」


そんな指示を飛ばすアリスリーチェに、キュルルが焦燥に駆られた声をかけた。


「ねぇフィルは!?フィルは一体どうしているの!?

 それにスリーチェ達も!」

「っ………!」


その名前に、アリスリーチェも一瞬身体を硬直させてしまう。


「………気がかりではありますが……だからといって闇雲に動き回って無駄に体力を消耗するわけにはいきませんわ……!」

「きゅる……!そんな………!」


キュルルは納得のいかない声を上げた。


「大丈夫ですわ……!

 フィルは……わたくしの生涯のライバルはこの程度の困難、きっと切り抜けられておりますわ……!」

「この野郎……!こんな時にライバルアピールしやがって……!」


状況が状況なので拘泥するわけにもいかず、それ以上は何も言えないキュルルであった。


「それに他の方々も……少なくともわたくし達のチームのメンバーならば、十分この事態に対応できる力はありますわ……!」


この3日間でチームのメンバーの力は十分把握したつもりだ。

冷静に対処すれば決してこの魔物達に遅れを取ったりはしないだろう。


「スリーチェ様の方に関してもおそらく大丈夫でしょう。

 なにせあのプランティが傍についているのですから」

「……………ええ」


園芸用具(ガーデニングツールズ)』の中でトップクラスの実力者。

『ロック・リザード』の討伐も1人で難なくこなせる彼女が傍にいる以上何も心配することないと、ファーティラは安心しきっていた。


しかし……


―――何故か、胸騒ぎが致しますわ………


アリーチェは、この状況に何者かの意志を感じた。


そして、何の根拠もないことだが………学園活動初日に自分の身に起きた、あの事件。

あれが無関係ではない気がしてならないのだった………


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