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第4話 貴女とスリーチェと理由


《エクスエデン校舎・廊下》


「お腹すいた~~!!」

「討伐活動中のお昼ごはんは携帯食だったからね……

 まぁ思ってたよりおいしかったけど、量がちょっと物足りない感じだったかなぁ……」

「それは貴方達の普段の食事量の方がおかしいだけだと思いますけれどね……」


僕達がそんなことを話しながら食堂への道を歩いていた時だった。


「コーディス先生!!お願いします!!」


「きゅるっ!?」

「この声……」


曲がり角の向こうから聞こえて来たその声の主は……


「スリーチェ……!」


誰よりも早く、アリーチェさんがその曲がり角に向かって車椅子を走らせた。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「今日の模擬戦でもわたくしは上位の戦績を収めましたわ!

 十分に大陸西側でも通用するはずです!」

「確かに君の能力の非凡さは認めるよ。

 しかし大陸西側では個人の実力だけでなく、他者との連携などの能力も求められてくる。

 君達の能力をもっと多角的に見る為にもう少し時間を取らせて欲しいんだ」

「それでしたら是非お姉さまのチームに入れてください!

 お姉さまとでしたらもう十分に連携を―――」


「おやめなさい!スリーチェ!!」


「っ!!

 お、お姉さま……!」


アリーチェさんの一喝にスリーチェは震えた声を出して委縮した。


曲がり角の先には僕達の予想通りコーディス先生とスリーチェ、そして彼女の傍に控えるプランティさんがいた。

そこは2階から1階に繋がる階段の近くだった。

確か先生達が話し合いをする場は校舎の上の階にあるって話だっけ……

どうやらスリーチェはスクトさんの報告を聞き終えたコーディス先生を待ち伏せていたらしい。


今朝、僕やキュルルも聞いたあのお願いを直談判する為に……


「あ、あの……お姉さま……わたくし……!」


何と言えばいいか分からなくなっている様子のスリーチェを無視し、アリーチェさんはコーディス先生の前まで移動し、深々と頭を下げた。


「コーディス先生、妹がご迷惑をお掛けしました。

 この子にはわたくしから言い聞かせておきます。

 貴重なお時間をこんなことに割かせてしまい深く謝罪を申し上げますわ」

「いやまあ、私の時間はそれ程貴重というわけでもないんだけどね。

 学園の運営関係は大体他の人……アリエス先生辺りに丸投げしてるし」


気まずい場の空気を和ませてくれようとしてくれたのか、コーディス先生はそんなことを言う。

頼むからそうであって欲しい。


「それで、この場は任せてしまってもよいのかな?」

「はい、こんなことにお手を煩わせてしまい申し訳ありませんでした」

「ふむ……それでは私は行かせてもらうよ」


そう言ってコーディス先生は僕達から離れていった。

その姿が廊下から消える直前にぐるぐる巻きの蛇が手を振るかのように首をこちらへ向けペコリと下げた。

今更だがあの蛇達も中々に謎だ……


「さて、スリーチェ」

「っ…………!」


そして再びこの場は重苦しい雰囲気に包まれた……


「今朝のわたくしの言葉を覚えておりますかしら?

 あまり我儘が過ぎると強制的にここから出て行って頂く……

 あの時わたくしは確かにそう言ったはずですわ」

「お、お姉さま……そのっ……わたくしは――」


「黙りなさい」


「―――っ!」


アリーチェさんはにべもなく言い放った。


「わたくしだけにならまだしも、この学園の方にまであのような恥を晒して、ガーデン家の品位を貶めるような真似をして、おめおめとここに居続けるおつもりなのですか?」

「…………………………」


スリーチェは俯いたまま何も言わなくなってしまった。

「いやお前だって割と恥を晒して来ただろ……」というキュルルの呟きにもアリーチェさんは一切の反応を見せない。


「この件はお父様へ報告し、然るべき対応を取って頂きますわ。

 いいですわね、スリーチェ」

「………………………!」


話はそれまで、とでも言うようにアリーチェさんはスリーチェに背を向け、その場から去ろうとする。

スリーチェは何かを言いたげだったが、それでも声は出さずにただ弱弱しく片手を伸ばすだけだった……


「あの、アリーチェさん」


僕は重い空気の中、そばを通り過ぎようとする彼女へと声をかける。


「フィル。これはわたくし達の家の問題です。

 貴方でも口出し無用ですわよ」


アリーチェさんはこちらを一瞥もせず、毅然と言い放った。


「……貴女達の問題に深入りするつもりはありません。

 ただ……」


僕は俯いたままのスリーチェをチラリと見る。


「アリーチェさんは、スリーチェがこんなことを言いだした理由に心当たりがありそうでしたよね?」


ピクリ、と僕の言葉にアリーチェさんとスリーチェ、2人が同時に反応した。


「教えてくれませんか?

 スリーチェの友達として、せめてそれだけでも知っておきたいんです」


「…………………………………………」


アリーチェさんは目を閉じたまま、黙っていた。

スリーチェもまた、何も喋らないままだ。



そうして、短くない時間の沈黙の後―――



「サリーチェお姉様」

「っ!!」


アリーチェさんの口からポツリと零れ落ちたその名前に、スリーチェはバッ!と顔を上げる。

僕は思わずその名を繰り返した。


「サリーチェ……お姉様……?」


「サンドリーチェ=コスモス=ガーデン。

 5年前、魔物との戦いで命を落とした……我がガーデン家長女の名ですわ」


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