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第3話 僕達と本日の成果


「きゅるぁああ!!

《ハイデンシティ・ナックル》!!」


―――ゴッッッ!!!

「グギャァア!!」


「うおお……!」


キュルルが普段の数倍の大きさに巨大化した右腕で地面を抉りながら『ロック・リザード』に渾身のアッパーを決めていた。

ちなみにその腕の中にはそこらから収集してきた石や土がギュウギュウ詰めにされており、かつての模擬戦で見せた石の詰まった腕の大型版といった所か。

その威力たるや『ロック・リザード』がクルクルと回転しながら数メートルも打ち上げられる程だ。


そして仰向けで落下した『ロック・リザード』に向かってすかさず―――


「《ハイデンシティ・プレス》!!」


―――ドッッ!!!

「ゴアアアァァァ………!!!」


巨大化した両拳を組み合わせ『ロック・リザード』の腹にハンマーのように振り下ろすと、『ロック・リザード』は断末魔を発し、動かなくなったのだった……


「ふぅーー……ぶいっ!!」

「流石、なんとも鮮やかなお手並みで……」


1人で難なく『ロック・リザード』を討伐してしまったキュルルに僕は思わず丁寧語で褒めたたえてしまうのだった。


「思ったのですけど、こんなことしなくてもアナタならば例の《ダイナミック・マリオネット》とやらで昨日の群れの時も楽に一掃できたのではございませんこと?」

「アレって実は結構疲れるんだよねー。

 周りもいっぱい巻き込んじゃうし、力加減間違えちゃうと危ないし。

 ボクとしては他の人の助けがあった方が助かるかなー」

「そうなんだ……じゃあ次からは誰かが援護に回った方がよさそうかな」


「……実の所ただフィルと一緒に戦いたいってだけだったり―――」

「ねぇフィル!今度は昨日の逆でフィルが足止めしてボクがやっつける役でやってみようよー!」

「あからさまに誤魔化しましたわねこの黒ゴマ豆腐……」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「はぁ……はぁ……くそ!中々うまく転ばせらんねぇ……!」

「はい、ミルキィさん!『スタミナポーション』です!」

「おう、すまねぇ!助かった!」


「《シャイニング・レイザー》!!

 《シャイニング・レイザー》!!

 《シャイニング・レイザアアアアアア》!!!」

「コ、コリーナさん!そんなに飛ばし過ぎるとまた魔力が枯渇してしまいますよ!

《マジックポーション》です!これを飲んだら一旦下がってください!」

「んくっんくっんくっ―――ぷはぁっ!

 よぉし!もういっちょ《シャイニング・レイザー》だぁああ!!!」

「あの話聞いてますぅ!?」


「やはり雷魔法も効きが悪いか……

 仕方がない、魔力を多く消費してしまうが上位中等魔法で――」

「ファーティラさん!爆発罠の設置完了しました!

 こちらへ誘導してください!」

「おお!素晴らしい手際の良さです!

 是非貴女も我ら『園芸用具(ガーデニングツールズ)』の一員になりませんか!」

「丁重にお断りします!」



「バニラさん、キャリーさんが言ってた通り凄い適格なタイミングでサポートに入ってくれますね」

「あの子は昔から周囲に気が回る子で私も色々と助けられてきた。

 私は周りには無頓着な方だったから」


あちこちに忙しなく動くバニラさんを僕とキャリーさんは共に見ていた。


「それにしても……さっきから『ロック・リザード』はバニラさんに全然反応しませんね。

 サポートに入る為に結構近くに行くこともあるのに……」

「あの子の魔法のおかげ。

 隠匿魔法 《プレゼンス・ハイド》

 魔法をかけられた者は魔物から知覚されなくなる」

「へえ、便利そうな魔法ですね!」

「ただしこちらから攻撃すると効果が無くなる。

 だから不意打ちとかに使えるのは一度だけ」


なるほど……攻撃を行わないサポート役にはピッタリの魔法という訳だ。



「そして貴女は地味な見た目とは裏腹に身体は中々に立派なモノをお持ちと見ました!」

「何か関係あるんですかそのセクハラ!?」



「なんか彼女……苦労人気質というか……

 アリエス先生臭がするなぁ……」

「人の名前を臭い扱いするのは多分失礼だと思う」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


―――どたっどたっどたっ!


「…………………………」


1匹の『ロック・リザード』が車椅子に座るアリーチェさんに向かって突撃してくる。

しかし彼女はまるで動じていない。

見ている僕はハラハラしっぱなしだ。


『ロック・リザード』の鋭利な角が彼女を貫くその直前―――


「はぁっ!」

――――ギャルルルッッッ!


「うおおっ!?」


アリーチェさんが肘掛けの操作盤に素早く手を当てると車椅子がその場から急旋回し『ロック・リザード』の突進をヒラリと躱した!


「カキョウ!」

「はっ!!」


そして即座にカキョウさんが『ロック・リザード』の横合いに近づき、掌を向けると―――


「《ガスト・ブースト》!!」

―――ボッッッッ!


掌から発せられた突風によって『ロック・リザード』の身体が大きく傾いた!

しかし完全に転ばせられる程ではなく、ほんの数秒『ロック・リザード』がよろめくぐらいでしかなかった。

だがその数秒間『ロック・リザード』の腹が見える。


その隙を見逃さず――!


「《エミッション・アクア》」

―――バシュッッッッッ!!!


アリーチェさんの指から放たれた高圧水流が『ロック・リザード』の腹を縦一文字に切り裂く!


『ロック・リザード』は仰向けに倒れるとその腹から鮮血を噴き出し、ピクピクとわずかな時間痙攣した後、動かなくなったのだった。


その場に降り注ぐ血はカキョウさんの日傘によってアリーチェさんには一滴たりとも付くことはなかった……


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「お見事にございます!アリスリーチェ様!」

「あの程度造作もないこと……と言いたいですが、やはりわたくし1人では対応は厳しそうですわね。

 カキョウ、貴女がいなければこうはいかなかったでしょう。

 感謝致しますわ」

「はっ!勿体なきお言葉です!」

「わたくしはまだまだ貴女達の力を頼りにしなければなりませんが、いずれは自身の力のみで様々なことをこなせるようにならないといけませんわね。

 その時までどうかわたくしと共に歩んでくださいな、貴女達」

「「「はっ!!!勿論でございます!!」」」


「さて、如何でしたしょうか?フィル」

「いやもう……

 流石としかいいようがありません……」

「ふふ、どういたしまして」


いつもと変わらない様子で優雅に微笑むアリーチェさんに僕はただただ尊敬の念を抱くのみであった。

後ろから「ボクなら1人でラクショーだっての……でもそれ言っちゃうとフィルと一緒に戦えない……」とかなんとかぶつぶつ聞こえてくる。


「それにしても想像以上にアクロバティックに動きますねソレ……」

「この『マジック・ウィルチェアー』は我がガーデン家のマジックアイテム開発部門の技術の結晶ですからね。

 ちなみにリミッターを外せば最大時速300キロを出せますわ」

「なんか一気に危険物に見えてきたんですけど!」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


そんなこんなで本日は6体の『ロック・リザード』の討伐に成功したのだった。


「いやぁ……こうもサクサクと順調に進んでしまうと逆に困惑してしまうなぁ……

 新人の討伐隊並の成果だよこれ……」

「まぁこのチームは正直上澄みも上澄みの集まりですから……」


スクトさんの苦笑い交じりの称賛に僕もまた苦笑い交じりの返事をしてしまうのであった。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「いよっしゃー!今日は4体討伐してやったぜー!」

「慣れればあんな突進どうって事ないな!」


「3体か……もうちょっといけたよなぁ……」

「無理して大怪我したら元も子もないだろ。

 じっくり慣れていこうぜ」


「他のチームも結構順調そうですね」

「いやはや全く、若者の可能性には恐れ入るなぁ……

 いや僕も全然若いんだけどさ」


そんなことをスクトさんと話しながら僕達は『扉』へと向かっていた。

今回は昨日のような『ロック・リザード』の群れとの遭遇や『ディスパース・バード』の強襲のようなことも起きず、無事に活動を終えることが出来た。


「ただまぁあまり順調過ぎるのも考えものなんだけどね」

「どういうことですか?」


「まあ端的に言えば調子に乗っちゃう危険がある、ってことかな。

 大陸西側……『アナザー・ワールド』で想定通りに事が進むことなんてのはこの『グリーンエリア』が精々さ。

 それでも昨日みたいなイレギュラーな展開だって起きる時は起きる。

 ここでは単純な実力よりもそういった想定外の事態に対応出来るかどうかの方が大事なんだ。

 だから順調に討伐が進み過ぎて調子に乗っていると、思わぬしっぺ返しを食らってしまうかもしれない。

 それが少し不安なんだよね」

「な、なるほど……」


「その点、君達は昨日の時点で既に想定外の事態に遭遇した経験があるわけだし、他のチームよりもさらに一歩抜きん出ていると言えるかもね」

「いやまあ、またあんな事態が起きたら即対応できるか、と言われたら自信ありませんけどね……」


昨日みたいなことが何度も起きたら心臓が持ちそうにないなぁ……


「はは、まぁ何事も経験と慣れだよ。

 とにかく、ここでは決して気を抜かないこと。いいね?

 それじゃ、僕は先にコーディスさんに今日の報告をしてくるよ」

「はい!今日もありがとうございました!」


そう言って一足先に『扉』へと向かうスクトさんを見送りながら、僕達もまた談笑しながら学園への帰路につくのであった。





この時のスクトさんの言葉を……僕達はもう少し肝に銘じておくべきだったのかもしれない。





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