第2話 僕達と2度目の討伐活動
「さぁて!本日も『ロック・リザード』討伐を行おうか!
未来の『勇者』達よ!」
昨日も訪れた『扉』を抜けた先の平原。
なんか若干テンション高めなスクトさんの号令の元、再び魔物討伐活動が始まった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ノルマは1チーム20体だけどこのチームは昨日の時点で半分以上の11体を討伐してるからね。
今日はじっくりと『ロック・リザード』の対応をしてみようか」
「はい!分かりました!」
「昨日はたいして目立った戦果をあげられなかったからな。
今日は俺が手柄を上げてみせらぁ!」
ミルキィさんが大斧を振り上げ気合を入れている。
「フィル、お前は昨日かなり出張っただろ?
今日はサポートに回ってくれ。
俺もそろそろ活躍させてもらうぜ」
「は、はい、了解です!」
僕はヴィガーさんに相槌を打った。
サポートか……これはこれでしっかりしないと……!
「ではわたくし達は後方待機ですわね」
「うん。
バニラ、貴女は各種ポーションの用意を」
「あ、う、うん!分かった!」
「で、コリーナさん。
貴女はくれぐれも変な気を起こさないでくださいね」
「失礼な!私のことをまるで何をしでかすか分からない厄介者みたいな口振りを!」
「しっかり理解してるではありませんの」
そうして、僕達の二度目の魔物討伐活動が始まったのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
―――どたっどたっどたっ!
「よっしゃあ!来やがれ!」
『ロック・リザード』が仁王立ちするミルキィさんに向かって突撃してくる。
「いいかフィル。
ミルキィが避けたらお前はハンマーでアイツをぶっ叩いてくれ。
トドメは俺達が刺すから昨日みたいなデカいのにする必要はねぇからな」
「はい!分かりました!」
ヴィガーさんの言葉に従い、僕はハンマーを作り出す準備をした!
そして―――!
「いよっとぉ!」
ミルキィさんが『ロック・リザード』の突撃を躱す!
「今だ!フィル!」
「はいっ!」
僕は木剣の柄を握り、叫んだ!
「【フィルズ・キッチン】!
《エッグハンマー》!!」
「よし!!
…………………………ん?」
ヴィガーさんが僕の生成した小さなドーム状の調理器具を見て、走り出そうとした姿勢のまま固まる。
「フィル、なにそれ」
「エッグカッターとも呼ばれる卵の上部だけを割ることが出来る調理器具です!
このドーム部分を卵の上部に被せて上から軽く叩くことで綺麗に―――」
「いや知らねぇよ!!!
そんなマイナーな調理器具!!!」
「いや実の所、僕って腕力ないんで料理でミートハンマーを使う機会ってあんまりなかったんですよね。
なので僕の中でハンマーって言ったらもっぱらコイツで……」
「テメェの料理事情はどうでもいいんだよ!!!」
「うおおおいテメェら何やってんだああああ!!
こっちはもう4、5回避けてんぞぉおおおお!!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
とまあ、そんなことがありつつも僕達は幸先よく『ロック・リザード』1体の討伐に成功したのだった。
「なぁフィル。
お前、俺とペアの時だけここぞとばかりにボケに走ってねぇか?」
「いやいや気のせい!きっと気のせいです!!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「きゅるー!
それじゃあ次はボクが行くよー!」
キュルルが腕をぶんぶん回しながら気合を入れていた。
「あのさ、キュルル……
今更だけど、君はいいの?
魔物討伐活動なんてしちゃって……」
「きゅる?何が?」
「いやだって、同じ魔物同士で……」
「魔物同士で争い合うのは珍しいことじゃないよ」
「スクトさん?」
僕がキュルルと話していると、スクトさんが会話に参加してきた。
「縄張りに侵入してきたのを追い出したり、獲物を取り合ったりとかでね。
普通の野生動物でも起きることだし、魔物同士といっても人間同士で争うのとは違う感覚なんじゃないかな」
「そうなんですか……
あ、でもキュルルは他の魔物の言葉が分かるし、会話もできるんだよね?」
キュルルが『魔王』を名乗るようになったのは他の魔物達からそう呼ばれるようになったから、というのは前に聞いたことだ。
「うん、でもね、全部の子とお話出来たわけじゃなかったの。
っていうか大抵の子とはお話することが出来なかったかな。
フィルと会う前までは他の子と普通にお話出来てたんだけど、フィルと別れてからはなんでかお話出来る子が少なくなっちゃったんだよね」
「僕と別れてから……それって、もしかして……」
「……魔王が討伐されたから、だろうね」
スクトさんが少し神妙な顔つきになっていた。
「なあキュルルさん。
君がお話をすることが出来た魔物って、何か特徴とかは無かったかい?」
「えっ?うーん……
身体がおっきい子もいたし、小さい子もいたし……
動きが素早い子もいたし、身体が固い子もいたし……
しいて言えば、皆強かったなー!」
「ふーん……強かった、ね……」
「うん!ボクを『魔王みたいだ』って言ってくれた子はみーんな手強かったんだー!
逆にあんまり強くない子達は全然お話出来なくて、ボクのこと食べようとしかして来なかったから逆にボクが食べちゃった!」
「食べちゃったかー」
やっぱりキュルルもその辺はしっかり魔物なんだなぁ……
「……魔王の『力』の影響が抜けきっていない個体もいるかもしれない……っていうのはコーディスさんも言ってたっけな……
強い個体……膨大な魔力を持つ個体にはまだ魔王の『力』の影響が残っている、ということかな?」
「あ、でも強い子なら誰でもお話が出来たわけじゃなかったよ?
強くてもこっちの言うこと全然分かってない子も結構いたし」
「そうなのかい?
ふーむ、ただ強いというだけでは足りない、か……
この子が強い『意志』を持っていたから、っていうコーディスさんの説……もしかしたら……」
スクトさんが顎に手を当てて色々と考え込んでいる。
魔王の『力』の影響……
そういや、僕達って魔王についてあまり分かってないなぁ。
「スクトさん、魔王の『力』って一体どういうものなんですか?」
「ああ、それは魔王の『エクシードスキル』によるもので、そもそも魔王は勇者一行の元―――うおァアアッッッ!!!!」
「?」
スクトさんが咄嗟に口を抑え物凄い勢いで後ずさった。
良く聞こえなかったけど、なんか今『エクシードスキル』がどうとか……?
「いや!!そのね!!
僕は結局魔王とは直接戦わなかったからね!!!
よく分かってないんだ!!ごめんね!!
だからこの話はコーディスさんに―――
ああいや駄目だあの人は割と普通に喋っちゃいそうだ!!!
えーとね!!あ、ほら、早く討伐活動に戻らなくちゃ!!
今日でノルマ達成目指しちゃおうぜー!!」
「今日はじっくりと『ロック・リザード』の対応をするのでは……」
そんなやたらと焦りだしたスクトさんに疑問を抱きつつ、僕達は魔物討伐を進めていくのであった―――