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第1話 貴女とスリーチェの不和


「ごっはん~♪ごっはん~♪

 きゅっきゅるきゅ~♪」


初めての魔物討伐活動から一夜明けた朝。

僕は楽しそうにスキップしながら歌うキュルルと一緒に朝食へと出かけていた。


昨日の夜は一昨日のような騒ぎは起きず穏やかに過ごすことが出来た。

キュルルもアリーチェさんも昨日の魔物討伐の疲れが溜まってる僕のことを慮ってくれたのだろう。

……普段からその気持ちを持っていてくれたらなぁ……



「馬鹿な事を仰るんじゃありませんの!」



「きゅるっ!?」

「この声……アリーチェさん?」


突然、廊下にアリーチェさんの大声が響き渡った。

そういや彼女はいつも朝になると僕の部屋にやってきていた(そして大体キュルルと喧嘩になる)のだが今朝は姿を見なかった。


「お願いです!お姉さま!

 お姉さまからもコーディス先生にお頼みください!」


「スリーチェ?」


アリーチェさんの部屋のドアの前でアリーチェさんとスリーチェが何やら言い争っていた。

どうしたんだろ?昨日までは仲良さそうだったのに……

2人の傍にはファーティラさん達やプランティさんもいる。


「あっ!フィルさん!キュルルさん!」


と、そんな様子を伺っていた僕達にスリーチェが気が付いた。


「お2人とも!どうかお願いします!

 わたくしも大陸西側での魔物討伐活動に参加させてください!」

「ええっ!?」

「きゅる?」


スリーチェの突然の懇願に僕達は困惑の声を上げる。


「お止めなさいスリーチェ!

 ガーデン家の威光を笠に着て自分だけ特別扱いされたいのですか!」

「そんなつもりじゃありません!

 わたくしは……わたくしはただ、1日も早く『勇者』になりたいと――!」

「それが自分で自分を特別扱いしているということではありませんの!

 大人しく学園からの指示に従って模擬戦で己の実力を判定してからにしないさい!」

「お姉さま……!」


スリーチェが救いを求めるように僕達へと視線を寄せた。

いや、僕達としてもいきなりそんなこと言われても……


「きゅるー!ボクはアリーチェと一緒に戦うの賛成だよー!

 コーディスに頼んできてあげようか!」

「――!

 キュルルさん!」

「ちょ、キュルル……!」


気の合うスリーチェの頼みだからか、キュルルは特に深く考えることもなくスリーチェの頼みを受け入れてしまった。

せめてもうちょっと話を聞いてからとかさ……

自分の味方が現れたことにスリーチェはとても嬉しそうな顔を見せた。


「なんだったらそこの巻貝女と代わって貰いたいぐらいだもん!」

「――――!」


しかし、キュルルのその言葉にスリーチェの顔は曇り始めてしまった。


「うん!そうだよ!コイツなんかよりスリーチェと一緒の方が10000倍―――」

「キュルルさん……申し訳ありませんが、貴女からはコーディス先生に頼み込んでくれなくても結構です」

「きゅるぅ!?」


突然梯子を外されたキュルルはガーンとショックを受け涙目になり固まってしまった。


「ねえ!お姉様!お願いします!

 どうか―――!」

「いい加減にしなさい!

 あまり我儘が過ぎますとお父様に報告して強制的にここから出て行っていただくことになりますわよ!」

「っ……!」


その言葉を最後にスリーチェはグッ……と唇をかみしめ、黙りこくってしまう。

傍にいたプランティさんが「お嬢様……」と遠慮がちに話しかけようとするが何と言えば良いのか分からないようだった。


「ふう……フィル、お騒がせしましたわね。

 さ、早く食堂に行きましょうか」


アリーチェさんとファーティラさん達が僕の傍を通り過ぎ食堂に向かおうとしてしまう。

俯いたままのスリーチェが気になるけど、僕としてもどう声をかけるべきなのか……

安易にスリーチェの味方するわけにもいかないし……


「あのさ、スリーチェ!

 僕は行くけど、落ち着いたらまた話聞くよ!後でね!」


とりあえずこの場はそっとしてあげた方がよさそうだ。

スリーチェに声をかけた後、僕はアリーチェさんを追いかけた。

キュルルはまだショックを受けているのか涙目で肩を落としたまま僕の後をトボトボ

と付いてきている。


「お姉さま……わたくしは……」


そんなスリーチェのこぼした言葉が耳を打った。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「あの……アリーチェさん……

 さっきのって……」

「わたくしにも分かりませんわよ。

 先程部屋を出たところで丁度ばったり会って一緒に朝食に誘おうとしたのですが、いきなりあんなことを言い始めて……」


食堂へ向かう道すがら、アリーチェさんに先ほどの一幕は何だったのか改めて話を聞いてみたけど……

どうやら彼女からしても突然のことだったらしい。


「昨日の夜にスリーチェと2人で話をしていた時は特におかしなところはなかったのですけどね……」

「へぇ……どんなことをお話していたんですか?」


「別に、取り留めもない話でしたわよ。

 この学園でどんなことを過ごしてきたとか、そこの『魔王』とどんな風に戦ったかとか、わたくしとフィルの関係は実際の所どこまで進んでいるのかとかをしつこく―――」

「関係?」


「うおばぁッ!!な、なんでもありませんわ!!!

 と、とにかくわたくしが手紙で送った内容をより詳しく話しただけですわ。

 まぁ、『例の事件』に関しては勿論伏せておきましたけど……」

「そうですか……」


では、あのスリーチェの様子は一体……


「あとは、昨日の魔物討伐活動の時についてのお話―――」

「アリーチェさん?」


言葉の途中で何かを思い出したかのようにアリーチェさんがピタリと止まった。


「そういえば……『あの話』をした時に、一瞬スリーチェの様子がどことなく変わったような気も……」

「『あの話』?」


「『ディスパース・バード』のことをお話しした時ですわ。

 フィルも覚えていらっしゃるでしょう?」

「あ、はい……アリーチェさんを襲おうとしたあの鳥の魔物ですよね?」


「ええ、突如現れた魔物にあわや危機一髪!しかしわたくしがはそれを華麗に撃退!と、まぁ少々ヒロイックに語っていたのですけど……」

「あはは……」


まぁ、実際華麗に撃退してしまったわけだし。


「ただ、その話を聞いた時のスリーチェがどうも心ここにあらずというか、何か思い詰めているような様子になっていたような気がしますの。

 すぐにいつもの調子に戻りましたので、気のせいかと思ったのですが……」


アリーチェさんは何かを思案するように口元に手を当てた。


「まさか、あの子……」

「アリーチェさん?」


僕が声をかけるとアリーチェさんはハッと顔を上げた。


「いえ、何でもありませんわ。

 あの子については改めてわたくしから話をしておきますので、フィルはお気になさらないでくださいな。

 さ、早く朝食を済ませてしまいましょう。

 今日も魔物討伐活動があるのですから、しっかり栄養を蓄えておきませんと」

「あ、は、はい……」


アリーチェさんは何か心当たりが浮かんだようだけど……

僕はそれを聞けず仕舞いなのだった……


「うう~………スリーチェ~……」


そしてキュルルは未だ肩落とし、シクシクとべそをかいているのだった……


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