第14話 弾丸と戦いの終わり
「『ディスパース・バード』……まずい!」
スクトさんの口から焦りを滲んだ声が漏れ――
そして―――
「キョアアアアアア!!!」
その鳥の魔物は奇声を発しながらアリーチェさんへと急降下を始めた!!
いやでも、アリーチェさんの《エミッション・アクア》ならアレくらい―――!
「アリスリーチェさん!逃げろ!!
ソイツの羽毛は魔法攻撃を霧散させる!!」
「ええっ!!??」
それはつまり……魔法が通じない!?
「アリスリーチェ様!!!」
折り悪く、一番速く駆けつけられそうなカキョウさんが最も遠くに……!
『ディスパース・バード』のカギ爪がアリーチェさんを狙って―――!
「つまり、物理的な攻撃なら問題ないですわね」
―――え?
そんなことを呟いたアリーチェさんはいつの間にか指先で何かを抓んでいた。
それは『ロック・リザード』から剥離した岩の鱗だった。
アリーチェさんはそれを人差し指と中指の間に挟み込むと―――
その2本の指先を鳥の魔物へと向けた。
そして―――
「《エミッション・ウィンド》」
―――ボッッッ!!!
その『魔法名』を唱えると共に―――!
岩の鱗が凄まじいスピードで指先から撃ち出された!!
―――ドッッッ!!
「ギュアアッッッ!??」
その『岩の弾丸』は―――
『ディスパース・バード』の胴体を貫いた―――!!
そして『ディスパース・バード』は羽ばたく力を失い……地面へと落ちたのだった――
「あ、アリーチェさん!?
今のは……!?」
「《エミッション・ウィンド》の出力を調整して空気を圧縮し、指先の物体を撃ちだしてみましたの」
空気の圧縮……!
《エミッション・ウィンド》をそんな風に扱える人なんて彼女以外いるはずもないんだろうな……
「「「アリスリーチェ様!!」」」
ファーティラさん達が一斉にアリーチェさんの側に駆け寄る。
どうやらこの場の全ての『ロック・リザード』は倒し終えたようだ。
「またしても貴女様の危機に我々は……!」
「やれやれ……いつわたくしが危機に陥ったというのですか?
たかだか羽虫を払う程度の動作まで貴女達に頼るつもりは毛頭ありませんわ。
貴女達はしっかり自分の役割を果たせているのですから何も恥じることはありませんわよ」
「あ、アリスリーチェ様ぁ………!」
羽虫を払う程度かぁ………
僕は思わずすぐ近くでまだピクピクと動いている巨大な怪鳥を見つめてしまうのだった……
「いやはや……
なんとも凄まじいチームだな、ここは!」
「スクトさん!」
スクトさんが笑いながら僕達の方へと歩いてきた。
「まさか初日で11体もの『ロック・リザード』を討伐してしまうなんてな!
しかも『ディスパース・バード』まで!
正直こっちは1体も倒せないぐらいは覚悟していたんだぞ!」
「は、はぁ……そうなんですか……?」
スクトさんは若干高めのテンションで非常に上機嫌そうだった。
「実は皆にはあえて話していなかったんだがこの『ロック・リザード』の討伐は王都の討伐隊も持て余してた案件だったんだよ。
爆発的に増えていく個体数に手が全く足りなくなってね。
僕みたいな王族の護衛隊にまで声が掛かってた程なんだ。
そんな時にこの『ロック・リザード』討伐を勇者学園の学園活動として利用させてもらえないか、なんてことをコーディスさんから提案されたんだ。
生徒達の訓練になり、討伐の人手不足も解決してWin-Winだろう、ってね」
「ただまぁ……」とスクトさんは腰に手を当て首を左右に振る仕草をした。
「正直に言ってしまうと……
素人をよこされても邪魔にしかならないだろう、っていうのが僕達の偽らざる本音だったんだ」
まぁ、その意見はごもっともだろう。
「しかしそれがどうだ!
そんな心配は全く杞憂に終わってしまった!
いやあ流石はコーディスさんというか、あの人は何も考えてないように見えてやることなすこと計算ずくだ!
いや、それはどうなんだろう……」
「自分で自分の台詞にツッコまないでください」
なんにせよ、僕達はスクトさんのお眼鏡に叶うことができたようだ。
「………ま、チーム内で随分活躍の差はあるけどな」
「ああ、俺達は殆どそこの御令嬢のお付きに頼りっぱなしだったぜ……」
「わ、私なんて全然、何にもしてないです……!」
ミルキィさん、ヴィガーさんが気落ちしたような声を出し、バニラさんが慌てて自分を卑下しだす。
「あの……僕はともかく、他の人達はちょっと規格外過ぎて比べてもしょうがないような……」
「ちっ……ある意味一番規格外な奴にそんなこと言われても皮肉にしか聞こえねぇぜ」
「全くだな」
「いや、全然そんなこと―――う……!?」
―――クラッ……
突然の眩暈に僕は頭を抑えて膝をついた。
「お、おいフィル!?」
「どうした!?」
そんな僕の様子に話をしていたミルキィさんとヴィガーさんが慌てた声を出す。
「きゅるっ!?」
「フィルっ!しっかり!」
そしてキュルルとアリーチェさんが僕の傍まで寄ってきて心配そうな声をかけて来てくれた。
「だ、大丈夫です。
ちょっと眩暈がしただけで、もう何ともありません」
僕は駆け寄ってきた2人に返事をしながら立ち上がった。
「フィル……今のって……」
「リブラ先生が言っていたこと……ですの……?」
「多分、ね……
でも、ホントにちょっと眩暈がしただけだから『まだ』大丈夫だよ」
「おいお前ら、どうしたんだよ?」
ミルキィさんが僕達の会話に怪訝な声を上げる。
「……いえ、ちょっと疲れちゃっただけです。
ほら、僕って体力無いじゃないですか」
「いやまぁ……それは俺達も知ってるけどよ……」
ヴィガーさんは僕の返答にいまいち納得がいってない様子だ。
僕は、曖昧に微笑んで誤魔化すのだった……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「よーし!今日はこれぐらいで終わりとしよう!
魔物討伐初実践でいきなり飛ばしても身が持たないしな!
君!集合の狼煙を上げてくれ!」
「了解です!」
スクトさんが近くにいた調査隊員に伝令するとすぐにその狼煙は上がり、その後各所からも狼煙が上がり始め―――
次第に、そこら中で響いていた戦闘の音が止んでいった―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「クソッ……あれだけ時間かけて2体しか仕留められなかった……!」
「あの魔物硬すぎだろ……」
「こっちはなんとか3体仕留めることが出来たぜ!」
「コツさえつかめば結構簡単にひっくり返せるようになったよな!」
「はぁ……たった1体………」
「よりによって得意魔法が全員炎魔法だなんてね……」
周りから色んなチームの呟きが聞こえてくる。
まだまだ成果に不満を持つチーム、上々の成果が出せたチーム、不甲斐なさを嘆くチームなど実に様々だ。
「ほう……どのチームも1体以上は討伐が出来ている、か。
命に関わるほどの重傷を負った者も無し。
これは中々に嬉しい誤算じゃないかな」
「ええ、話を聞いた時はどうなるかと思いましたけど、この調子なら十分戦力として期待できそうです」
一方でスクトさんと調査隊員の人達が僕達について話をしていた。
どうやら僕達以外も好感触のようだ。
「『ロック・リザード』の数が約10000体で、ここには500チームいる訳だから……
ノルマは1チーム当たり20体か。
この分なら1、2週間もあれば達成できそうだな」
「皆中々伸びしろもありますよ。
これなら近い内に『イエローエリア』にも―――」
うう……あまり期待され過ぎるとプレッシャーが……
「でも………!」
僕は改めて、キュルルと出会った日……野営地に忍び込んだ時に考えていたことを思い起こした。
―――ここで僕も魔物と戦って不安におびえる人々を救ってみせる!
「うん………!」
僕はようやく、あの日の気持ちに自分が追いついた気がした―――