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第7話 僕と制服


《 エクスエデン校舎・自室 》


「……………………うん!」


僕は鏡の前で自分の姿を見た。

その白い制服に身を包む自分の姿を―――


まだまだ気恥ずかしい気持ちはあるけど……

こうして制服姿でいると、いよいよもって学園の生徒!って感じがして否応なしにテンションが上がってしまうのだった。


そして……僕は高鳴る胸を抑えながら………

制服の襟の左側についている青い宝石のような模様へと手を寄せ……

ゴクリと唾を飲みながら、その模様を押し込んだ……!


すると―――


―――キィン……


先程聞いた鐘のような音が鳴り響き―――


―――シュオオオオオ……!


「うおおおおお………!」


僕の着ている制服が一瞬にして青色へ変わった!

アリエス先生の実演通りだ!


そして、コーディス先生の説明によるとこのモードでは移動能力が向上されるとか……!

確かに、何となくだけど身体が軽くなったような感覚がするような……!


僕はいてもたってもいられず部屋から飛び出し、校舎の出口まで走り出す!

そしたらすぐに分かった!


本当だ……!速い……!


部屋から校舎出口まで辿り着く時間もいつもよりずっと短くなっていた!

くぅ~!僕は感動のあまり思わず叫びかけてしまった!


そして校舎から出た先には他の生徒達の姿があり、通常の白色、モード違いの青色、赤色の3色の制服が並ぶ光景が僕の目に飛び込んできた!


「おうフィル、来たか!」

「お、お前はやっぱ青色を試したか!俺と同じだな!」

「ミルキィさん!ヴィガーさん!」


僕に声をかけたのは赤色の制服を着たミルキィさんと青色の制服を着たヴィガーさんだった。


「テメェらなに青なんかにしてんだ!

 男ならパワーだろ!

 こいつはスゲェぞ!

 今なら黒鋼岩だって自慢の斧で粉砕出来ちまいそうだ!

 それにあのスライムだってこれなら……!」

「分かりきったオチにしかならねぇから止めとけよ。

 ま、調子に乗りたくなる気持ちは分かるけどな。

 俺もこれなら《アイス・ブレード》を持ったまま素早い動きが出来そうだ」


2人とも制服の機能にとてもご満悦のようだ。


「やれやれ、簡易魔導書を受け取った時の入学者達を思い出す浮かれ模様ですわね。

 今ここに居るのはあの時より上澄みの方々なはずなのですが」

「あ!アリーチェさん!」


僕がその声の方へ目を向けると、そこには制服姿のアリーチェさんの姿があった。

当然その周りには同じ制服を着たお付きの3人も一緒だ。


アリーチェさんはモード切替はしておらず、通常の白い制服のままだった。

普段から白を基調としたドレスをよく着ているからか、非常に似合っていた。


「アリーチェさんはモード切替しないんですか?」

「一応2つとも試してはみましたわ。

 まぁわたくしの場合、《ブルー》の移動能力向上はあまり意味がありませんからね。

 使うとしても《レッド》の方になりますわ」


《レッド》……攻撃能力向上か……

肉体による攻撃だけじゃなくて魔法攻撃も向上するって話だったもんな……

あの《エミッション・アクア》の水流カッターなんてどれ程威力が増すことになるのか……


「それ以前に、わたくしは普段から無意味にモード切替をしておくつもりはありませんわ。

 理由は……お話せずとも分かりますわよね?」

「あ、ええ、まぁ……」


理由……まあそれは当然、アリーチェさんの『魔力値』によるものだろう。

彼女の『魔力値』はたったの500。

この制服の機能に使われる魔力は10未満とはいえ、無駄遣いをする余裕などないだろう。


そう考えると僕もそれに倣った方がよいかもと思い、僕は両側の襟の模様を同時に押して制服を元の状態へと戻した。


「でも、この制服の機能を使えば僕達もっと強くなれますよ!

 それに僕の課題だった体力問題にも少しは解決に近づくかもしれませんし!」

「わたくしとしてはこういった借り物の力に頼りきりになるのは余りオススメしませんけどね。

 まぁ、使えるものは使わせていただくつもりではありますが―――」


「きゅっきゅるきゅーーーーっ!!」


―――ドッッッポン!!


「うおわぁっ!!」


「またこの水ようかんは……!」


もはや様式美のように僕とアリーチェさんとの会話を裂くように僕に抱き着いてきたのは――


「フィルーー!!

 僕もセーフク着てみたよーー!!

 ね!ね!どう?どう?」


言わずもがな、勇者学園の制服に身を包むスライム魔王、キュルルである。


「う、うん。

 似合ってるよ、キュルル」

「えへへー!

 きゅきゅるー!」


お世辞ではなく、本当に似合っていた。

通常時の白色の制服と漆黒の身体のコントラストはアンバランスに見えて意外にも芸術品のような美しさがある。


「ねぇ見て見てー!

 この服ねー、前側が開いてマントみたいにすることが出来るのー!」


そう言いながらキュルルが服の内側から両腕をバッ!と広げると、襟だけを残してまるで制服が両断されたかのように左右へと割れた。

キュルルの言葉通りさながら白いマントのようだ。


「それにこの首の所がビヨーンて伸びるからボクの身体の形を変えるのに邪魔にならないんだよー!」

「へぇ……キュルル用のオーダーメイド品なのかな」

「マジックアイテム開発局の方々もこんな仕様を言い渡されてさぞ困惑されたでしょうに……」


しかし……こうしてキュルルが服を着ると今までの何も着てない状態の時がちょっと気になり始めてしまう……

しかも……今の制服をマント状にしてる状態だと、その……


「まるで全裸にマントだけ羽織ってるような感じがして非常に倒錯的ですね」

「ファーティラさん。

 勝手に僕の脳内台詞に割り込まないでください」


なんか勝手に得心がいったとでも言うようにうんうんと首を振るファーティラさんに軽くイラっとしてしまった。


「フィルも似合ってるよー!

 ボクとおそろーい!

 きゅっきゅるー!」

「全生徒おそろいに決まっておりますでしょうにこの寒天脳味噌は……」

「きゅらあああん!?」

「ああもう2人とも落ち着いてぇ……!」


「おいオメェら、んなことよりさっさとコーディス先生の言ってた場所に移動した方がいいんじゃねぇか」

「ああ、そうだよな……浮かれてばかりもいられねぇや。

 なにせこれから……」


そう、これから僕達は……

魔物の生存圏、大陸西側へと赴くのだ……


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


《 校舎南側森林地帯・『(ゲート)』前 》


「そろそろ生徒達が集まってくるころだろう。

 装備品などの最終チェックを急いでくれ」

「「「了解です!」」」


森林地帯の奥地に存在する長大な壁……

その一画に設置された巨大な扉の前にいる数十人の講師陣、そして外部より集められた大陸西部調査隊の集団がコーディスの声掛けに応える。


そこにアリエスが駆けつけた。


「コーディスさん。

『彼』が来られました。」

「そうか、間に合ったか。

 正直今回は諦めることも視野に入れていたよ。

 ちなみに昨日の今日でどうやってここまで?」


「………『あの人』に……

 『運ばれて』きた、とのことでした……」

「ああ、それはまたお気の毒に。

 相当な恐怖体験だったろうね」


「貴方が連れてくるように頼んだのでしょうが……」

「『出来れば』と付け加えてはいたよ。

 まあ『あの子』は大概が『出来て』しまうのだが」


はぁ……と溜息をつきながらアリエスは改めてコーディスに声をかける。


「随分と性急ですね。

 大陸西側での学園活動は生徒達の基礎能力の判定をしっかり行ってから……最低でも活動開始から1ヵ月は先のことになるという想定でしたのに」

「散々話はしただろう。

 例のゴーレムの件については君も聞き及んでいるはずだが?」


「それよりももっと前からですよ。

 あの制服を早急に、せめて今の人数分だけでも仕上げて欲しいと開発局に頼み込んでいたらしいじゃないですか。

 活動初日から……つまり、アリスリーチェさん暗殺未遂事件があった日から」

「…………………………」


「コーディスさん、貴方は一体どこまで知っていて、どこまで見据えて行動を起こしているのですか……?」

「何も分かっていないし、何も見えてはいないよ。

 ただ――――」


コーディスは巨大な扉を……その向こう側を見つめながら呟いた。



「私はもう、何もしないままに後悔はしたくないだけさ」



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