第6話 僕とプレゼント
そして、一夜が明け……
「きゅるぁ……!
昨日の夜はまた性懲りもなくこの巻貝女が……!」
「その台詞そっくりそのままお歳暮を付けてお返ししますわ……!」
………広場へ向かう道すがら、キュルルとアリーチェさんが額を突き合わせ、睨み合っていた……
まあはい、昨日も例によって2人のいつものアレが起きましたとさ。
なんとかアリエス先生に目を付けられる前に終息させたけどね……
「ああ!あれがお手紙に書かれていたお姉さまとキュルルさんの大抗争!
わたくし、生で見れて感激でしたわー!」
そんなことを言いながらスリーチェが僕らと一緒に歩いている。
いや見てないで止めて欲しかったんだけど。
「寮内で夜通し乱痴気騒ぎ……これぞまさにパリピ……
私には到底到達できない境地………」
「いや全然違いますからね」
プランティさんの小さな呟きも見逃さずに僕は突っ込んだ。
………なんか僕の負担増えてないコレ?
そんな一抹の将来の不安と共に僕らはいつもの広場へと向かうのであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「さて、それではまず新しく入学した生徒達には模擬戦を行ってもらう」
そんなコーディス先生の宣言に新しい入学者達からざわめきの声が上がる。
いやまあ、ざわめき自体はコーディス先生が登場して巨大蛇にぐるぐる巻きにされた姿を目にした時から既に上がっていたのだけれど。
まるで以前の僕達のようだ。
懐かしいなぁ……などとほんの一週間だけなのにどこか先輩風のようなものが思わず出てしまっていた。
今日からの学園活動は僕達先行組と新しい入学者組へと分けられ、それぞれ別々の活動を行うこととなった。
新しい入学者組は初日の僕達と同じく実力判定のための模擬戦を行うようだ。
その後コーディス先生による模擬戦の意図などの説明があり、新しい入学者組は模擬戦を行う為の場所へと移動していった。
「お姉さまー!わたくし頑張りますわー!」
移動際にスリーチェからそんな声が上がり、「あまり無理をなさらないでくださいねー!」というアリーチェさんの返事と共に僕達は彼女を見送った。
そして、彼らが移動し切った後、改めてコーディス先生から僕達先行組へ本日の活動内容が言い渡されることになる。
一体今日はどんなものになるのだろうか……?
「さて、君達に今日の活動内容を伝える前に、一つプレゼントがある」
プレゼント……?なんだろ?
と疑問に思っていると、コーディス先生の後ろからアリエス先生やダクト先生が箱の詰まれた荷台を押してやってきた。
………何故かアリエス先生は自身の身体を覆うようにローブを被っていた。
すっげぇ気になるんですけど……
そして、その箱が開けられ、中に入っていたものを僕達生徒に先生達が手渡した。
それは、袋詰めにされた服だった。
白色を基調とした、襟などにシンプルな装飾が施されたものだ。
これって……もしかして!?
「以前にも言っていたこの学園の制服だ。
その時は一ヵ月も経った頃に、と話していたが君たちの分だけは早めに仕上げて貰ったんだ」
わあ……!この学園の制服……!
僕は思わず目を輝かせて手に持ったそれを見つめた。
あれ、そういえばその話が出た時『調整』がどうのこうのって言ってたような。
「さて、その制服だが実はある機能がついてある。
アリエス先生、実演を頼む」
機能?実演?
と、僕らが?マークを浮かべていると、アリエス先生が前へと来る。
そして―――
―――バッ!
「おわっ!?」
ローブを取り払ったアリエス先生は……僕達がたった今渡された制服に身を包んでいた!
そんなアリエス先生の顔はほんのり赤くなっている。
成人している自分が生徒の制服に身を包むことに羞恥を覚えているのだろう。
しかし、どこか清楚さを感じさせる白い制服はしっかりとアリエス先生に似合っており、何も知らなければこの人がこの学園の生徒であると言われても何ら違和感のない仕上がりとなっていた。
「本当はリブラ先生が立候補していたのだが実の母親が自らの教え子の制服を着るという光景にとても耐えられないということで、彼女がその身を犠牲にして阻止したという経緯があるよ」
コーディス先生が聞いてもいない補足説明を添えてくれた。
アリエス先生はもはや言葉も発さずプルプル震えるだけであった……
あのもう見てられないんで早く次進んじゃってください。
「では、早速実演に移ろう。
アリエス先生、まずは《ブルー》から」
「はい」
ブルー?
そんな僕らの疑問を尻目にアリエス先生は襟の左側にある青い宝石のような模様に手を触れた。
そして、その模様を押し込むような動作を見せると―――
―――キィン……
何処からか、鐘のような甲高い音が響いた。
そして―――
―――シュオオオオオ……!
「わあっ!?」
僕だけでなく、周りからも驚きの声が上がった。
アリエス先生が来ている制服が……一瞬で青色へと変貌したのだ!
「これって……!」
僕はその変化に、かつて目にしたあの勇者様の魔法を想起した。
「これがモード《ブルー》そして……」
アリエス先生が今度は襟の右側の赤い宝石の模様を押し込む動作を見せる。
そして再び甲高いが鳴り―――
―――シュオオオオオ……!
今度は制服が赤色へと変わる!
「これがモード《レッド》。
見ての通り左右の襟の模様を強く押し込むことでモードを入れ替えることが出来る。
元の状態に戻すときは2つの模様を同時に押し込んでくれればいい」
アリエス先生がコーディス先生の言葉通り襟の模様を両手で押し込むと、制服は最初の白色へと戻った。
い、今のは一体……!?
「この制服は王都のマジックアイテム開発局の技術の粋を結集したもので、モードを切り替えることにより身体能力、戦闘能力を向上してくれるんだ。
《ブルー》の時は移動能力が、《レッド》の時は攻撃能力が上がる。
ちなみに《レッド》の攻撃能力上昇は単純な肉体による攻撃と魔法による攻撃、どちらにも適用される」
す、凄い……!
今の実演と説明だけで僕はもう今すぐこの制服を着たくてしょうがなくなってしまった……!
「これは着ている者の魔力を用いて能力を上げるものなのだが、当然あまりにも能力を上げ過ぎると相応の魔力を持っていかれてしまう。
能力が向上してもそれで魔力が枯渇してしまえば本末転倒だろう。
それゆえ君達に渡した制服は用いられる魔力をかなり落としている。
数値にすれば10未満といった所だ。
その分能力の上昇もささやかなものになってしまうが、それでも十分君達の行動の役には立ってくれることだろう。
前に言っていた『調整』とはこの機能のことだ」
そんなコーディス先生の説明が思わず耳の中を素通りしてしまいそうな程、今の僕は興奮していた。
ああもう早くコレ着たい!
もういっそのことこの場で着替えちゃおうか!?
僕の思考がそんな危険域に近づいている中――
「さて、それでは改めて本日の活動内容の説明に移ろう。
まずは一旦部屋に戻りその制服に着替えて来てくれ。
そして校舎南側の森林地帯、その奥地まで集合して欲しい」
「えっ?」
そのコーディス先生の言葉が僕の耳を打った。
校舎南側の森林地帯って……もしかしてアリーチェさんの暗殺未遂が起きた場所の?
たしかまだ未開拓の部分があって立ち入りが禁止されているんじゃ……
「その森林地帯から大陸西側に抜けられるようになっている。
そこが今回の君達の活動場所だ」
「…………………………え?」
大陸西側………
それはつまり………
魔物の……生存圏!!!
「そう……本日より君達には……
魔物の討伐活動を行ってもらう」