第8話 アルミナと大瀑布
―――ピキキキキィ………!
水晶ゴーレムの全身に付いた傷が古いものから順にどんどん再生していく。
アルミナは、軋みを挙げる程に双剣の柄を握った。
「さ、せ、る、かああああああ!!!!」
完全に再生し切る前にゴーレムの身体を削り切ろうと、裂帛の叫びと共にこれまで以上に力を込めて剣を叩きつける。
だが―――
「くっ!!再生が、早い!!!」
そう、ゴーレムの再生は凄まじいスピードだった。
今はアルミナが傷つけるスピードの方がギリギリ早いが、このままでは埒が明かないことは明白だ。
無限の体力を持つアルミナならこのまま斬り続けることは不可能ではないが、どれ程の時間が掛かることになるか、考えたくもなかった。
「もっと力を込めてより深く傷付けることは可能だが!!
これ以上となると、コイツを吹き飛ばし過ぎてしまう!!
吹き飛ばしたコイツを追いかけている間に再生されてしまえば本末転倒だ!!
うーーん!!あちらが立てばこちらが立たず!!」
割と余裕そうな台詞を吐きながらも、アルミナはこの状況を打破する方法を考えた。
「吹き飛ばす……?
あっ!そうだ!!!
『アレ』を試してみるか!!
ブラックネス・ドラゴンを想定して練習していたが、結局出番のなかったあの技を!!!」
その言葉の直後、アルミナは即座にゴーレムの股下へと潜り込んだ。
そして―――
―――ガッッッキィィィィィイイイ!!!!
真上に向けて、渾身の力を込めて剣を叩きつけた。
すると―――
10メートルはある巨人の身体が―――
上空へ浮かび上がり―――
「さあ!!!
食らうがいい!!!
天空へと昇る大瀑布!!!」
その両腕の双剣の切先を、空中のゴーレムへと向けた―――
「《スカイフォール・カタラクト》!!」
それはさながら、下から湧き上がる『突き』の流星群であった―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
―――ガギギギギギギギギギィィン………!!!
「な、なんだアレぇ!?
ゴーレムが……突きの乱打で………!!
空中に、留まり続けてる……!!??」
「ああ、懐かしいなぁ。
確かスクトが仲間になる前に練習してた技だよ。
もし《ルビー》のパワーでも一撃で倒せない敵が出てきたらどうしようか、なんて話があってね。
ブラックネス・ドラゴンとか凄い硬いらしいし。
で、考え付いたのがアレ。
上空に向かって敵をかちあげて、突きのラッシュで相手を閉じ込める、っていうの。
通常の強化状態で何度も大型の魔物相手に試してたんだけど………
その度に周りが魔物の血と臓物でえらいことになって仲間からは大不評だったんだ。
しかも結局ブラックネス・ドラゴンは大戦で出てこなかったというね」
「僕、今までもっと早く皆さんと仲間になりたかったって思ってたんですけど!!
たった今、後から仲間になって心底よかったと思うようになりました!!」
10メートルの巨体が空中に浮かび上がるというあまりにも現実離れした光景にスクトは思わず頬をつねり掛けてしまう。
あの勇者の規格外加減は散々見せつけられてきたというのに……
―――ギャキギキギャキキィィ……!!
そして、そんな空中に縫い付けられたゴーレムの輪郭が、徐々に崩れてくる。
これまで吹き飛ばしてしまうことを理由に躊躇っていた本気の剣戟を全身に食らい続け、ついにゴーレムの再生速度が追いつかなくなったのだ。
ゴーレムがその剣戟から逃れようと空中で身をよじるも、もはや何の意味もなかった。
「と、とにかくコレで決着ですね!」
「うん、このままいけば、後1分もしない内に消滅―――あれ?」
ウィデーレが言葉を途中で切った。
「ど、どうしたんですか?」
「ゴーレムが………急に崩れなくなった」
「えっ!?」
その言葉に、スクトもゴーレムへ改めて目を向けた。
「ほ、本当だ……!
ど、どうして……!?」
ウィデーレの言う通りであった。
ゴーレムは腕や足が無くなりつつあり、その形状は既に人型とは呼べないほどまでに崩れていた。
だが、それ以上が崩れない。
アルミナの剣戟の速度も威力も、一切落ちていないにも拘わらずだ。
つまり……ここにきて、ゴーレムの再生速度がアルミナの剣戟と拮抗し始めたのだ。
「もしかして………あのゴーレム………
動きを止めると、再生速度が上がる……?」
「ええっ!?」
スクトはゴーレムを凝視した。
確かに、先程までは剣戟から逃れようと身をよじっていたゴーレムが、今は全くと言っていい程動いていなかった。
「動くために使うエネルギーを再生に回すことで、その速度を飛躍的に上昇させることができる……ということなのかもしれない」
「そ、そんなっ……!!」
あのゴーレムは動きを止めさえすれば、アルミナの《ルビー》のパワーですら破壊が出来なくなる。
それはつまり……どんな方法を用いても、あのゴーレムは破壊不可ということだった。
「まぁでも、あのコがあそこでああしていれば、とりあえず無力化は出来たってことになるし、ここはコレで妥協しておこうか?」
「うおおおおおおおい!!!
聞こえてるぞウィデェェェェェェレ!!!!
それは私がここで永遠にコイツをかちあげ続けなければいけないってことかあああああああああ!!??
そのうち私は考えるのを止めるぞ!ジョジョーーーーッ!!」
「いや誰だよ!」
スクトは律儀にツッコんだ。
「あーーーもーーーー!!!
こうなったらもう『奥の手』使うぞ!!!
ウィデーレ!!いいな!!!」
「え……?
『奥の手』……?」
「アルミナ。
それはなんとか使わずに終わらせられない?
ここらはまだ調査が完全に済んでないんだけど」
「えっ?」
「《ルビー》でダメならしょうがないだろう!!
お前だってこの『奥の手』を使うことを想定してスクトを呼んできたんだろう!?
ならさっさと諦めろ!!」
「えっ?えっ?」
「はあ………
仕方がない……かぁ……
あーあ……………」
「あの、ウィデーレさん?
一体今から何が―――」
「スクト。
『超』高等防御魔法、お願いね」