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第19話 僕と君と、僕と貴女と、君と貴女と、僕と勇者への道


その後の顛末を軽く掻い摘むと……


僕達は森へやって来たコーディス先生達にここまでのあらましを説明し、アリエス先生の治療を受けた。


アリスリーチェさんは魔力の枯渇によっていつ気絶してもおかしくない状態だったらしいんだけど、今まで気力で踏ん張っていたようで、治療が終わったら眠る様に気を失ってしまった。

命に別状はないとのことで本当に良かった。

僕の爆発魔法による傷もあっという間に治してもらった。

流石は『上級魔法師』といった所だった。


そして、レディシュさんの方はというと………


なんとか奇跡的に……本当に、奇跡的に一命を取り留めていた。


治療を担当したリブラ先生曰く、彼の高等爆発魔法は完全には成功していなかったらしく、また、爆発前になんとか威力を弱めようと魔力を抑え込んだ結果、本来のものよりもずっと規模は小さくなっていた、とのことだ。

他にも、得意系統の魔法には本人にも耐性があるんだとか、オリハルコンの鎧だとかのおかげで、どうにかこうにか命を繋ぐことだけは出来たそうだ。


ただ、治療があと一歩遅ければ間違いなく助からなかっただろう、とも言われており、リブラ先生が一緒にこの場にやってきてくれたのは彼にとって物凄く幸運だったことに違いない。


ちなみに――


「これを治療することが出来れば間違いなく『治療魔法師』として世界最高の存在だと胸を張って自慢できるレベルの怪我なんだけど、どうだいアリりん。

 挑戦してみないかい?

 多分一週間は焼肉食べられなくなると思うけど」


というリブラ先生の言葉をアリエス先生は笑顔で無視していた………


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


そんな治療がひと段落した後。

レディシュさんは王都の警備隊へと引き渡され、今後の処理はそちらへと任せることとなった。


そして、僕はキュルルが医務室で聞いたという、僕の『魔力値』とキュルルとの関係について聞き及んだ。


僕がその話を聞き終えるや否や、キュルルはとても申し訳なさそうに、涙を流しながら僕に謝罪をしてきたのだった。


「ごめんね、フィル………

 ボク……ボク………

 フィルの魔力、勝手に奪っちゃってた……

 僕の『力』、全部……

 元々フィルのものだった………

 ボク………ボク…………」


そのまま、キュルルはただただ嗚咽をこぼし、泣き続けていた……


「キュルル、泣かないで。

 僕に『魔力値』があってもどうせ宝の持ち腐れだったんでしょ?

 だったら、僕はむしろキュルルの力になれたことが嬉しいよ」

「きゅる……?フィル………?」


「僕さ、5年前君と別れた時、ずっと気にしてたことがあるんだ。

 僕には優しい村の皆がいるけど、君の周りには誰も味方がいない。

 君だけ、そんな厳しい環境に居続けなくちゃいけないってことが、ずっと心残りだったんだ。

 だから、僕の魔力が君のことを守っていたんだって思うと……

 僕は凄く、嬉しい気持ちでいっぱいだよ」

「きゅ……るぅ………っ!

 フィルーーーーー!!!!」


キュルルは僕のことを力いっぱい抱きしめ……というか傍から見たら僕が巨大なスライムに捕食されているかのようなビジュアルで、とにかくありったけの感情表現を見せたのだった。


そして、そんなキュルルが落ち着いた頃……

僕はレディシュさんとの戦いの最中に現れた……いや、目覚めた僕のこの『力』についてリブラ先生に話していた。


「ふむ、自らの意思によって武器……いや、調理器具に姿を変え、衝撃に対し重量を瞬間的に増加させる黒い物体か……

 間違いなく、フィーたんの体内に宿っているキュルルルンの欠片達だね

 おそらく、欠片達がフィーたんの魔法を最大限戦闘に活かせるように最適化していたのだろう」


僕の右手には件の『黒い包丁』が握られている。

剣身の無い木剣の柄を握り、僕が念じると、それは再び顕現したのであった。


「やはり私の『仮説』は正しかったか……

 いや、想定以上かもしれんな。

 形状を様々に変えられるのはまだしも、硬度まで相当なものだ。

 質量だけでなく密度なども操れるのか……?」


リブラ先生は『黒い包丁』を何度も触ったり、指ではじいたりと様々にいじくりまわしている。

色々な角度から見ようとしてあちこち動き回ったりと中々に忙しない様子だった。


「それにしても……どうしてこの木剣の柄から出てきたんでしょうかね?

 しかも、今の所これからしか出せませんし……」


僕は何度か掌に直接あの『黒い包丁』を出せないか試してみたのだけど、どうしても成功しなかった。

柄を握りさえすれば、簡単に出せるのだけど……


「ふむ……十分に調べたり検証したりしたわけでもないし、まだ正確なことは何とも言えないが……

 おそらく、君と君の体内のキュルルルンの欠片達が『同期』するのにその木剣の柄が媒体となっているのかもしれないな」

「『同期』?」


「ああ、君自身の重量を通常の状態に保つのにおいては、君は何も意識する必要はないが、キュルルルンの欠片達を体外へ放出し、自由に形を変えたり操ったりする為には君の意志をキュルルルンの欠片達に伝達させないといけない。

 しかし、ただ『こういう形になれ』と念じたところで欠片達はなんの反応もしないだろう。

 元々君の意志とは無関係に動いているのだからね。

 その欠片達が唯一反応するのが、その木剣だったのさ」

「この、木剣………」


僕は、木剣の柄を改めてじっと見つめる。


「5年前、キュルルルンは君との誓いの言葉と共に木剣の欠片を受け取った。

 その時の本体の強い思いは、君の体内の欠片達にも作用し、その木剣に対して強い『意志』を残した。

 そして、その欠片達の『意志』と君との『意志』が木剣を通して『同期』し、君の『力』として顕現した……

 なんて考えは、少しロマンチック過ぎるかな」


リブラ先生は「ふふっ…」と笑った。


この木剣に……僕と、キュルルの『意志』が……


「いずれにせよ、これで君は『勇者』への資格を得ることが出来たわけだ」


「えっ?」


僕は一瞬、リブラ先生の言葉の意味が分からなかった。


「勇者に必要な要素……『エクシードスキル』の発現が認められたのだからな」


「ええっ!!こ、これって『エクシードスキル』って呼んでいいんですか!?」


僕もよくは分かってないけど、『エクシードスキル』っていうのは、なんかこう特殊な体質とかの事を言うんじゃ……

いや、これもある意味体質によるものなのか……?


「『エクシードスキル』に明確な定義などないよ。

 未だ解明されきっていない人類の可能性……そんな曖昧なものでしかないんだ。

 まあ、だから本来は果たしてそれが『エクシードスキル』なのかどうか、というのを学園関係者全員で話し合って協議した末に、最終的にコーちゃんの決定の元『エクシードスキル』と認められる、といったプロセスがあるのだが……

 私が保証しよう。

 君のそれは間違いなく『エクシードスキル』だ。

 人間と魔物の奇跡の出会いの末に生まれた、紛れもない君の『力』だよ」


「これが……僕の……

 『エクシードスキル』……!!」


僕は柄だけの木剣と、そこから顕現する『黒い包丁』を掲げ、見つめた。


僕は……

『勇者』への資格を、手に入れた………!


僕の目の端には、思わず涙が浮かんでいた。


「きゅる……!フィル……!

 おめでとう……!」


キュルルが、そんな僕のことを、とても嬉しそうに祝福してくれる。


僕は、キュルルの方を真っ直ぐに見つめた。


「キュルル……ありがとう」

「きゅ?」


「君のおかげで、僕にこの『力』が生まれたんだ。

 キュルル………僕………」


僕は、笑顔で彼女に言った。




「あの日、君と出会えて……本当に良かった!」




「―――っ!!」


その言葉に、キュルルは涙を浮かべる。

そして、僕へ向かって――


「フィ――」



「少しよろしいだろうか」


……キュルルが僕に向かって飛びつこうとした直前のタイミングで聞き覚えのある女性の声が聞こえて来た。

この声は確か……


――ザッザッザッ……


声の方向へ振り向くと、そこにはアリスリーチェさんのお付きの人達が居て、こちらへと向かってきていた。

やはり、今の声は褐色肌の人……確か、ファーティラさんだっけ?のものだった。


先頭にファーティラさん、左側に小柄の色白の人……ウォッタさん、右側に東洋人の人……カキョウさんの2人が少し後ろにいる。

この人達がいるということは……アリスリーチェさんは!?

僕が彼女のことを聞こうとする、それよりも早く――


―――バッ!!!


「フィール様!!!誠に感謝致します!!!!」


ファーティラさんは僕に向かって膝をつき、感謝の言葉を述べてきたのだった。

斜め後ろのウォッタさんやカキョウさんも同様に膝をついている、というかカキョウさんに至っては土下座だ。


「主の危機に傍にもおれず、何も出来なかった愚かな我らに代わり、

 そのお命をお守り頂いたこと、我ら一同、心から……心からお礼申し上げます!!!」

「い、いやそんな……

 僕の所為でアリスリーチェさんにも無理をさせてしまいましたし、そんなお礼を言われるようなこと……」


「そして、今までの貴方様に対する大変ご無礼な態度、誠に申し訳ありませんでした!!

 貴方様がお望みであればこの命、如何様にでもして頂いて構いません!!」

「えっ!?いやいやいや!!

 そんなこと滅相も!!」


「もし我らの卑しい身体をお求めになられるならば何時でも言いつけください!!

 貴方様が御満足されるまで誠心誠意を込めてご奉仕を――!!!」

「うんちょっと一旦止まろうか!!

 とりあえず今すぐその口を閉じて頂かないと僕は非常に困るんですけど!!!」


普通に生徒達があちこちにいるんだよねここ!!


「ファーティラ……

 貴女はいつも感情が昂ると周りが見えなくなってしまいますのね。

 礼も謝罪もあまりに度が過ぎると却って迷惑でありましてよ。

 自重しなさいな」

「ハッ!?あ、アリスリーチェ様……!!

 も、申し訳ございません!!」


「あっ!アリスリーチェさん!!」


暴走するファーティラさんの背後からアリスリーチェさんが車椅子で移動してきていた!


「アリスリーチェさん!

 身体の方はもう大丈夫なんですか!?」

「ええ、アリエス先生のおかげで。

 ご心配おかけしましたわね」


アリスリーチェさんはもうすっかり回復したようだ。

本当に良かった……!


「フィールさん……

 わたくしからも改めまして、お礼と謝罪を申し上げますわ。

 わたくしの命を、その身を挺してお守りいただき、誠にありがとうございました。

 そして、わたくしの個人的な諍いに貴方を巻き込んでしまい、本当に申し訳ございませんでした」

「いえ、そんな、僕なんかよりアリスリーチェさんの方がよっぽど……」


アリスリーチェさんは僕に向かって深々と頭を下げる。

普段の強気な彼女の姿からは想像もできない光景だった。


「それに今回だけでなく、貴方とは出会った時から、失礼なことばかり言い続けていましたわね……

 重ね重ね、非礼をお詫び申し上げますわ」

「い、いや!そんなこと!!」


僕はアリスリーチェさんのその謝罪に、思わず声を上げてしまっていた。


「……貴方と初めて出会った時、わたくしは貴方に言いましたわね。

 貴方はここにいると死ぬと。

 貴方は『勇者』の器ではないと………」

「いや、それは……」


確かにそんなことを言われはした……

けど、それは僕の姿と『魔力値』を見れば仕方のないこと……


「まったく、自分の見る目の無さに呆れかえるばかりですわ……

 挙句、そんなことを言ったわたくしの方が死にかける始末……

 『勇者』の器でないのはどちらなのやら……」


アリスリーチェさんは「フッ……」と自嘲するように笑っていた。

後ろのファーティラさん達もこんな姿のアリスリーチェさんに戸惑いを隠し切れないようだった。


アリスリーチェさん………僕は………


「アリスリーチェさん、確かに貴女は僕にそんなことを言いました。

 でも、僕は覚えていますよ。

 僕が貴女にも負けない『勇者』になる、と言った時……

 決して馬鹿にすることなく、僕のことを真っ直ぐに見つめてくれたことを」

「………それは………」


「そして、最後に僕らは誓い合ったはずですよ」

「誓い………」


「僕らは、お互いに……負けないって!!」

「あ………」


僕はニッ!と笑う!


「強くなりましょう!アリスリーチェさん!!

 僕も!!貴女も!!!」

「………………っ!」


アリスリーチェさんは少し、顔を俯かせる。

そして、すぐにまた顔を上げた。

その顔には、もうさっきまでの弱気な表情はどこにもなかった。


「その通り、ですわね……!」

「ええ!!そうです!!」


アリスリーチェさんはいつもの、強気で、素敵な笑顔を見せてくれた。


「フィールさん………いいえ、フィル」

「アリスリーチェさん?」


アリスリーチェさんは僕を名前で呼んだ。


「アリーチェ」

「えっ?」


「親しいものには、『アリーチェ』と呼んでいただいておりますの。

 どうか貴方も、そう呼んでくださいな」

「……はい!わかりました!

 アリーチェさん!」


アリーチェさんは、僕のその言葉に、少し頬を染めたような気がした。


「そして改めて、貴方と誓わせて頂きますわ。

 わたくしは『勇者』になりますわ。

 貴方にも負けないくらいの!」

「はい!!僕も改めて!!貴女に負けないくらい、立派な『勇者』になってみせます!!」


僕とアリーチェさんは、お互いに笑い合う。



「フィル……

 貴方はわたくしの生涯最大のライバルであり……

 そして、わたくしは……!

 貴方の生涯最大のライバルですわ!!」

「は――――」
















「     は     あ    ???」















…………「はい!」と答えようとした時……

体も心も底冷えしてしまうような……

冷たく、重たい声がその場に響き割った………


声の方向に目を向けると……


「は? は? は? は? は? は?」


物凄くどす黒いオーラを出しながら焦点の定まっていない瞳で首をカクカク左右に傾けながらこちらへ近づいてくるキュルルの姿があった……


いや待って怖い。

マジで本気で怖い。

僕が今までに味わったあらゆる恐怖体験の記憶を全てを塗り替える程に怖い。


「えっと、今、なんて、言ったかな?

 生涯、最大の、ライバル?

 アナタが?ははっ、ウケる。

 ホントウケる。笑っちゃうよ。

 あははははははははははははは」


あの、ちょっと、キュルルさん?


「あのね、フィルはね、ボクと、戦うの。

 その為に、強くなるの。

 分かる?ボクの為に、強くなるの。

 ボクの為に、『勇者』になるの。

 生涯最大の、ライバルってのは、ボクなの。

 ボクのことなの。

 いい?そこ、勘違いしちゃ、ダメだよ?」


キュルルはアリーチェさんの正面に立ち、その顔を凝視している……

一方、アリーチェさんはというと、キュルルの言葉を受け、にっこりと笑い――


「……オニキスさん。

 アナタはいずれフィルと戦われるのでしょうね。

 幼き日の決着とやらを付けるために。

 しかし、決着が付けば、それでその関係はおしまいですの。

 『勇者』と『魔王』とは、そういうものですの。

 一方、わたくしとフィルはこの先の生涯、その一生全てを『勇者』になる為に、お互いに競い合い、研鑽し合い、認め合う。

 一過性のソレとは違う、お互いにお互いの人生に、深く、深く関わり合う尊い関係でありますの。

 アナタも、そこをどうかお忘れなきように」


いやちょっと待ってアリーチェさん。

なんか違う。

それなんか凄い違う気がするよアリーチェさん。


そして――――


「ふッッッざけんなキュらあああああああああああああああああ!!!!!

 その頭の巻貝引っこ抜いて壺焼きにしてやろうかあああああああああああああ!!!」

「アァァーーナタこそその身体氷魔法で固めて氷菓子として市場に売りに出して差し上げますわよおおおおおおおおおおおお!!!!」



―――ズォオオオオオオ!!!

―――バシュゥゥッッッ!!!



キュルルの身体から出た黒い魔物達に近くにいた他の生徒達が巻き込まれる……

アリーチェさんの指先から出た高圧水流で近くの木や校舎の壁が削られていく……


お付きの人達も加わり被害は更に拡大していく……




「それでは、我々はこれにて撤収しようか。

 マニーちゃん、今日は沢山動いて疲れたね。

 もう寝ようか」

「ふむ、ではまた後日改めて彼の力について検証しようか。

 では解散」


「もう私は何も知りません……」

「アリエス先生、言っとくけどアンタはぜってぇ諦めちゃ駄目だからな」









まあ、それはともかくとして……


こうして僕は『勇者』への資格を手に入れた。


これからが……

本当の、僕の勇者への道のはじまりだった―――


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