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第17話 僕と最も見慣れた刃物


「質量操作……」


リブラの発した言葉をアリエスがポツリと繰り返した。


「ああ、おそらくそれがフィーたんの得意系統の魔法だったんだろう。

 魔法を扱う才能はなくても、個々人の得意魔法そのものは誰にでも存在するはずだからね」


「きゅる……それで……

 フィルの『力』になるって……?」


キュルルは急かすようにリブラに先を促した。


「聞いての通りさ。

 フィーたんだけでは到底魔法を扱うことは出来ないが、体内のキュルルルンの欠片達と協力すれば可能となる。

 そこをなんとか利用できればあるいは、と思うのだが……」


リブラは一旦言葉を切った。


「自らの身体を通常に保つだけならばイメージも容易なのだろうが、実用的に使用するとなると、そうもいかないだろう。

 こればっかりは、彼が具体的なイメージを掴めるようになるしかないな」


「きゅる……」


結局のところ、フィル自身でどうにかしなければいけないのか……

キュルルは再び項垂れてしまった。


「まあ、彼は魔法に関するイメージは苦手なようだが、他の分野に関してはそうでもないだろう。

 そこらへんから応用が出来れば……」

「他の分野……?」


アリエスが疑問の声を上げる。


「例えば……」


リブラはポケットにしまってあった物を取り出した。

それは、フィルが医務室から出る直前、折角だからどうぞ、と渡した物……


キュルルンゼリーであった。


「料理とか」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「くそォああああ!!

 なんなんだその剣はああああ!!!」


レディシュさんが凄まじい形相で叫び声をあげる。

何かに当たった瞬間だけ重量が激増するという摩訶不思議な剣を目の当たりにし、ましてその攻撃をその身に受けてしまったのならば、その困惑も当然だろう。


僕自身、この剣のことなど、何一つとして……


「剣……なのか……?

 これ……?」


そう、確かにパッと見は大きめのナイフやダガーのように見えなくもない。


だが、改めてじっくりと見つめてみると、どうもそんな風には見えなかった。


この形状って――


「包丁、だよね……どう見ても……」


それは、間違いなく僕が生涯で最も見慣れた刃物であった……


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「そうだな、包丁とかならフィーたんも普段から握り慣れているだろうし、イメージも浮かべやすいんじゃないかな?」

「……包丁を握りながら戦うってこと……?」


なんだかあまり『勇者』とは言い難い絵面になりそうな……

アリエスは思わず半笑いを浮かべた。


「まあ、普通の調理用の包丁の重量を操れたとしても、すぐに砕けてしまうだろうけどね。

 彼の為に特注品を作ってあげたり、なんてことが必要となってしまうが……」


リブラは「うーむ…」と腕組みをした。


「フィーたんの体内に宿るキュルルルンの欠片達……

 これが何かしらに使えれば……

 もしかしたら……」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「でやあああああ!!」


また、あのガキの剣が来る!!!


俺は身体を捻り、ガキの剣から逃れようとする!!


――チッ……


何とか、かすっただけで済ん――!


――ゴァッッ!!

「ぐがああああああっ!!」


かすった、だけで……!

まるで馬車にでも、撥ねられたみてぇな衝撃がぁ……!!


「ふざ……けるな……!」


あのガキが剣を振り回す様は、まさしくそこいらのガキがギャーギャー騒ぎながら適当な棒っきれでも振り回すが如しだ。


そんなガキのチャンバラごっこで振り回される木の棒が……

俺に当たる瞬間だけ数百キロの鉄の塊へと姿を変える……!!!


そんな、そんなフザケたことがあっていいわけねぇだろぉがァアアアアア!!!!


「はああああああ!!」


また、あのガキが、来る……!


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


勝てる!!


この黒い剣……いや、包丁が一体なんなのかはさっぱり分からないけど、とにかく勝てる!!

このまま、あの人を無力化できれば……


と、僕がそんなことを考えた時だった。


「いい、加減に……!

 しやがれぇああああああ!!!」


彼が折れた剣を捨て、右掌をこちらへと向けた。


そして―――


「《ディレクティビティ・バースト》!!!」


その『魔法名』が唱えられると共に――


―――ボァッッッ!!!!


「―――っ!!!!

 あああああああああッッッ!!!!」



こちらへ向かって一直線に伸びてきた凄まじい爆発が、僕の身体を叩いた!!!


僕はまるで先程のレディシュさんのように、数十メートルは吹っ飛び――


―――ドッッッ!!

「がはあっ!!」


碌に受け身もとれず、地面に激突した……!!


「っ!!!

 フィールさんっ………!!

 フィル!!!」


朦朧とする意識の中で、アリスリーチェさんの声が響いた。

どうやら、彼女のすぐ近くにまで吹き飛ばされてしまったようだ……


痛い……

身体中が痛くて堪らない……!


僕は、何とか立ち上がろうとするけど、足や腕にうまく力が入らない……!


そうしていると――


―――ザッ……ザッ……


森の奥から足音が聞こえてきた……!


「クソがぁ……!

 傷の所為で……!

 狙いが、ズレちまった………!!」


左腕をぶら下げ、顔や鎧の隙間から血を流し、不安定な足取りでこちらへと歩いてくるレディシュさんはまるで幽鬼とでも見紛う様相だった……


どうやら先程の攻撃は直撃を避けていたらしい……

それで……この威力……!!


「だが……これでェ……もう……!」


彼が、再び右手をこちらに向ける……!!


僕は………!!!


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


今度こそ直撃させてやる……!

後ろのクソ貴族もろともなぁ……!


奴らのすぐ側は、俺が事前に『サイレンス・ストーンズ』の一つを配置していた場所だった。

このまま奴らを吹き飛ばせばソレも巻き添えになることは間違いない。

爆破の音は森の外へ漏れ、学園の連中に聞かれてしまうことだろう……


だが、もうそんなことどうでもいい……!!


どの道、この爆発魔法はこの学園の生徒内では俺ぐらいしか扱えないであろうことは明白なんだ……!

これでこいつらを殺しちまえば俺への疑いはもはや避けられようがない……!


だからもう……とにかくコイツらをぶっ殺せさえすればそれでいい!!!


「くたばりやがれェアアア!!!!」


俺は渾身の『魔法名』を唱える!!!


「《ディレクティビティ・バーストォアア》!!」


―――ッボアッッッッッ!!!!


俺の掌から放たれた、一方向へと伸びる爆破の衝撃は―――


「―――ッッッ!!!!」


―――ボッ!


奴らを、間違いなく飲み込んだ……!!!


―――ジュッ……!


そしてその爆破は、すぐそばにあった『サイレンス・ストーンズ』を消し飛ばす―――


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


《 校舎前広場 》


―――ッッッッ!!!


「うおっ!!なんだ今の!!」


「爆発!?いやでも、今の音……

 なんか変じゃなかったか!?

 なんつーか――」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「今の音……なんていうか、()()()()()()()()()()()()()()……

 みたいな感じでしたね……」


医務室の中にまで聞こえて来た奇妙な爆発音に、アリエスが疑問の声をあげた。


「………例えば、音魔法で周りを無音にしていたとして………

 その魔法が爆発によって破られた、としたら……

 こんな風に聞こえてくるのではないかな?」


コーディスが今の現象に即座に当たりを付ける。


「そ、それって……?」

「さあね。

 ただ、穏やかではなさそうということは確かだ」


医務室の中に緊張が走った……


「なぁ、そういやよぉ……

 あの坊主、すぐこっちに来るって話だったよな?

 明らかに遅くねぇか……?」

「まさか……

 フィル君が何かに巻き込まれて……?」


ダクトとアリエスが額に汗を浮かべ始める。


「今の音とフィーたんを結びつけるのも早計な気はするが……

 決して楽観視も出来ないね」

「きゅ、きゅるっ……!!

 ボク、ボク見てくる!!」


―――ダッ!!


「あっ、キュルルさん待って!

 わ、私達も行きましょう!」

「ああ。

 フィル君が関わるにしろ、そうでないにしろ、

 我々が出払わない訳にはいくまい」

「ふむ、私も行こう。

 これはただの勘だが、何か面白いものが見られそうだ」



こうして、この場にいた一同は全員が医務室を後にした―――


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