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第12話 キュルルの力とアリスリーチェの激昂


「きゅっきゅるーー!!

 フィルに呼ばれてきたよーー!!」


バーーン!!と思いっきり扉を開け放ちながらキュルルは医務室へと突撃した。


「ああ、待っていたよ。

 キュルルルン」

「キュルルルン!?

 それボクの事!?

 それだと僕の後ろの名前オニキススンになっちゃうよーー!!」

「いやその理屈はおかしい」


と、キュルルとリブラは初っ端から見ている者の頭を痛くするような会話をかまし、お互いの相性は良好といった所だった。

ちなみにアリエスはその光景を見て全てを悲観するかのように顔を覆っていた。


余談だが今のリブラはなんとか常識の範囲内と言える恰好をしている。

アリエスが相当説得に力を入れたようだ。


「あっ!!アリエス!!

 ここにいたんだーーー!!

 ぎゅーーーっ!!」

「ちょっ!やめっ!!

 ぎゃああああっ!!!」


キュルルはアリエスに思いっきり抱き着いた。

初対面の時にフィルのことを教えてもらってから彼女はキュルルのお気に入りの人間となっていたようだ。

もっともアリエスの方はブラックネス・ドラゴンをも従えるスライムに戦々恐々なうえ粘液まみれで大迷惑という完全に一方通行な親愛だった。


「本当に呪われているのかと疑いたくなる程の苦労人気質だね」

「アンタもその一因なんだよおおおお!!!」

「きゅるっ?コーディスもいるー!!」


キュルルの言う通り今この場にはコーディスの姿もあった。

相も変わらず巨大蛇に身体をぐるぐる巻き状態である。


そして更にもう1人……


「ダクトさん……!

 貴方だけが……

 貴方だけがこの場の希望です……!

 どうか……どうかこの私の負担をほんの一部でも受け持って頂ければ……!」

「いやちょっと勘弁してくれねぇか」

「きゅるー?アナタは……確か朝にフィルとお話ししてた人ー?」


ダクトとはあまり面識のないキュルルはフィルの模擬戦が始まる前に話していたのを少し見かけた覚えがあるという程度の認識だった。


「キュルルルン、フィーたんはどうしたんだい?」

「フィーたん?フィルのこと?

 うーんとね、なんか巻貝女の様子を見てくるとかで行っちゃった。

 話し終わったらすぐに来るって言ってたけど」

「巻貝女……ああ、アリチっちのことか」

「アリチっちて………」


反応するだけ無駄と分かっていながらアリエスは思わず口をついていた。


「それより、なんかいろんな人がいるけど、ボクに話があるんじゃなかったの?」

「ああ、私がアリりんに頼んで呼んだんだ。

 フィーたんの『魔力値』について、そして君の『力』についての推測を確信に変えるためにね」

「きゅる?ボクの『力』?」


フィルからは彼の『魔力値』について、という話は聞いていたが自分の『力』についてとは?

キュルルは『?』マークを頭に浮かべた。


「なあ、キュルルルン。

 君に聞きたいことは一つ。

 君はいつからその強さを身に着けたんだい?

 自分が強くなったと感じたのは、一体いつ頃からなのかな?」

「きゅー?えっと……」


キュルルは顎に手を当て、考え始める……

自分が、強くなったと感じた瞬間―――



「確か……フィルと別れた後……

 頑張って鍛えようって思った時には……

 ボク、結構強くなってる気がしてたっけな……」



その台詞を聞いて、リブラは完全に合点がいった、という顔になった。


「端的に言おう、キュルルルン」


リブラは椅子に座ったまま、身体をキュルルの正面に向けた。



「今の君の『力』の大本は………

 フィーたんによるものだ」



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「ずっと、貴女を………こうしたかった!!!」


マントの隙間から覗いた長剣は真っ直ぐ、アリスリーチェと向かう。


その切先が彼女の胸に突き立てられる――

その直前―――


――バッッッッ!!!!


アリスリーチェは前転で即座にその場から脱し、レディシュの真横へと転がり込んだ。


―――ザシュッ!!

「なにぃッ!?」


標的を失った剣先は彼女の座っていた椅子の背もたれへと突き立てられた。


馬鹿な、この女にこんな動きが出来るはずが――


そんな思考と共にレディシュは自身の真横へと避けたアリスリーチェに視線を移す。

そして彼は見た。彼女が口元に左手を添え、なにかを掴んでいるのを。

それは―――


「マジックハーブ!!

 口内に含んでいたのか!!」


道理で先程から何も喋らない訳だ―――!!


レディシュは即座に背もたれから剣を引き抜く。

そして、再びアリスリーチェへとその刃を突き立てようとした。


だが、それよりも前に――


右手人差し指を顔の前に掲げたアリスリーチェが言葉を発した。


「《エミッション・アクア》!!」


その『魔法名』を聞いた瞬間、レディシュの心の中には嘲りの感情が溢れた。


はっ!!

何かと思えばあのお遊び魔法じゃないか!!

そんなもので何を―――


その思考は途中で寸断された。


彼女が『魔法名』を唱えると共に、その右手人差し指を腕ごと横向きに一閃。

直後――


―――バシュッッッッ!!!


彼女が指をなぞった先にあった木々が、()()()()()()()()

そして、その軌道上に存在したレディシュはその場から後方へと吹き飛び……

そのまま動かなくなった……


アリスリーチェはよろよろと立ち上がり、左手に握っていたマジックハーブをその場に放ると、背もたれに傷の残る車椅子へふらつきながら座り直した。

そして、マジックハーブによる副作用に痛む頭を抑え、ぽつぽつと声を出した。


「児戯のような魔法も………

 使いようですわ………」


《エミッション・アクア》。

本来は少量の水を放出するだけの、とてもささやかな魔法である。

だが、『放出口』を極限にまで狭め、魔力が許す限りの最大速度で発射することにより、凄まじい勢いで噴き出す水は木々を軽々と切断するほどの威力を得たのだった。


「わたくしが出せる水の量では……

 どうしても近距離限定となってしまいますが……

 不届き者に天誅を下す程度は出来ますわ……」


アリスリーチェはゆっくりと呼吸を整え、頭の痛みが引くのを待った。


「さて……これからどうしましょうかね……

 結局あの便箋については聞けず仕舞い……

 それに、正当防衛とはいえ人一人の命を奪ってしまった……

 お父様に無理を言ってまで勇者学園に入学した矢先にコレとは……

 何にせよ、まずは学園側に報告しなくては……

 というか、これまだ動いてくれるのでしょうか……?」


アリスリーチェが『マジック・ウィルチェアー』の動作確認をしようとした時――


「まさか『魔力値』500の雑魚貴族様にこんな芸当が出来るとはなぁ。

 完全に油断したよ」


あり得ないはずの声を聴いた。

それは、先程、木々を両断する一撃を正面から受けたはずの男の―――


「クライアント様からの『サービス品』がなければ完全に死んでいたところだったなぁ」


その男は先程の一撃によりボロボロになったマントを脱ぎ棄て、再びアリスリーチェの前へと立っていた。

その身体は……頭以外を不思議な輝きを放つ金属によって出来た全身甲冑(フルプレートアーマー)に包まれていた。


それを見たアリスリーチェの瞳が見開かれる。


「それは……まさか……オリハルコン!?

 そんな、馬鹿な………!!

 手甲一つ分だけでも上級貴族ですら容易に手は出せない程の金額が動くとされている幻の金属の………フルプレート!!??」


アリスリーチェは目の前に存在する、存在してはいけないはずの甲冑に驚愕の眼差しを向けていた。


「イカレてるよなぁ。

 俺も初めて見た時は何の冗談かと思ったよ。

 出来ることなら持ち帰って家宝にでもしておきたい気分だ。

 ま、とてもおっかなくて出来ねぇけどな」

「……………今、クライアントからの『サービス品』と言いましたわね……

 一体それは、誰………!?」


未だ副作用の抜けない身体を懸命に支え、なんとか目の前の男から情報を聞き出そうとアリスリーチェは声を絞り出した。


「さぁな。俺はこの学園に入学する直前、ローブで顔を隠した男とも女ともつかない奴にこの鎧やら、例の便箋やらの仕事道具を渡されてアンタの始末を任されただけだ。

 あからさまに滅茶苦茶怪しい奴だったし、最初は関わり合いになろうとは思わなかったんだが、そいつは前金でこの街に住む奴らの一般年収5年分をその場で渡してくれたよ。

 俺も金に困って『魔法師』や『勇者』を目指してるクチだったしな。

 スカした貴族様をぶっ殺して金まで貰えるってんなら断る理由はなかったよ」

「くっ………!」


レディシュはベラベラとここまでの経緯を話し始めた。

とてつもなく軽薄な男であるがそれだけに内容に嘘は無さそうだった。

そのローブで顔を隠した人物とは……?


「まあでもよ、あの便箋の刻印は本物だったんだろ?

 それってつまり、『そういうこと』だろ」

「――っ!

 どういう……意味ですの……!」


アリスリーチェは、目の前の男をあらん限りに睨みつけた。


「別にお前ら貴族にとってはそう珍しい話じゃねぇだろぉ?

 後継者問題やら遺産分配やら……

 錯綜する身内同士での陰謀、策謀、潰し合い……

 全く恐ろしい限りだよなぁ」

「ッッッ!!!

 お黙りなさいッ!!

 貴様のような下郎が我がガーデン家をそれ以上侮辱することは決して許しませんわよッ!!!」


頭の痛みも忘れ、アリスリーチェは心の底からの怒りの叫びをあげた。


「おお、怖え怖え」


レディシュは肩に担いでいた長剣をアリスリーチェへと向けた。


「――っ!!」


それを見て、アリスリーチェも再び右手人差し指を掲げたのだった――



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