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第9話 僕とリブラ先生


「それでは、解散」


そのコーディスの宣言と共に、広場に居た生徒達は一斉にその場を離れる。

食堂に行こうとする者、まだこの場に残り個人的に模擬戦を続けようとする者、街へと出かける者など様々だ。


そんな中で、一人の生徒が立ち止まったまま、ある人物を見つめていた。

その生徒の名はレディシュ=カーマイン。

模擬戦を全戦全勝で終えた、間違いなくこの学園最上位の実力を持つ者であった。

その生徒が見つめる先にいるのは貴族の令嬢……アリスリーチェ=マーガレット=ガーデンであった。

先程、恭しく挨拶を交わした相手でもある。


「それでは、ファーティラ、ウォッタ、カキョウ。

 わたくしは一足先に部屋に戻っておりますわ。

 貴女達は昨日と同じ様に自由時間としなさいな」

「アリスリーチェ様……やはり我々の内誰か1人ぐらいはお傍にいた方が……」


「もう……何度言わせるおつもりですの?

 わたくしは部屋でお父様やお姉様、スリーチェへの書簡をしたためておりますのよ。

 特にお父様への書簡は単なる近況報告ではなく、ガーデン家の公式な活動記録でもありますのよ?

 もし貴女達が内容を見てしまえば、機密文書閲覧の罪になりかねないのはお分かりでしょうに」

「ですから、部屋には入らず扉の前で待機していれば……」


「お止めなさいな、全く……

 ガーデン家は確かに貴女達に『園芸用具』としての名を与えはしましたわ。

 でも、わたくしは貴女達とは一人の人間として接しているつもりですのよ。

 ですから、貴女達に過度に負担をかけるようなことはさせませんわ。

 貴女達もしっかりお休みなさいな。

 これは命令ですわ」

「あ……アリスリーチェ様っ……!!」

「うう…………!!」

「実に……実に恐縮至極に存じますっ……!!」


「心配せずとも、貴女達のことはこの『レゾナンス・ベル』でいつでもお呼び出来ますでしょう?

 もしもの時は頼りにしておりますわよ」

「はいっっ!!

 受信用のベルはいつでも、肌身離さずお持ちしております!!」

「わ、わたしも、お風呂の時でも、どこででも持っております……!!」

「私など胃の中に仕舞っており身体の内側から即座に信号を感知出来るようにしております!!」

「いやそれはお止めなさい。今すぐ」


「それではアリスリーチェ様、この『マジック・ウィルチェアー』にもう少し魔力を込めておきますね。

 ウォッタ!」

「はい……!」

「またですの?

 つい先ほど込めたばかりではありませんの」

「念のためです!操作盤の点検もしておかなくては!

 万が一にもアリスリーチェ様がお一人の時に魔力切れや故障が起きてしまうようなことは避けなければなりません!

 カキョウ!」

「承知!

 アリスリーチェ様、少しお時間を頂きます!」

「全く心配性ですわね……」



そんなやり取りを見終えると……

レディシュは薄い笑いを浮かべながらその場を後にし、校舎へと向かった。

そして、アリスリーチェと別れた際の台詞を思い出した。


『これからの貴女との学園生活、誠に楽しみしております。』


「ククク……

 そう、『今日』で終わる学園生活をな………」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「えーっと……ここを左に曲がって……」


僕はコーディス先生に言われた通り見取り図に従って医務室へと向かっている。

何度も言うがこの校舎は余りにも広すぎる………

ちょっとした……いや、もうはっきり迷宮と言ってもおかしくないだろう。

考えてみればここは『元』魔王城なのだから寧ろそれが正しいのかもしれない。

見取り図がなければ間違いなく迷子になっていることだろう……

一応要所要所で壁にマップと現在地が印されているのが救いだ。


そうして、何度かうろうろしながらも……


「ここだ……!」


僕は目的の場所へと辿り着いた。

学園の医務室、というイメージとはかなり離れている豪勢な扉の前。

物凄いへたくそな字で『医務室』とかろうじて読める看板が掲げられていた。

よし……!


――コンコン……!


僕は扉をノックした。

すると―――


『あっ、来ちゃった!

 えっと、フィル君ですよねー!

 あのー、ちょっと待ってくださーい!』


と、中からの声が聞こえて来た。

今のは……アリエス先生かな?

そういえば目的の人はアリエス先生のお母さんって話だっけ……


そんなことを考えていると―――


『いや、別にもう入っても構わないぞ』


という別の女の人の声が聞こえて来た。

『ちょっ!お母さん!』というアリエス先生の声が続けて聞こえてくる……


今のが、リブラ先生の声……?

アリエス先生のお母さん、って割にはかなり若々しい声に聞こえる。


扉の奥ではその2人の女性の声が言い争う声が聞こえてくる。

『いやダメでしょ!もっとちゃんとした――』

『別にこれでいいだろう、これ以上は面倒――』

などという内容だけど、これは、どうしたらよいのか………


少し迷ったけど……とりあえず扉をちょっと開けて、中の様子を(うかが)ってみようか……


そう決めた僕は、ドアノブに手をかけ、捻る。


――カチャ……


そして、少し開いた扉から顔を覗かせ―――


「あのー……コーディス先生に言われて来ました。

 フィル=フィールで――――うわわあっ!!??」


その中に居た人物を見た僕は思わず声を上げてしまった。


部屋の真ん中で質素な椅子に座っている女性……

おそらく彼女がリブラ=スターリィなのだろう。

彼女の他にはその近くに立っているアリエス先生以外誰の姿も見えない。


そしてそのリブラ先生の格好はとんでもなかった。

まずリブラ先生の身体のスタイルだけど、物凄いナイスバディだった。

その豊満な胸は多分アリスリーチェさん以上はあり、今まで出会った女性の中で最大級だ。

その上半身は非常に薄着で、お医者さんがよく着ているような白いスーツの第2、第3ボタンがかけられているだけで、間違いなくそれ以外下には何も着ていない。

そのはち切れそうな胸元がちょっとしたことでこぼれ落ちそうで、なんかもう非常に危うい。

更に下半身に関してはこれまたとても豊満なヒップであり、それがピッチリとしたスパッツ一枚だけしか履かれておらず、ふとももから先は完全に素足だ。


つまりは……もしこのまま街にでも繰り出せば100%注目を集めざるを得ないような恰好でいたのだ。

平たく言えば痴女だった。


っていうかこの人ホントにアリエス先生の母親!!??

一体歳いくつなの!!??


リブラ先生の顔立ちはとても端正であり、皺ひとつ見当たらない。

オシャレに関しては完全に無関心なのか、黒色のかなり強い癖っ毛がボサボサのままに腰のあたりまで伸びきっていた。

しかし、そんな姿でさえファッションとして成立してしまいそうな美麗さが彼女にはあった。


総じて……とても成人女性を子供に持つような年齢のお人には見えなかった……


僕があまりの光景に顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせていると――


「おお、待っていたぞ。

 入りたまえ」

「ああ、もう……

 ごめんね、フィル君……

 すぐに話は終えさせるから……」

「え……ええっと……」


そんな2人の女性に促され、僕は戸惑いながらも部屋に入る……


すると、リブラ先生が椅子から立ち上がり、僕の目の前までやって来る。

うおお……!近くまで来られるとその胸元がより危うい……!!


「あ、あの……?」

「どれ」


―――スッ……


「えっ!うわっ!!」


リブラ先生は特に何も言わず、僕の脇の下へと手を回し――

そのまま僕を抱き上げた!


「あっ!あのっ!?」

「ふむ、軽いな。

 見た目通り……いやむしろそれ未満か」

「ちょっと!お母さん!?」


アリエス先生の声を尻目にリブラ先生はまるで幼子に高い高いでもしているかのように僕を抱え上げる……

は、恥ずかしい……

というか、特に苦も無く女の人に抱え上げられている事実に軽くへこむ。


「ふむふむ、ありがとう。

 突然すまなかったな」


そう言いながらリブラ先生は僕をおろしてくれた。

い、一体何を……?


「まあ、とりあえずあの椅子に座ってくれ。

 詳しく話を聞きたい」

「ご、ゴメンね、フィル君……」


アリエス先生が遠慮がちに声を掛けてきてくれる……

この母親(?)からこんな気遣いの権化が生まれてくるのか……


僕はリブラ先生に言われた椅子へと座り、彼女は僕の正面へと座り直し、お互いに正面から相対する形になった。


「さて、それでは早速だが……」


僕は思わずゴクッ、と喉を鳴らした。

そう、今から行われるのは僕の『魔力値』についての話。

アリエス先生達を騒然とさせたあの検査の結果には一体どんな理由が―――!





「君、うんこした?」

「いきなり何の下ネタァ!?!?!?!?」




僕は渾身の叫び声を上げた。


「おっ!お母さんっ!!!!

 そうじゃないでしょおっ!!!」

「ん?ああ、すまない。つい結論を急いでしまった。

 じゃあ、改めて君についての話を聞かせてもらおう」


いやもうなんか、これから先の会話に不安しかないんですけど。


「既に話は聞き及んでいるが……

 改めて君の過去について、君の口から聞いておきたいんだ。

 よろしいだろうか?フィーたん」

「は、はい、わかりま――――

 フィーたん?

 フィーたん!?!?!?!?」


僕はバッッ!!とアリエス先生の方へと目を向ける!!


「フィル君………諦めて………

 そういう人なの………」


アリエス先生はまるで悟りを開いているかのような、全てを諦観しているかのような、とても澄んだ瞳をしていた………


「全く大げさな反応だな。

 私はただ私が呼びやすい呼び方をしているだけなのに。

 なあ、アリりん」

「……………………………………………………」


アリエス先生の目から一筋の涙が流れ落ちた気がする……………


この人………苦労人気質が過ぎる……………



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