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第8話 僕と貴女と思うところ


その後、模擬戦はつつがなく進行した。

広大な広場で数千人の生徒達がこの日の活動時間全てを活用して戦い合い、実力を見せ合い、互いの技をぶつけ合った。


「きゅるっ!!きゅるるーーっ!!!」

「ぐあああっ!!」


「そこまで。

 勝者、キュルル」


「きゅっきゅるーー!!」

「ぐうっ……くそおっ!!!」


「あの人、戦いの序盤は翻弄されてましたが、中盤からはしっかり対応出来てましたね。

 けど、終盤にはまたキュルルの動きに翻弄されてしまっていた……」

「オニキスさんがわざと『対応させた』のですわ。

 動きに慣れ、見切ったと思わせた所で動きを急変更する……

 単純な策ではありますが、相手の動きを見切る実力がある者程この行動を起こされた時の動揺は計り知れませんわ」


と、なんか強者ぶってアリスリーチェさんと試合観察なんてしてはいるが、僕らはこの日はもう1度も他の生徒と模擬戦を行ってはいなかった。

まあ、コーディス先生が言っていた通り実力判定にはアレで十分だよね……

碌に戦いもせずに偉そうに高みの見物を決めてる僕らに他生徒からのジトッ……とした目線も感じてはいるがアリスリーチェさんは全く気にしていないようだったので僕もそれに倣った。


そしてキュルルは、この日の模擬戦を全戦全勝で終えたのだった。


「やっぱり、キュルルがこの学園で一番強いってことなんですかね……」

「それは果たしてどうしょうかしらね……先程からオニキスさんに挑んでいるのは昨日のリベンジに燃える方々ばかりですわ。

 雪辱を果たすという気持ちが先行して冷静に戦えてるとは言い難い状態にありましてよ。

 彼らが普段の実力を発揮できていれば結果は違うものになるかもしれませんわ。

 それに、オニキスさんと戦っていない相応の実力者はまだまだおられましてよ。

 例えば……」


そう言ってアリスリーチェさんある方向を見始めた。

僕も彼女と同じところへと目線を向けると……


「ふっ――!!」


―――キィィン!!

「あっ――!!」


そこでは、赤い長髪の生徒が振り上げた剣が、相手の武器を弾き飛ばす音が響いていた。

そして――


「うっ――!?」


その剣先が、相手の喉元へピタリと押し付けられた。


「ま……まいった……!」


「そこまで。

 勝者、レディシュ」


「ふう、ご無事ですか?」

「あ、ああ……完敗だよ……」


赤髪の生徒は膝をついた相手に手を差し伸べ、気遣う言葉をかけていた。

なんとも爽やかな人だ。


「レディシュ=カーマイン……彼もまた、全戦全勝。

 それも相手から一切の傷を負わされることのない完全試合とのことですわ」

「あの人、入学挨拶前に見たことあるような……

 確か、魔力値が『20000』もあった人だっけ」


その時の他の生徒の会話によると『魔法師』候補でもあるらしい……

生身の戦闘であれだけの強さのうえ魔法の才能まであるなんて……

泣き言なんて言いたくないけど神様は不平等だなぁ……


そんなことを話していると、そのレディシュさんが僕らの存在に気付き、こちらへと歩を進めてきた。

どうしたんだろう、何か用でも……?

などと、疑問に思っていると、その人はアリスリーチェさんの前で跪き――


「お初にお目にかかります。

 私はレディシュ=カーマインと申します。

 ガーデン家の御息女、アリスリーチェ様であらせられますね?

 貴女のような方と共に『勇者』へ至る為の研鑽に努められること、感動の限りにございます」


と、実に恭しく挨拶の言葉をかけてきた。

そういえばアリスリーチェさんは物凄い偉い貴族の家の人だったっけ。

なんか当たり前のように僕と普通に会話してたからつい忘れちゃってたけど本来なら僕なんて知り合える機会すら生涯ありえないような立場の人だったんだ。


そんなことを考えていると、レディシュさんはアリスリーチェさんへと手を伸ばし――


「僭越ながら、もしお許しになられるなら……

 その御手に誓いを印させて頂いてもよろしいでしょうか」


誓いを印す……ああ、貴族同士とかお姫様と騎士とかでよくやるアレかぁ。


「貴様……」

「ファーティラ、この程度で騒ぎ立てるものではありませんことよ」

「はっ……申し訳ありません」


声を上げたお付きの人を制し、アリスリーチェさんは実に冷静だった。

やっぱ、貴族の偉い人ともなれば、絵本の中でしか見たことないような挨拶も日常的にこなしているってことなんだろうなぁ……

でも………


――じ~~………


………何故かアリスリーチェさんは僕の方を横目で見つめてきてる……

あの……なんです……?


「構いませんわ。

 そのようなささやかな願いを無下にするほど器量が小さいつもりもございませんもの」


そう言って、アリスリーチェさんは手の甲をレディシュさんへと差し出す。


「光栄の極みです」


レディシュさんはその手を丁重に取ると、目を瞑り、手の甲に口づけを交わした。

まさしくお姫様と騎士、って感じで絵になるなぁ……


――じ~~~~~………………


………だけどアリスリーチェさんは相変わらずこちらを無言で見つめ続ける……

顔は正面を向いているけどその目は僕の方向一点に向けられており、周りから見たらなんかもう違和感が凄いと思う……

あの………なに……………?


数秒後、レディシュさんは手を放し、ゆっくり立ち上がると、頭を下げた。


「私などの為に貴重なお時間を頂き、感謝の至りにございます。

 これからの貴女との学園生活、誠に楽しみしております。

 では、本日はこれにて」


そう言って、彼はこの場から去っていった。

はー……まさに紳士、好青年って感じの人だったなぁ……


それで……………………………


――じ~~~~~~~~~……………………


「あの、アリスリーチェさん……?

 先程から、いかがされましたでしょ――」

「フィールさん。

 今のを見て何か思うところはありませんでしたの?」


僕の言葉を食い気味にアリスリーチェさんは声を掛けて来た……


「何か、思うところ……と言われましても……その……?」

「ですから、わたくしの手を見ず知らずの男に気安く触れられているのを見て、何か思うところはございませんでしたの?」


いや『気安く』って貴女が許可したのでは……

という言葉は多分口に出さない方がいいんだろうな……


「えっと……その、なんというか、凄い絵になる光景でした――」

「ですから、貴方と対等な立場で『勇者』になる為の誓いを交わしたわたくしが、あのように手を取られ、あまつさえ口付けまでされている所を見て、何か思うところはございませんでしたの?」


……これじゃダメらしい。

うーーーん、なんて回答をすれば…………

あ!


「その、ちょっと、嫌な気持ちになっちゃいましたかね……」

「―――!!!

 そうですの!やはりそうでしたの!!」


お、上機嫌になった!

どうやらこれっぽい!


「ふふふ……!

 まあ、わたくしとしてもアレくらいの行為は日常所作の一つとはいえ、貴方がどうしてもあのような光景を見るのを苦痛と感じてしまわれるのであれば――」

「だって、あの人凄く強くて、まるで僕もアリスリーチェさんもその気になればケチョンケチョンに出来ちゃうような実力だ!って宣伝しているような感じですもんね!

 さっきの挨拶だって、いわゆる『強者の余裕』ってやつかもしれませんしね!!」

「――――…………………」


アリスリーチェさんはティーカップ片手に笑顔のまま佇んでいた。

うん、そうだよね、アリスリーチェさんは明らかに負けず嫌いな所があるし、強い人と接してる時は楽しさよりも悔しさの方が――


「《エミッション・フレイム》」

―――ボッ……

「うおわあああ!!

 炎の蝶がああああ!!」


アリスリーチェさんの生み出した炎の蝶が僕の身体スレスレを飛び回る!!!

いやなんで!!??


「いえ、別に、何も思うところなど無くて結構ですのよ、ええ、本当。

 わたくしとしても、貴方に何も思われずとも、特に何ともございませんでしてよ、ええ」

「いやあのちょっと!!

 ならコレ止めてくれませんかねええええ!!!??」


「きゅるーーーっ!フィルになにしてるのーーー!!

 このヘンテコ巻貝椅子張付き女ーーー!!」

「だぁああああれがヘンテコ巻貝椅子張付き――!!」

―――ボウッッッッッ!!!!!!

「ギャーーーっ!!!」

「「「あっ」」」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


そんなこんなで午後3時頃。


「さて、本来の活動終了時間は午後4時だが、本日はこのあたりで終えようか。

 まだ初日だし、君達もまだまだここの生活に慣れていないだろうしね。

 既に利用した者もいるだろうが、校舎入口すぐの場所に食堂がある。

 今日は早く開けておくので、今からでも自由に入ってくれて構わないよ。

 それでは、解散」


そんなコーディス先生の宣言と共に本日の学園活動は終わりを告げたのであった。


食堂か……僕も昨日チラッと見てみたけど物凄い広さだったなぁ……

あれで1階の内ほんの十分の一ほどしか使われていないというのだから驚きだ。


余談だが今の僕達生徒の部屋も全部が1階に存在している。

先生曰く5階まで生徒の部屋を用意しているとのことだが現在の数千人規模の生徒達は全て1階分の部屋で間に合っている……

改めてこの建物がどれだけ規格外の大きさかが身に染みる……


ま、それはともかく、夕食にはかなり早いけど、確かにお腹もすき始めている。

他の生徒達もそうしているようだし、僕も何か食べに――


「ああ、フィル君。

 ちょっといいかな」

「え?」


食堂へと向かおうとしていた僕へと声かける人がいた。

それは、コーディス先生だった。


「突然ですまないが、君に会って話をしてもらいたい人がいるんだ」

「話をしてもらいたい……?」


「ああ、君の『魔力値』に関することで、色々とね。

 君も気になっているのではないかい?」

「それは……まぁ、はい………」


その人に会えば、僕のあり得ない低『魔力値』の理由も分かる、ということなのか……?


「校舎の見取り図は持っているかな?

 その人は医務室にいる。

 この学園内における最高峰の回復魔法専門の『上級魔法師』だ。

 そしてアリエス先生の母君でもある」

「アリエス先生の?」


「ああ、名前はリブラ=スターリィ。

 彼女ならば、きっと何かが分かるはずだ」


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